経営・組織論

企業人が活躍する場を佐賀に。多様なセクターと共創する地域活動は生き残り戦略──株式会社ミズ 溝上泰興さん

強い意志を持った一個人が、仲間を集め、企業や社会を動かす──そうした動きをリードする当事者たちは、どんな悩みや壁に直面し、どう乗り越えるのか。実践者に聞くインタビューです。

お話を伺ったのは、佐賀県で創業115年の薬屋・溝上薬局を運営する株式会社ミズ代表取締役の溝上泰興(みぞがみ やすおき)さん。インタビュアーは、株式会社 電通PRコンサルティングの井口理(いのくち ただし)さんです。

2023年、「社内にイノベーションが生まれにくい」という課題を解決するためにチャレンジを起こした溝上さんは、2025年には、地域プロデュース組織「佐嘉再興パートナーズ」を13民間事業者と共に立ち上げています。現在、新規事業を生み出す場づくりにも積極的な溝上さんに、イノベーションのきっかけや壁の越え方をお聞きしました。

※個人と企業の意志が集まるandBeyondカンパニー(事務局:NPO法人ETIC.)による「Beyondカンファレンス2026」共創事例インタビュー記事です。
※インタビューは2026年4月に行いました。

溝上 泰興(みぞがみ やすおき) さん
株式会社ミズ 代表取締役 / 一般社団法人佐嘉再興パートナーズ 理事

創業114年、調剤薬局を中心に化粧品専門店、ドラッグストア、漢方相談など地域のニーズに合わせた事業を展開し、地域に必要とされる企業を目指している。2023年、京都での Beyondカンファレンスに初参加。地域の課題に向き合う人達の情熱に触れ、社内で取り組むことを決意。2025年、地域の挑戦を増やすために「一般社団法人佐嘉再興パートナーズ」を設立し、理事に就任。

井口 理(いのくち ただし)さん
株式会社 電通PRコンサルティング エグゼクティブフェロー

企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。数々のアワードの審査員を歴任。著書に「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」、共著に「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「PR4.0への提言 ~いま知っておきたい6つの潮流、実践すべき7つの視点~」。

※記事中敬称略

挑戦のきっかけは「偶然」

2026年1月。佐嘉再興パートナーズのリリース第一弾「佐賀ばつなごう会議」を開催。赤いジャケットを着た男性の後ろが溝上さん

井口:溝上さんには何度もお話を伺ってきました。これまで、溝上さんご自身が強い意志を持って、企業の中で意志を集め、仲間の力を借りながらいろいろな広がりをつくっていると実感しています。13民間事業者と立ち上げた     佐嘉再興パートナーズも大きな取り組みですが、順風満帆に見えつつ、課題や悩みもあるのではないかと思っています。

溝上:「佐賀再興」という言葉は、もともと約10年前、佐賀県知事が「佐賀さいこう!」とまちづくりの一環で提唱したものです。佐嘉再興パートナーズは、2025年、その言葉をもとに新しい取り組みとして始まりました。

僕自身は、2023年、京都のBeyondカンファレンスに初参加して以来、過疎といわれる町には志ある優秀な人材が集まる印象を強く持ってきました。課題がクリアに見えているところに人々が英知を集結させ、頑張る。そんな人たちとの会話を通して、町が変わっていく事例をよく見るようになったなあと思うんです。同時に、自分たちの町・佐賀県佐賀市の未来に危機感を抱くようになりました。

佐賀市は、人口約22万人の県庁所在地ですが、佐賀県内の5市町で、2020年から30年の間に、若年女性人口(20歳~39歳)が半分以下になり、「消滅の可能性がある」というデータがあります(「人口戦略会議」)。

井口:今回、インタビューのテーマを、「第5回Beyondカンファレンス2026」のコンセプト「個の意志に、組織の動力を。」に合わせて、「個人の意志をもって企業をどう動かし、うねりをつくっていくのか」としています。課題感としては、一企業人として、どうすればきっかけをつくれるか悩んでいる方が多い感触があります。溝上さんはどうきっかけをつくっていますか?

雲南で開催された「企業×地域共創ラボ」のフィールドワーク集合写真。三段目左から三番目が溝上さん

溝上:いやあ、もう偶然ですよ。特に、andBeyondカンパニー(以下:aBC)を通していろいろな企業の方と出会ったこの3年の間は、偶然の始まりを感じることが多くありました。

例えば、島根県雲南市で行われた「企業×地域 共創ラボ」のフィールドワークに、aBCパートナー企業の方たちと参加した際、夜の懇親会でディスカッションしたこともよく覚えています。

参加されたある一企業人の方は「こういう活動をやってると会社で必ずしも賛同を得られないんですよね。溝上さんは一企業人ではなくて、経営者だからないでしょうけど」と発言。企業の中で、彼等が自らの意志を通すことの難しさ、葛藤を知るに至りました。そのなかで出た、「彼等が活躍できるステージをつくればいい」ということが腑に落ちて。

「みんな佐賀で思いを形にして、自分の会社で説明してはどうか」と、盛り上がって、みんなで「佐賀でフェス」を開催して、企業人が活躍するステージをつくったんです。2回の小さな取り組みではあったけれど、その場に集まったエネルギー、みんなが動いた意志が尊く感じられました。

「会社から出張費が出ないから」と、東京から車を運転して来た方もいたんですよ。僕らは、「本当かよ」とか言いながら感激したのを覚えています。

井口:すごいなあ。

溝上:その方は、子どもたちにトランペットを吹いてくれて、すると、うちの会社の社員の息子も上手に吹けて。それが自慢になって音楽を始めたという話もあるんです。

おもしろそうなことがあって、相談にもつながって、エネルギーの高い人たちが加わることで、ドライブがかかる。誰一人が欠けても今みたいにはなっていないと思います。偶然だったし、一人では絶対にできない。

Beyondカンファレンスに行くと、いつも友達ができるんです。新しいプロジェクトも始まるんですよ。「タダじゃあ帰れないぞ」という気合いも生まれるのかもしれないけれど(笑)。

京都で開催された「Beyondカンファレンス2023」のクロージングで「九州版Beyondカンファレンスを実現する!」と宣言する溝上さん

あと、横浜市を拠点に事業展開されている認定NPO法人AYAの中川悠樹(なかがわ ゆうき)さんとも、「一緒に活動しよう」と話していたんです。そうしたら佐賀県の障害福祉の事業をされている方々が中川さんに興味を持っていたことがわかって。「会わせてください」という話になりました。

メンバー構成をしようとなって、「佐賀県内で事業を行うには事務所が必要」と言われたとき、僕が「うちの事務所を使うといいよ」と言って。偶然、県内の事業者の人が求めていた法人を誘致できたことになって、喜んでくれました。中川さんたちの団体も全国展開できているけれど、一つひとつの関係性をより深かめたいという思いがあって、「佐賀でやろう」という話になって。みんな喜んでくれているんです。

地域での取り組みは企業の生き残り戦略の重要なパーツ

井口:一方で、企業を動かそうとするとどうしても高い壁があって、企業を巻き込む難しさを再認識させられることもあります。溝上さんは、経営者の立場として企業を背負いながら、ビジネスではない、「おもしろい」から入る活動に取り組むことについて、目的や理想など本業と相反するものを感じることはありませんか?

溝上:全くないです。2025年の淡路島Beyondカンファレンスでは、岩渕薬品株式会社の岩渕琢磨(いわぶち たくま)さんの言葉にすごく共感しました。「ボランティアでやっているつもりは1ミリもない」「今取り組んでいる地域の活動が、企業の生き残りでもとても重要なパーツを占める」のだと。僕もそう思っているんです。

淡路島で開催された「Beyondカンファレンス2025」で岩淵さん(左から二番目)と共に登壇する溝上さん(一番右)

例えば、熱量がとても高く、周囲への影響力も大きな人材が、もしうちの会社に入ってくれたら、数字にはすぐに表れにくくても、会社の魅力度や価値が高まります。それって何なのかなと僕は考えてきました。答えはまだ出ていないけれど、自分が大事にしている共感経営という言葉につながっています。

うちは薬屋ですが、病気が増えて薬が売れたとしても、事業に共感されないはずなんです。昔は、町に薬屋があること自体が供給拠点の役割のような相対的価値があったと思うのですが、今、社会から求められるニーズは大きく変わっている。

僕は、将来的に、病気が減ることで収益を得る会社が共感されると思っています。一秒でも早く病気を見つけてくれる薬局があると僕もうれしい。例えば認知症の進行を少しでも遅らせてくれるような、それによって大切な家族との時間をつくる手助けをしてくれる薬局が将来的に共感されるのではないでしょうか。そんなことができる会社に人材も集まるのかなと思っています。

そうなるためにも、まちづくりや社会課題解決に思い切って飛び込んでいく必要がある。ただ、うちは     そういう会社にはまだなれていないと思っていて。それに社内の軋轢もあります(笑)。

井口:トップの溝上さんでも軋轢を感じるんですね。

溝上:「何やってるの?」って言われます(笑)。とはいえ、少しずつ僕たちの活動に参加する人も増えているんです。それは、時代の変化もあって、昔は会社の方針に合わせる風潮だったと思いますが、今は社員一人ひとり反応するテーマが違っていて、参加したいところに参加すればいいよ、という。

会社側は、社員が共感するテーマをたくさん用意しなければいけない。でも、自分たちだけではできないから、外部と組んで一緒に多様なテーマを準備する。だから、今は僕が先頭を切って、「参加したかったら参加していいよ」という流れをつくっています。

井口:企業に属すること自体、生活の糧を得るためだけではなく、自分たちのやりたいことができるフィールドになっているかどうかで選ばれる時代になっていると感じます。

溝上:Beyondミーティング(※)を真似した、社内の「全力応援ミーティング」も大盛り上がりなんです。これまで6回開催していますが、毎回、参加者の満足度が9割を超えて、社外の参加者も増えて。「生煮えでいいから企画書持ってきて」と、自由に参加してもらっています。「大学生と病気の予防プロジェクトをつくりたい」「イベント集客で困っているから、お客さんがきてくれるイベントを一緒に考えてくれませんか?」など。

「ミズで、デトックスツアーができるヘルシアンホテルをやりたい」という新規事業の提案も出ました。

さらに、うちの会社はフォーマルウェアが中心でビジネスカジュアルに当時反対派が多かったのですが、企画を持ってきた若手社員が粘り腰で言ったことによってビジネスカジュアルが社内に浸透したんです。

(※)aBCが主催する全力応援ブレスト会議。組織・立場・世代を越えて誰もが自由に参加できる場として、述べ6000人以上が参加

社内Beyondミーティングでビジネスカジュアルについてプレゼンテーションする社員

こうした意志ある取り組みを文化にしていくことって、時間がかかると思うんです。若い人から反応して、社員全員に関係していく。もし一人でも受け入れられたら、見える景色が変わるじゃないですか。そうすると、「あのミーティングっておもしろいらしいね」となる。まわりの景色が変わるまでじっくり待つことはすごく大事なのかなと思います。

井口:自分たちで景色を変えた感もありますね。

溝上:佐嘉再興パートナーズもいきなりは花が咲かないから、土壌づくりが必要だとも話しています。例えば、東洋医学ではよく植物の木に例えますが、茎や幹にアプローチすることに近いと感じています。つまり、症状の大半は葉や花びらに現れるけれど、茎や幹、根があって、土壌がある。西洋医学では、「なぜ病気は起こるのか」と考えることが多くて、そうすると「食生活や睡眠の問題はありませんか?」となります。

佐嘉再興パートナーズは、10年かけて土壌づくりから進める空気感にしていかないといけないと思っています。じっくり腰を据えて活動したい。

目指すゴールは「佐賀のいいところ」を自慢すること

井口:佐嘉再興パートナーズでは、株式会社ミズとの違いもふまえて、何を目指されていますか?

溝上:基本的に一緒で、一つひとつの層が違うだけだと理解しています。

ミズは、薬の売れない薬屋を目指していて、これから我々が目指すべきなのは、心と身体の先にある社会的にも健康なまちづくりです。また、これまで多くの有識者の方をお呼びしてお話を聞いてきましたが、みなさん共通しておっしゃるのが、「健康の秘訣は一つだけ。新しいことに挑戦すること」なんです。町に住む人が何か一つでも新しいことにチャレンジしていく、それが健康的なまちづくりの秘訣だと。

地域において「薬というモノを売るのではなく、健康になるコトを売る」という事業方針を掲げるミズ

ミズと佐嘉再興パートナーズは、そのあたりが理念としてつながっています。だから、新しいビジネスが起きてほしい。社員に手を挙げてほしい。たいていの場合、「会社でそんなことできるの?」となりますが、社員たちが佐嘉再興パートナーズを通して外に出て行き、「できそうな人と一緒にやりたい」と言ったときには場面が変わると思うんです。

人が育って事業が育ち、社員も元気になる。そこに患者さんも来てくれれば患者さんも元気になって、町も元気になっていく。経営的な意味で言うと、新しいビジネスを起こして、人材育成をして、ということが自然にできることを目指しています。

井口:佐嘉再興パートナーズのミッションは「佐賀の共創資本を循環させる」ですが、成功事例のような体験をみんなで一緒に生み出していく場にしたいということでしょうか。

溝上:そうしたいです。やっぱり最終的には、「思いを形にしていく」だと思っていますから。

これは余談ですが、医療機関のセキュリティ関連団体も運営しているんです。ここでは、佐嘉再興パートナーズのフィールドを提供して、サイバー避難訓練やコミュニティ運営をしています。焼肉のイベントでは、焼肉を食べながら専門家の話が聞けるという。

そこでは、ドイツやロシアなど海外からも人が集まってくださっています。契約ではなく志でつながっている世界ですが、自分の会社の利益にもつながっている。佐嘉再興パートナーズ自体も今はまだ理想の域ですが、いつか、参加者の誰かが「佐嘉再興パートナーズが佐賀のいいところだよね」と、自慢することがゴールかもしれないですね。

とにかくすごくいい人たちが集まっています。やっぱりおもしろい人たちが集まるといい事業ができます。まずは、人が集まってくれるための共感が大事かなと思っています。かっこつけですけどね(笑)。

井口:かっこいいです。ありがとうございました。


Beyondカンファレンス2026
https://andbeyondcompany.com/bc2026

溝上さんは5月15日(金)13:00-13:45オープニングセッションに登壇します。


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この記事を書いた人
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愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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