
最近、社会課題に取り組む企業への関心が高まっています。帝国データバンクの調査によると、「SDGsに取り組んでいる」企業の割合は30.2%と過去最高になり、大企業になるほど意欲的な姿勢にある傾向もみえてきました。(※1)。
社会課題に取り組む企業への関心の源には何があるのか。どうすればよりよい形で、意欲を社会課題解決に向けられるのか。
個人と企業の意志が集まるandBeyondカンパニー(事務局:NPO法人ETIC.)では、そのヒントを掴むため、「Beyondカンファレンス2026」(5月15日・16日)開催に向けた共創事例インタビューを行いました。
お話を伺ったのは、大学生が地方と都市を自由に行き交う学びのプラットフォーム「Campus Everywhere」を企画・運営する株式会社ウニベル 代表取締役の横山真輔(よこやま しんすけ)さん、協業する日本航空株式会社(以下、JAL)の上入佐慶太(かみいりさ けいた)さん、ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社の濵田奈帆子(はまだ なほこ)さん。インタビュアーは、株式会社 電通PRコンサルティングの井口理(いのくち ただし)さんです。
※インタビューは2026年3月に行いました。

※左から
上入佐 慶太(かみいりさ けいた)さん
日本航空株式会社 JAL社内ベンチャーW-PIT 能登復興事業ユニット 統括
濵田 奈帆子(はまだ なほこ)さん
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社 地域共創推進部 地域連携チーム
横山 真輔(よこやま しんすけ)さん
株式会社ウニベル代表取締役

井口 理(いのくち ただし)さん
株式会社 電通PRコンサルティング エグゼクティブフェロー
企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。数々のアワードの審査員を歴任。著書に「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」、共著に「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「PR4.0への提言 ~いま知っておきたい6つの潮流、実践すべき7つの視点~」。
※記事中敬称略
個人の意志の源は、学生からの指摘だった
井口:個人が思い描く形を実現するために、どう人とつながり、企業の力を巻き込んでいけばいいのか。まず、横山さんに伺います。「挑戦の地域格差をなくしたい」という思いから始まった「Campus Everywhere」について、最初の行動に移るまでどんな動きがあったのでしょうか。
横山:きっかけは、電通在籍時に、九州地方の国立大学講師をした際、自分が前職に就くまでの成功体験を話したことです。そのとき、学生から辛辣な返答をもらったんです。
「横山さんは首都圏の人だから、おもしろい人に出会えたり、周りの人の力を借りることができたんだと思います。地方で生まれ育った大学生が、東京に出たいけれど出られない、そういう現状があることを知っていますか?」
そこから全国の大学生100名以上にインタビューをして経済的理由や地方ならではの機会の少なさから、「挑戦したいけれどなかなかできない」現実を知りました。大学の理事長や学長、教職員の方々へのインタビューでも挑戦の地域格差を感じ、その課題感をきっかけに起業を決意しました。
※ 株式会社ウニベル 横山真輔さんの起業の背景や思いについて取材した記事はこちらから
個人の意志が大学を動かしたとき
井口:地方の大学は、地域に閉じられていることが多い、そんな課題があるのでしょうか。
横山:はい。僕が課題感を持った5、6年前から、今現在も変わらないと思います。首都圏や関西圏などの大都市に出てきて、挑戦ができ、意欲的に動いている人はほんの一握りで、本当はやりたいけれどできないという子が地方には大勢います。
井口:地方にいる学生が「チャレンジする機会は転がっている」と感じられる環境にするために、横山さんは大学にどんなアプローチをしましたか?
横山:意志ある大学同士が連携し合う社会の動きがあるなかで、都市と地方の大学をつなぎたいという大学の先生たちに、僕からお声がけをしました。また、JALさんやENEOSリニューアブル・エナジーさんとご一緒させていただき、都市と地方の学生を混ぜるという事例が少しずつ形になっていくと、学長フォーラムなどに呼んでいただくようになりました。そうすると、各大学から「うちにも来てほしい」と声がかかるようにもなり、現在は各大学と交渉を進めています。
井口:学生から「今の社会に対して何かしたい」といった思いを感じたのでしょうか。
横山:自分の学生時代を思い返しても、上の世代の方たちの話を聞いても、「移動したい」「チャレンジしたい」という学生は一定数いて、今も同じだと思いました。今後も、そういう思いの学生にアプローチしたいと思っています。
井口:横山さんは、企業人として長い勤務経験があり、企業の影響力やリソースなどの力は経験されていると思います。今回、あえて、学生の思いの力にも期待しているということでしょうか。
横山:そうです。大学生たちからは、純粋な課題感や問題意識、怒りに近いエネルギーを感じ取りました。そこに対する「チャレンジしたい学生がなぜできないんだろう」という僕の憤りや資金面など解決が難しい問題への思いもあります。
大学の単位、親や地域の影響など、学生たちが壁を越えるためにはどうすればいいのか考えていたことが、自分の強いエネルギーに変わっているのを感じています。
もちろん企業が動くことは重要です。ただ、組織内で意識を変容させるのは難しいと、会社員として10年以上働いて感じていました。
一方で、少子化により全体の人数自体は減少傾向にあるといわれていますが、大学進学率は現在約60%と上昇傾向にあることもわかっています。多くの人が大学に進学していることを考えると、まだ可能性が期待できると考えています。
肩書を越えた魂の触れ合いが共創の始まり

井口:社会人になる前の学生たちに、企業の力を借りながら理想が実現に至るまでの体験をしてもらう、ということでしょうか。「Campus Everywhere」における、ENEOSリニューアブル・エナジーさんやJALさんとの共創はどのように始まったのでしょうか。
横山:2024年1月に開催されたBeyondカンファレンスのキックオフイベントのときです。能登半島地震の発生直後で、JALの上入佐さんが「実はこのあと、自分がキッチンカーを運転して能登に行くんです」と、去って行かれたことがすごく印象に残ったんです。
数カ月後、上入佐さんと元ENEOSリニューアブル・エナジーの木戸さん(濱田さんの前任者)とオンラインミーティングをする機会があって、2024年Beyondカンファレンス(東京・羽田)で皆さんとお話しました。
「Campus Everywhere構想」をお話した際、上入佐さんから「JALでも青空留学という大学生を対象にしたプログラムを展開しています」と聞いて、現状や課題感も共有いただきました。そのとき、ビジネスライクなお話ではなく、同じ熱量というか、魂が触れ合うような感覚を持ちました。

井口:上入佐さんと濱田さんは、横山さんとの出会いで直感的に感じたポイントはありますか?
上入佐:最初は明確な共創のイメージはなかったのですが、「青空留学」の特徴である、大学生とJAL社員が地方の一次生産の現場に留学することが、「Campus Everywhere」のコンセプトと重なりそうだと感じていました。
その後、2024年Beyondカンファレンス(羽田)でお会いしたとき、横山さんに、JALがベンチャーとして関係人口づくりを共創する「Japan Vitalization Platform(以下JVP)」のことで登壇をご依頼。その直後、私が「能登からスタートしませんか?」と横山さんにお話をしました。
そうしたら数日後の週末には横山さんが能登に来てくれたんです。私はすでに能登での支援活動を開始していたため、能登全域をご案内しました。その際、被災現場を見て涙ぐみながら横山さんが「やっぱり能登でやらないといけない」とおっしゃったときに、「一緒にやるべき」と確信を持ちました。それが2024年6月で、同年9月の企画化に向けて議論からスタートしたのです。
会社と個人の「よりよい塩梅」を探して。葛藤を理解し合える仲間との出会い

濱田:私は、前任の木戸が、2人と思いがつながって、3人で活動をされているなかで加入しました。
私はもともとENEOSリニューアブル・エナジーで秋田県の地方創生を担当し、プロジェクトが完了した時点で一度退職しています。ただ、その後、社会全体でさまざまな企業が地方創生の共創や協業を行うようになり、もう一度同じ仲間のいる場所で地方創生に携わりたいと再就職しました。
その後、木戸と仕事に対する熱量が同じだと感じたこともあって、2024年から一緒に仕事をする機会が増え、彼の退職後は、私が「Campus Everywhere」を担当しています。横山さんと上入佐さんとも、同じ思いがつながっていると感じられていて、今もご一緒する意味があると感じています。

井口:濱田さんは、個人の思いを持ちつつも、企業の一員として参画することにどんな使命を持っているとお考えですか?
濱田:私は、この2カ月ほど、企業としての立ち位置も理解しつつ、この共創の場をどう活用していくか、よりよい塩梅を見つけていくことを意識しています。自分の熱い思いがあっても、どうにもならないこともあると理解しています。
そのなかで、「Campus Everywhere」は、会社としても、個人の活動としても、よりよいところを見つけるきっかけになっていると思っています。横山さんと上入佐さんと知り合えたことで、そういう気持ちを理解しあえる仲間と出会えたと思っています。

後編へ続きます。
>> 企業の一個人が、企業を動かすためには何が必要?共創の課題にぶつかり、可能性を開く実践【Beyondカンファレンス共創事例インタビュー(後編)】
Beyondカンファレンス2026
https://andbeyondcompany.com/bc2026
上入佐さんは5月15日(金)15:00-17:00「『なぜ都市と地方がかきまざらないのか?』 ~経済合理性の非合理性、マーケットインからライフアウトへ~」に登壇します。
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(※1)帝国データバンク『SDGsに関する企業の意識調査』(2025年)より。なお、経済産業省では、『社会課題解決型の企業活動に関する意識調査』(2024年版)をもとに、企業の多角的なルール形成型による新しい市場形成を後押しし、高く評価された企業を公表しています。

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