大手人材会社から児童養護施設、そして現在はNPO法人Learning for All (以下、LFA)が運営するユースセンターへと、20代でソーシャルセクターへと飛び込み、環境を変え続けてきた横山奈緒(よこやま なお)さん。彼女はなぜ環境を変え、今どのような思いで子どもたちと向き合っているのでしょうか。転職をして半年が経った横山さんに今のお気持ちを聞きました。
ユニバーサルな居場所づくり。チームで子どもを支える新しいアプローチ
──まずは今の仕事について教えてください。
横山:現在、私が働いているのは、小学生から20代までの子ども・若者たちを対象とした「ユニバーサルな居場所」であるユースセンターです。貧困など目に見えた困難がある子どもを対象としたLFAの他の居場所とは異なり、困り感を自覚していない子どもたちと問題が発生する前に出会い、いざというときに相談できる関係性を築くことを目的として運営しています。
ここで私が大切にしているのは、純粋に「やりたい・やってみたい」という気持ちを拾うこと。子どもたちと話すなかで、その子がどんなことに興味を持っているのか、何が好きなのかを探り、「お菓子作りが好き」「絵を描くのが好き」という声が出たときに「一緒にやってみる?」「イベントとして企画してみようよ」と働きかけています。自分で何かに挑戦したり、誰かに喜んでもらう体験を通じて、子どもたちの選択肢が広がっていく気がしています。そんな姿を見ることに、私自身とてもやりがいを感じています。
その一方で、フラットな関係性ゆえに「どう踏み込んでいいのかわからず、関係を深める方法に迷う」難しさもあり、一人で抱え込まず「チームで動く」ことの重要性を日々感じています。同じ拠点にいるソーシャルワーカーさんのもとには、学校や家族について相談に来る子もいます。チームでの役割分担を大事にしながら、多角的な視点で子どもたちを支える今の環境に私も助けられていますね。
「目の前の一人に影響を与えられたら、社会は変わる」。福祉の道を志した学生時代
──以前は児童養護施設でお仕事をされていましたね。子ども支援や児童福祉に関心をもったきっかけを教えてください。
横山:私が福祉に関心を持ったルーツは、自分の生い立ちにあると思っています。母子家庭の長女として育ち、子どもの頃から「子どもの権利って何だろう?」と考えていました。経済的な理由から進学の選択肢を無意識に狭めていた気もしますが、その枠の中でも、やりたいことを自分で調べて選んできました。
そんな私のポジティブな生き方を支えてくれているのが、高校受験のときに塾の先生からもらった手紙です。私が公立一本に絞って高校受験をした際、周りの大人はとても心配していたのですが、その先生は「できる・できない、どっちも信じられるんだったら、『できる』と信じたほうがエネルギーが出るよね」という言葉を贈ってくれました。この言葉は今でも私のお守りです。
大学では社会福祉を学び、資格取得を決めました。ただ学んでいくなかで「社会は変えられない」という無力感を抱くこともありました。そんな私の考えを変えるきっかけとなったのが、児童養護施設の学習ボランティアで出会った当時中学3年生の子です。自分に自信がなく、「行きたい」という気持ちより、安全な道を選びがちだったその子が、高校卒業時の進路では「行きたい」学校への受験にチャレンジし、現在は念願だった理学療法士として働いています。
専門学校を卒業する年には、当時私がいた香川まで1人で会いに来てくれたんです。「目の前の一人にでも何か影響を与えられたら、社会は変わっていくのかもしれない」と思えたこの経験が、今の私の大きな原動力になっています。
組織を変える壁と、施設という「家」の役割。違和感が次のキャリアを導く
横山:大学卒業後、私は「女性のキャリアと、子どもが幸せになれる環境作り」を両立させたい、女性の働き方を変えたいという思いから、大手の人材会社に入社しました。しかし、実際に大企業に入ってみると、大きな組織を変える難しさや、会社の目指す方向と自分のやりたいことのギャップに直面しました。仕事自体はとても楽しかったのですが、何かを変えられたという実感は持てませんでした。

横山:その後、「中高生以上の子どもたちと関わる仕事」を求めて、香川県の児童養護施設へ転職しました。香川は今でも「帰る」と言うくらい大好きな第二の故郷です。しかし、ここでも新たな葛藤がありました。
児童養護施設はあくまで「家」の代わりです。だからこそ、何かに挑戦したり変わっていくよりも、子どもたちの生活を守り、心身共に安定させることが重要視されます。私自身、学生時代に自分でアルバイトをして稼いだお金で海外へ行くなど、「一歩踏み出せば景色が変わる」「自分にもできるんだ」という経験に救われてきました。
だからこそ、子どもたちにもそんな希望や挑戦の機会をつくりたかったのですが、施設ではそういった働きかけはあまり喜ばれませんでした。このときの違和感が、NPOへの転職を考える動機になりました。


本当に社会を変える一歩を作れるかも!高揚感を抱いたNPOに転職
横山:次なる挑戦の場として選んだのが、LFAです。決め手は、事業の規模感と社会への影響力への期待でした。スタッフ数も約60人という規模で事業をモデル化し、行政に働きかけていく動きを身近で見て、「もしかしたら本当に社会を変える一歩を作れる団体かもしれない」という高揚感を感じました。
現在私が働くユースセンターは、LFAと兵庫県に本部があるNPO法人ブレーンヒューマニティーの共同事業として運営されています。入職当初は、LFAがどんな団体なのかも十分に理解できていないまま、異なる団体のスタッフが混在する現場に入ったため、戸惑いや混乱する場面も多々ありました。
ここで活きたのが、持ち前のコミュニケーション力と他部署をまたぐ関係調整を行った人材会社での経験です。個別でスタッフに話を聞いたり、雑談をしたりしながら、定例ミーティングではわからない個人の考えやその背景にある経験や価値観を知ることで、それぞれの団体の強みや、スタッフ一人ひとりのキャラや強みを認識することができました。結果として、私自身が拠点になじむこともでき、自分の役割や業務を前に進めることにもつながりました。
また、多様な方たちと接するなかで、私自身の価値観も大きく変化しました。児童養護施設で働いているときには、他のスタッフの子どもへの接し方を否定的に捉えていたこともありましたが、日常を守る関わり方だったのだと気づくことができ、今では「いろいろな大人が関わるからこそ、子どもたちが笑顔で過ごせるんだ」と心から実感できています。現在の職場でもさまざまな大人がいるなかで、自分はどう生きるのか、どう関わるのかを考えるようになりました。
「やってみたら景色が変わる」。変化を迷う同世代へ贈りたいメッセージ
──考え方や価値観も柔軟に変容させながら、これまでの経験を統合し進化されている様子がすごく伝わりました。今後はどんなことをしたいですか。
横山:今後の目標としては、やはり児童養護施設の子どもたちに関わりたいという思いがあります。ただ、日常を守る施設スタッフとしてではなく、ユースワーカーとして関われないか模索したいと考えています。子どもたちが「自分の人生は悪くないかもしれない」「自分にも可能性があるのかもしれない」と思えるような関わりを増やしたい。親でも先生でもない、「斜め上の大人」としての絶妙な立ち位置をつくっていきたいです。

横山:ソーシャルセクターへの転職やキャリアチェンジに迷う方がいたら、私は、興味があるなら自分の気持ちに従って進んでみてほしいと思っています。「やってみたら景色が変わる」からです。行動すれば新しい悩みも必ず生じますが、それは動いたからこそ得られるものです。うまくいくかはわからなくても、やってみれば結果がわかり、次の判断材料になります。
ただ同時に、「変わらなくてもいい」とも伝えたいです。社会の変化があまりにも早くて、積極的に変化の流れに乗る人が評価されがちですが、同じ場所で働き続けることにも大きな価値があります。変化しないことは衰退ではありません。いったん踏みとどまったとしても、また変化のときは訪れるかもしれません。いずれにしても、自分で選択することが一番大切だということをお伝えしたいです。
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