社会・公共

虎ノ門で築くフラットな関係が、社会を動かすビジネスを生み出す。共創で挑む社会課題解決の拠点「Glass Rock」

「共創」こそが複雑化した社会課題を解決できる鍵になるのではないか──企業、行政、NPO、市民と異なるセクターが立場を超えて手を取り合い、一緒に課題を解決する動きが広がっています。

2025年には、クロスセクターで社会課題解決を目指す拠点「Glass Rock(グラスロック)」が、虎ノ門ヒルズにオープン。今年5月に開催される、社会をより良くしたい個人と企業が集う「第5回Beyondカンファレンス2026」の舞台でもあります。

Glass Rockはなぜ、グローバルビジネスセンターを標榜する虎ノ門ヒルズで「共創」によるソーシャルアクションに取り組むのか。どのようにして「個人の意志」と「組織の動力」をつなげていこうとしているのか。森ビル株式会社でGlass Rock担当の清水香帆さんに、株式会社 電通PRコンサルティングの井口理さんがインタビューしました。

清水 香帆(しみず かほ)さん
森ビル株式会社 新領域事業部 イノベーション施設運営室 Glass Rock担当

金融機関の法人営業担当を経て、英字新聞の記者職を経験。社会部、経済部、政治部を歴任し、環境問題や企業取材、外交政策などを扱った。森ビル入社後は、六本木ヒルズ・森タワー49階の知の拠点「アカデミーヒルズ」(現在は閉館)のセミナーや講座の企画運営に携わった後、現在は虎ノ門ヒルズに2025年に開業したGlass Rockの企画・運営を担当している。

井口 理(いのくち ただし)さん
株式会社 電通PRコンサルティング エグゼクティブフェロー

企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。数々のアワードの審査員を歴任。著書に「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」、共著に「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「PR4.0への提言 ~いま知っておきたい6つの潮流、実践すべき7つの視点~」。

※記事中敬称略

社会課題の対話を日常に。多様なセクターが集うフラットな場

井口:まず初めに、Glass Rockはどんな施設なのでしょうか。

清水:Glass Rockは、2025年4月に、虎ノ門ヒルズにあるクロスセクターで社会課題解決を目指す共創拠点として開業しました。社会課題は今、気候変動、少子高齢化、貧困、格差など複雑化し、個人や一つの組織だけでは解決に至らない状況です。だからこそ私たちは、社会課題解決に向けて多様なセクターが領域を超えて連携し共に取り組む「共創」が必要だと思っています。

井口:Glass Rockの会員はどんな方なのでしょうか。

清水:オープンから約1年経った今、スタートアップから大手企業まで多様な企業が法人会員としてご参画いただいています。また、起業家や学生をはじめ、NPO・NGO、行政まで多様な立場の人たちが会員になってくださっています。

都心に拠点を持つ方に限らず、地方と東京の二拠点で活動する個人の方や地方自治体も加わるなど、日本各地の方々が虎ノ門ヒルズのGlass Rockに集まっていることも特徴です。領域を超えたクロスセクターな場になっていると感じます。

井口:多様なセクターの方々が集まっているのですね。具体的にどんな活動に力を入れていますか。

清水:イベントやプログラム、ワークショップの開催を通したコミュニティ醸成に力を入れております。サステナビリティや地域共創をテーマに学びを得るインプット型のイベント・プログラム、社会課題の現場で一次情報を得るイベントからランチ会など交流を目的としたものまで、幅広く企画・開催しています。そのほか、法人会員が主催者となって事業の紹介や仲間集めを目的にしたイベントを開くこともあります。

学生の会員に対しては、最初からいきなり社会人と交流するにはハードルが高いとのことなので、まずは学生の会員同士で交流できるコミュニティ「とら組」を、Glass Rockのコミュニティマネージャーが運営しているんです。そこから派生する形で、学生が社会人と対話するイベントを定期的に開催しています。

学生との対話イベントに参加した企業の方からは、利害関係なしに話せたり、新しい視点をもらえたりして良かったという声をいただいています。

また、Glass Rockがこれからさらに注力していきたいのが官民連携による社会課題解決に向けた実装ということもあり、虎ノ門ヒルズのすぐお隣の霞が関の行政官はもとより、地方自治体などの行政とのイベントの開催も増えています。

多様なセクターの方々が越境することは簡単なことではありませんが、Glass Rockだからこそフラットに日常的な対話ができる、という場にしていきたいと思っています。

とら組で開催された「学生×社会人の対話型」イベント

井口:「共創」拠点であるGlass Rockは、どんな役割を担っているのでしょうか。

清水:クロスセクターの「共創」で社会課題解決を目指すGlass Rockは、ビジネスとソーシャルが交差するところに新しい価値創造があると考えています。経済的価値を追求するビジネスと、社会課題の解決を追求するソーシャルは、これまでは相反するものとして捉えられることが多く、相性が悪いと考えられてきました。

しかし、SDGsが浸透し、企業も持続可能な社会に向けた取り組みが不可避の時代となり、企業行動も変化してきています。社会課題はむしろビジネスチャンスと捉え、解決しようとする動きが活発になっています。

目の前の仕事から離れてGlass Rockに来ると、広い視野で社会の動きを捉え、社会課題の情報に触れることができます。例えば、人々が見過ごしている社会課題に現場で向き合う非営利団体の方々や行政や地方自治体、NGOなど多様なセクターの方と直接の利害関係なしにフラットに対話することができる。イベントに参加すると、どうすればビジネスを通して社会をより良い方向へ変えられるのか、といった視点も学べます。

この場で視野を広げ、得た視点を組織の中に活かすというサイクルが繰り返し行われることによって、社会課題を起点としたビジネスを生むことを後押しすると思うのです。

もう一つ、企業において経済的価値と社会的価値を両立し、社会課題を起点に新しいビジネスを作る上で必要になってくるのが、「個人の意志」と「組織の動力」の両輪だと思っています。

個人が意志や想いを持って仕事をすることは非常に重要ですが、それだけでは企業として事業化したり、その事業を継続させることは難しい。個人の想いと組織のロジックをつなげ、重ねていく必要があると考えています。Glass Rockには、組織のリソースを活用するからこそできることを「個人の想い」を持って進めている法人会員がいらっしゃいます。

Glass Rockでの活動を通して、意志を持つ個人が、ご自分の想いと組織のロジックを行き来することが大切ですし、これからそのような会員の方をどんどん増やしていきたいと考えています。

その場だけで終わらない。継続できる対話と議論

井口:これまでの約1年間を振り返って、共創につながった取り組みはありますか?

清水:いくつかありますが、最も顕著な例としては「クロスセクターで取り組む子育て・多世代交流の拠点づくり」についてのイベントを開催した際のことです。登壇したクラブツーリズム株式会社は、埼玉県・ふじみ野市にあるショッピングセンター「イオンタウン」のコミュニティスペース運営を受託していて、その中でこども食堂をスタートさせるタイミングでした。

この取り組みを同じ登壇者としてそばで聞いていた、「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」の担当者が、「商業施設内でこども食堂を運営する事例は今まで聞いたことがない」と大変興味を持ったのです。

むすびえは、全国のこども食堂を中間支援する活動を行っており、多くの現場を見てきた団体。本イベントをきっかけに、その後も継続してクラブツーリズムさんとコミュニケーションを取り合い、現地に視察に行くなど連携のタネが生まれました。この動きは広がっており、ほかの会員の方との間でも、連携を模索する打合せが行われるなど、少しずつ共創につながる動きが生まれていると感じます。

2025年11月に開催された「クラブツーリズムが目指す地域共生型コミュニティとは?」

井口:Glass Rockに来ると、実際に取り組む方々と直接会うことができ、より深いリアルな話ができますね。この場が恒常的に提供されている点がGlass Rockの特徴だと思います。会員の皆さんはどんな想いでここに来ているのでしょうか。

清水:昨年、領域を超えて共創するための仕組みや事例を学び、実践者や専門家との対話を通じて理解を深める全12回の講座を開催したのですが、ある企業の人権デューディリジェンスの担当者が参加されていたんです。

人権デューディリジェンスとは、企業が社内やサプライチェーンにおける人権リスクを特定し、防止、軽減する対策を講じる取り組み。担当部署の実務は、人権侵害が起きていないか、そのリスクがないか、といった視点での調査や検証が多くを占め、リスクや問題を避けるネガティブチェックになりがちだったそうです。

Glass Rockで「社会的インパクト」の講座があることを知り、「人権デューディリジェンスが会社や社会に対し、どんなポジティブな影響を与えているか知りたい」と思ったのがきっかけで参加したということでした。

その会員の方が参加してくれたことで、目の前の業務が、会社や社会にどんなインパクトを与えるのか。このインパクトを可視化できれば、投資家にアピールして企業として資金調達を有利に進めることを可能にし、賛同者が増えるなどポジティブなことが仕事へのモチベーションにも良い効果があるのではないか。自身の業務の社会的価値を可視化し、いろいろな方に説明しやすくすることができるんだと、ほかの参加者も気づくことができました。

社内も説得しやすくなり、仲間も得やすくなる。「インパクト会計」は事業活動を行う多様な部門の方に必要とされていると思いました。

Glass Rockではこうした場づくりに力を入れ、継続していくことで社会課題を起点とした事業を推進する方、サステナビリティ推進に携わる方が、組織の中にいるからこそリソースを活用してできることを推進できるよう、支援していきたいと考えています。

個人会員の方々は、自身のアジェンダを掲げて社会課題の解決に向けて取り組んでいる方が多くいらっしゃいます。そうした個人会員の方がGlass Rockで仲間を得てエンパワーされている様子も見えています。

せっかく社会課題に熱量を持って取り組む方と出会えたとしても、関係がその場限りで終わってしまうのはもったいない。そこで生まれた関係性を継続したいですよね。Glass Rockという場があるからこそ、会員の皆さんの中で継続した議論や対話が起こりやすいと思っています。

個と組織が連動した先に見据える社会変革

井口:Glass Rockは今後、どのようなマイルストーンを描いていますか?

清水:Glass Rockは4月9日で開業から1周年を迎えました。開業からの1年、ETIC.さんをはじめとする共創パートナーや地方自治体の方々にご協力をいただきながら、会員の皆さまに対して、社会課題の解像度を高める学びのプログラムや会員同士のネットワーキングの機会、イベントなどの発信機会をご提供するなかで、さまざまな社会課題解決の兆しや、目指すべき取り組みの方向性が見えてきました。 

これまで掲げているクロスセクターで社会課題解決に向けて共創するためには、ソーシャルアクション、ソーシャルイノベーション、ソーシャルムーブメントの3つのステップが必要だと考えています。

1つ目のステップ「ソーシャルアクション」とは、社会変革の兆しとなる小さなアクションです。ここではまず、個人のソーシャルアクションを可視化させ支援しながら、個のアクションをつなげて拡大していきたいです。

2つ目の「ソーシャルイノベーション」では、社会をより良い方向に進めるイノベーション創出を目指し、会員企業に対し、社会変革を促すビジネスを生み出していくための支援をしていきます。個人のアクションと企業のビジネスが連動することで、大きなイノベーションへとつなげていきます。

さらにその先にある構想が、3つ目の「ソーシャルムーブメント」です。ビジネスと行政・政策を掛け合わせて、社会インパクトのあるムーブメントにしていくことを見据えています。共創が、Glass Rockからにじみ出るように広がり、サステナブルな社会へ向けた潮流を生み出していきたいです。

この流れの肝となるのが、ビジネスと政策デザインをかけ合わせたアプローチです。企業と行政が社会課題を起点として「ビジネス×政策」をともに考え、新たな市場を作っていくことが重要だと考えています。

今年は、その足がかりとなるプログラム「Social Innovation Sprint」を新たに実施します。会員企業の皆さまには、より具体的に社会課題を起点とした事業を創出し、社会実装まで推進していくことができるよう支援していきたいと思います。

井口:清水さんは、ご自身の想いをどのように組織とつなげていますか?

清水:森ビルは時代の流れを捉えながら、新しい流れをつくっていこうとする会社だと感じています。前職の新聞業界で働いていたときは、Web媒体が増え、紙媒体が読まれなくなっていた時期でした。紙媒体の仕事をしていた私は危機感を募らせる一方で、なす術がないと感じることもありました。そのときのビジネスや業界が置かれた状態も大きいと思いますが、厳しい環境だからこそ、時代の変化を恐れず、自らが変化を起こしていこう、という姿勢を持つことが大事だと思うようになりました。

森ビルに転職して、都市づくりを通じて社会に新しいものを生み出していこうとする会社のカルチャーに大きく共感しました。森ビルで長く担当した業務は、個人が集う会員制のライブラリー「アカデミーヒルズ 六本木ヒルズライブラリー」(2024年6月閉館)の運営でした。個人が組織の一員として会社の名刺を持って仕事をすることが主流だった時代に、組織に頼らず自立した個の時代を見据えて、個人を支援していこうと立ち上げた施設です。個人で活動する多くの方が、この場を求めて六本木ヒルズに集うことに驚きました。

Glass Rockのイベントでお話をする清水さん

個の時代が当たり前となった現在、これからは個人と組織の掛け合わせが求められると思っています。だからこそ、今年のBeyondカンファレンスのコンセプト「個の意志に、組織の動力を。」に深く共感したのです。

私自身も、自分の想いを組織とどうすり合わせるかという難しさを感じるときはあります。

そんななか、Glass Rockの法人会員向けプログラム「Glass Rock Partners Program」にご登壇いただいた独立研究者・山口周さんの「人々が見過ごしている、多数派のコンセンサスが取れていないアジェンダを新たな社会課題として生成し、ビジネスを生み出していくことが企業の競争力の源泉となり、社会に新たな価値を創造していくということ」というお話が、多数の人に最初は理解されない取り組みだとしても、少数の個人の想いが社会を変えていくんだとGlass Rockのビジョンと重なり、勇気をいただきました。

Glass Rockの挑戦も社会全体で見ると少数派なのかもしれません。でも、私自身もGlass Rockでビジネスを通して社会を変えていきたいと思っています。

今、個人としては、子育てをしていることもあり、子どもをはじめ一人ひとりがその人らしくいられる場をつくりたいという想いを持っています。環境によりますが、学校では多様性を尊重する教育が掲げられながらも、子どもが同じ方向を向かなければいけない状況が起きていると感じたことがあるからです。だからこそ、子どもの個性を尊重しながら自分のペースで自分らしく過ごすことができる社会をつくっていきたいと思っています。

Glass Rockの会員の方には、子どもの未来に関心のある方が多くいて、先日ワークショップが開催されました。そこでは、多くの会員の皆さんが真剣に子どもの権利と未来について議論していたんです。個人的にこのテーマに関わっていきたいと思っています。

Glass Rockで開催されたBeyondカンファレンス2026のプレイベント集合写真。清水さんは一列目の一番右

井口:今年5月の「Beyondカンファレンス2026」の舞台となるGlass Rockですが、清水さんご自身は昨年のカンファレンス(淡路島)にも参加されたそうですね。 

清水:実際に参加させていただき、皆さんのモチベーションや熱量に圧倒され、本当に素晴らしい取り組みだと感動しました。ただ一方で、「今日ここで熱い議論ができたけれど、この場で終わってしまう方がいるのがもったいない」という声も聞かれました。せっかく熱量を持って取り組む方と出会えたのだから、この出会いを次のアクションにつなげていきたい。

だからこそ、Glass Rockという恒常的な場があることで、継続した議論や対話が起こりやすくなるのではないかと思ったんです。それが今回の共催につながるはじまりです。

井口:なるほど。イベントという1日のお祭りではなく、日常に落とし込み継続させる場なのですね。5月にこの場所で開催される「Beyondカンファレンス2026」で、新たな共創が生まれるのが今から楽しみです。


Beyondカンファレンス2026
https://andbeyondcompany.com/bc2026


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この記事を書いた人
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高知生まれ、茨城在住のフリーライター。企業のCSR・環境報告書の編集・制作や環境マネジメントシステムの運営に携わり、2013年からフリーランスの編集・ライターとして活動を始める。サステナビリティやソーシャルビジネスをテーマに、地域の取り組みやその担い手の方々のことを執筆しています。海も川も山もある茨城で、人と自然とつながりながら暮らしています。

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