
個人の意志は、どう企業を動かし、人をつなぎ、社会に好影響を広げていくのか――。その力を紐解く「Beyondカンファレンス2026」共創事例インタビューの後編です。
前編では、大学生たちの声をヒントに始まった移動する学びの場「Campus Everywhere」をもとに、挑戦の原点や共創のきっかけを伺いました。後編では、共創の課題をはじめ、企業人が企業を動かすために必要なことを探っていきます。
実績を積み重ねている株式会社ウニベルの横山真輔さん、協業する日本航空株式会社(以下、JAL)の上入佐慶太さん、ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社の濵田奈帆子さんから、どんな挑戦のヒントが得られるのか。インタビュアーの株式会社 電通PRコンサルティング・井口理さんが迫ります。
※個人と企業の意志が集まるandBeyondカンパニー(事務局:NPO法人ETIC.)による「Beyondカンファレンス2026」共創事例インタビュー記事です。
※インタビューは2026年3月に行いました。

※左から
上入佐 慶太(かみいりさ けいた)さん
日本航空株式会社 JAL社内ベンチャーW-PIT 能登復興事業ユニット 統括
濵田 奈帆子(はまだ なほこ)さん
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社 地域共創推進部 地域連携チーム
横山 真輔(よこやま しんすけ)さん
株式会社ウニベル代表取締役

井口 理(いのくち ただし)さん
株式会社 電通PRコンサルティング エグゼクティブフェロー
企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。数々のアワードの審査員を歴任。著書に「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」、共著に「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「PR4.0への提言 ~いま知っておきたい6つの潮流、実践すべき7つの視点~」。
※記事中敬称略
飛行機という資産と、学生ネットワークの融合。互いの強みを補完し合う共創の価値
井口:ウニベルの横山さんとENEOSリニューアブル・エナジーの濱田さん、JALの上入佐さんが共創する、都市と地方の大学生が自由に行き来する学びのプラットフォーム「Campus Everywhere」を中心にお話を伺っています。
上入佐さんは、これまでもご自身の活動が承認されてきたご経験があると思います。個人や企業の思いなど、うまく会社を巻き込めていると思われる点、もっとこうすれば推進力が高まるのにと思う点はありますか?
上入佐:JALは、コロナ禍以降、関係人口の創出に力を入れてきました。そのなかで、我々には飛行機という資産がありますが、大学生ネットワークの運営ノウハウを持ち得ていなかったので、「Campus Everywhere」の協業はそういった点でもありがたいです。
個人の思いが会社をどう巻き込めているかについては、会社としては、関係人口の創出とあわせ、移動を通じた関係のつながりをつくって社会課題を解決していくというミッションを掲げています。ただ、私としては、まだ事業目線での取り組みしかできていないようにも感じているので、まず社会課題の本質を捉えて、それが結果的にどうビジネスにつながっていくのか、そういったアプローチにより近づけていければと思っています。
横山さんは、「大学の教育がどうあるべきか」、「挑戦したいと思う学生たちが挑戦できない社会ってどうなのか」といった疑問を起点に、「Campus Everywhere」事業を形づくられていると思います。私は、これからは大企業もそういったアプローチであるべきだと思っていて、例えば、JALの社内ベンチャー制度という公式なチャレンジの機会を活かしながら、社会課題の本質への向き合い方を周囲に見せていきたいです。
経済的価値と社会的価値のポートフォリオを変える。同じ志を持つ仲間と目指す、社会実装へ
井口:「Campus Everywhere」では、最初に能登で学生を十数人ほど集めて、2024年9月、第一回目のフィールドワークが行われました。大々的に募集すればもっと大人数が集まったのでは?とも思いますが、やはり熱い思いを持った学生たちを口コミなどから巻き込んで、その学生たちをハブに人を動かす、という構想でしょうか。

横山:はい。誰を動かしたいのか考えたとき、チャレンジに乗りたい学生たちは、ファーストペンギン的な学生たちだろうと思いました。各地方には、信頼できる大学の学長や教職員の方々がいるので、皆さんに学生たちの背中を少し押してくださるようにお願いをし、募集を募りました。
能登で実施した第一回目のフィールドワークでは、口コミ、大学の先生たちの後押しで参加希望の学生たちが集まってくれました。その後、回を重ねながら、先輩や後輩、友人たちにも広がり、これまで累計200人以上の学生たちが出会っています。いい関係性も育っています。
井口:教育の機会を広げるために横山さんが企業の力を借りるとすると、どんなことを目指しますか?
横山:個人的には、まず意志でつながることが大事だと思っています。
会社では、協賛費の投資価値があるか、契約の必要があるか、階層を経た承認のプロセスが重ねられるなど、経済的な指標が重要視されてはいないでしょうか。
ただ、変革や文化の時代だともいわれているなかで、従来通りの承認プロセスで社会がよくなっているのか、考えさせられています。そのあたりのポートフォリオ(資産構成)を変える取り組みを大企業中心に取り組み、少しでも社会的な価値づくりを推進したほうが社会はよくなるのではないかと思うのです。そんな仮説を共有し、信頼し合える、同じような志と思いがある方たちとご一緒できたらと思っています。

思い通りに進まない組織の壁にもがきながら。泥臭く「やり続ける」企業人の等身大のもどかしさ
井口:濱田さんに伺います。どういう形なら企業を説得し、動かすことができると思いますか?
濱田:これまで地方創生の取り組みで、複数回こういった壁にぶつかってきましたが、私は企業のトップや経営者層の方々の判断が重要だと思っています。同時に、企業として言動が一致することはすごく大事だと思うので、今回の「Campus Everywhere」では、そのよりよい塩梅がつくれるように動きながら、社員たちや次の世代のモチベーションを保つことも大事に考えていきたいと思っています。
井口:上入佐さんは、より長い間、会社で働きかけをされてきたかと思います。一企業人として自分の思いから会社全体を巻き込むための、何かアドバイスはありますか?
上入佐:やり続けるしかないと思っています。私は、一種の成功体験のようなことがあって、コロナ禍以降の2021年頃から関係人口の創出について言動を発信するようにしていました。最初の頃はまだ反発もありましたが、2年後に、関係人口の拡大という項目が中期経営計画に取り入れられました。
また、大学生を対象にしたJALの「青空留学」の取り組みとあわせて、2024年からは能登で「Campus Everywhere」のフィールドワークを実施し、やはり最近発表された中期経営計画には社会課題起点の事業開発やウェルビーイングといった社会的要素が入りました。なんとなく2年遅れで自分の行動が形になって表れるという経験値を持っています。
一方で企業を巻き込み続ける難しさも感じ、昨年、自らの希望で部署を異動しました。それまでは事業部の中で地域事業を推進しようとしたのですが、どうしても事業部として販売する必要があるものを取り入れたり、単年度の収支目標を追ったりしなければならない現実がありました。
本質的な社会課題解決に結びつけるのには既存の完成されたビジネスとは違い、時間のかかるものですし、すぐに収支には反映しないこともあるのでこの環境では難しいと感じたのです。そこで、グループ会社の株式会社JAL航空みらいラボに出向し、調査研究員という立場から、これまでの経験を踏まえ、幅広い視点で地域活性や防災などと向き合えるポストに異動させてもらいました。
井口:本来は、社会課題の本質的なところを解決できればどんな未来が期待でき、最終的に企業にとってどんな良い影響が与えられるかを理解してもらうことが大事なのでしょうか。そういう意味では、学生が自分の思いを実現し、その成功体験を持って企業に就職していくことが大事なのかと。横山さんは、今後そういった学生をもっと増やしていくために、どんなステップをイメージされていますか?
横山:アプローチはいくつもあると思っています。大学の学長やトップ、現場に強い教職員など良さを活かしながら、実績を共に作り上げていくプロセスを各大学と丁寧に積み重ねる。意志ある大学の仲間を増やしていくことが大切だと思います。
学生たちは能登のフィールドワークのように、楽しい経験を重ねるたびにつながりが続いていく、その人数を増やしていくことも大事なアプローチだと思っています。

企業に関しては、経済的価値と社会的価値のポートフォリオ(資産構成)を変えることに一緒に取り組み、その場を広げていくことが大事です。いろいろな事情をくみ取りつつも、サステナブル、アニュアルレポートにどう書くかといったところから橋渡しをするという、ある種翻訳的な役割を僕たちがしっかりと担う。
「Campus Everywhere」の場合、企業、自治体、大学、大学生といった、この4者間が求めているものは異なっていると思います。僕たちは、間に入って翻訳し、「みんないい状態だね」と言えるようにしたい。お互いが教え合ったり、刺激し合ったりできる場を増やしたい。そうできるのが「Campus Everywhere」の良さで、実現していけるのではないかと思っています。そう思える場をとにかくつくり続ける。
大学で単位互換の公式事業化、そして国からの認定へ
横山:実は2026年4月から、石川県立大学で、「Campus Everywhere」の単位互換が正式な公式事業になることが決まっています。能登で学生がフィールドワークを授業として受けると、金沢大学や北陸大学など石川県内の大学で二単位もらえるという事業が公式化しました。こういった実績作りの場を共につくり上げていく。このプロセスが一番大事で、ひたすらやり続けることだと思っています。
上入佐:JALとしては、「Campus Everywhere」や「青空留学」の取り組みが、農林水産省で2025年に設立された制度「農山漁村振興への貢献活動に係る取組証明書」で、初年度の取得企業のうち1社に選ばれました。
JALとして地域に関わる意義は大きいですが、企業として地域に関わりたいと思ってもいわゆる“本業”と比べてしまうと短期的に成果を出しにくかったり、採算表上の議論では推進しづらい場面がどうしてもあると思っています。
そのため、国・省庁としての後押しや制度があると進めやすい。国が「継続的な貢献活動」として客観的に保障してくれる制度ができたことはとてもありがたく、社内での動きやすさ(説得力)につながると思っています。今回発行された「農山漁村振興への貢献活動に係る取組証明書」は、今後有効活用し、さらなる共創を推進していきたいです。

先行者利益ではなく、みんなで遠くへ
井口:今後、社会課題解決に取り組みたい個人や企業に向けてアドバイスがあればお願いします。
横山:僕自身は日々試行錯誤しています。ただ、最初の段階で、お互いどんな価値観を持っているのか、自己開示することは大事かなと思います。個人としてどう思っているか、企業としてこんな方向に進んでいくと考えているなど。そういったことがわかれば、スタートアップ側の自分たちができることをお話できると思うし、すり合わせていくことはとても大事だと思っています。
まずは、2024年「Beyondカンファレンス」(羽田)の「握手から、始めよう」のように、お互いの近い思いから手をつないでみる。具体的なアウトプットをイメージし合うことが信頼関係にもつながっていくのかなと思っています。

濱田:私は2025年「Beyondカンファレンス」(淡路島)に初参加しましたが、個人、企業、学生、たくさんの人が集まっていて、個人で参加する場だと感じました。いろいろな人の感情や景色など、自分がそれまで感じたことのない領域で、新しい自分に気づいてみようと入ってみたら、前進できるきっかけづくりになると思っています。
上入佐:世の中的に、いま、社会課題解決の取り組みはすごく追い風にあると思っています。2022年「Beyondカンファレンス」(鎌倉・テーマ「越境」)をきっかけに、関係人口創出プログラム「Japan Vitalization Platform(通称、JVP)」を立ち上げ、各メンバーの活躍もあって、ふるさと住民登録制度もいよいよ始まるという動きをみせています。
国としての流れのようにみえるのは、個の一人から始まった取り組みがどんどん加速していき、今まさに社会実装をしていくといった段階に突入しているのだと思っています。
先行者利益ではなく、みんなで協力し合いながらマラソンのように長く遠くに、自分たちの実現したい世界に向かって走り続けることが必要です。Beyondカンファレンスもそういう仲間と出会える場です。ぜひ皆さんと自信をもって未来に向けて走り続けたいですね。
Beyondカンファレンス2026
https://andbeyondcompany.com/bc2026
上入佐さんは5月15日(金)15:00-17:00「『なぜ都市と地方がかきまざらないのか?』 ~経済合理性の非合理性、マーケットインからライフアウトへ~」に登壇します。
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