
私たちにとって身近な食材である豆腐。しかしながら、一般財団法人「全国豆腐連合会」によれば、ピーク時の1960年には全国に5万軒以上あった豆腐製造事業者ですが、2020年には約5,300軒と10分の1にまで減少しています。
「まちの豆腐屋さん」が減り続けるなか、茨城県八千代町(やちよまち)で68年以上続く豆腐店の3代目として、新たな事業の形を模索する高橋真弘さんに取材しました。
※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

高橋 真弘(たかはし まさひろ)さん
有限会社とうふやTAKAHASHI 代表/ローカルベンチャーラボ第9期生
1982年生まれ、茨城県八千代町出身。68年続く豆腐屋の3代目。大学卒業後、一度は家業を離れ、フリーターやバンド活動をしながら各地を放浪。27歳で家業に戻るも、父との衝突を経て33歳で事業を承継。当時は卸売中心で利益の出にくい構造にあり、価格改定や製造体制の見直し、コスト削減など地道な経営改革を積み重ね、事業を立て直す。
「豆腐屋は工場ではなく、地域の場である」という考えのもと、2021年に工場併設型カフェ「とうふやたかはし」を開業。小麦・卵・乳製品不使用のスイーツやヴィーガン対応メニューを展開し、「誰かが我慢しなくていい食卓」をコンセプトに、家族連れや子どもたちが集まる場をつくる。
地元農家と連携した商品開発や食育活動、地域イベント「ヤチヨゴト」の主催など、家業を起点に地域のなりわいづくりにも取り組む。副業人材や外部パートナーとの協働、DAO的な関わり方を模索しながら、ローカルの価値を再編集する挑戦を続けている。
豆腐業界の活性化にも注力し、全国豆腐品評会の運営やクラウドファンディングにも挑戦。2026年には東京都港区芝浦に2号店を出店予定。地方の小さな豆腐屋から、地域と都市をつなぐ新しいモデルを実践している。
とうふやTAKAHASHI 公式サイト
豆腐店が抱える構造的課題をなんとかしたい。父との衝突を経て継いだ家業
大学卒業後、24歳で家業に関わり始めたという高橋さんですが、事業が今のような形に落ち着くまでには紆余曲折がありました。
「ちょうど就職氷河期で、就職するイメージもつかずフリーターをしていたところ、母が腰を悪くしたことをきっかけに、実家に戻って家業に入りました。ですが、自分なりに付加価値を出したいと百貨店の催事に出る準備をしていたら、父が『そんなのうちはやらない』と勝手に先方に電話をして断ってしまい、大喧嘩に。
結局そのまま家を飛び出して、フリーターとバンド活動をしながら各地を放浪するような生活を送ることになりました」

再び家業に戻ったのは27歳のとき。そのときにはお店の経営もかなり厳しい状況となっていました。その原因は豆腐事業の業界構造にあります。1つの店でなんでもそろうため、豆腐の販売先は各店での小売りではなく、スーパーマーケット等の大型店を通した販売が主流となっていきました。
「豆腐屋をすごくやりたいというわけではなかったんですが、ずっと見てきた家業がこのままなくなってしまうのはもったいないという思いもありましたし、母に頼まれたこともあって戻ってきました。
『豆腐屋は工場で豆腐を作るのが仕事だ』が父の口癖でしたが、父の頭にあるのはスーパーができ始めた頃の話です。この地域にもスーパーは1つしかなくて、そこに卸せば月間100万円の売上があったという時代でした」
ですが、スーパーの店舗数が大幅に増えた現代では事情が違います。八千代町を中心に40キロ以内を商圏としている「とうふやたかはし」の卸先は、直売所やスーパーなど40店舗にもなり、配送スタッフだけでも6人必要なほど。
家族経営を主体とする小規模事業者が大多数を占める豆腐製造業者にとって、スーパーの販売手数料や各店舗への配送の負担は大きく、ほとんど利益が残らない構造となっているのが現状です。
「今でこそ値下げの圧力は少なくなりましたが、当時はスーパー主導で価格が決まってしまい、利益が出にくい構造でした。難しいけど、これをどうにかしないと事業として成り立たない。父に事業の今後を相談しても、過去の成功体験がある分、なかなか新しいビジネスモデルに展開していかないのが課題でした。
親子喧嘩を繰り返すなかで、『そんなに言うならお前がやってみろ』と父が折れ、33歳のときに本当に無理矢理という感じで継がせてもらいました」

経営改善に向けた試行錯誤は、愚直な一手の積み重ね
自分が主導でやらなければ何も変えられないとはいえ、当時これといったアイデアはなかったという高橋さん。とにかく少しでも経営状態を改善しようと、価格を上げて適正にし、コストをカットし、社会保険の整備など福利厚生面を整え……といったことに愚直に取り組んでいきました。
「最初に一人でバイヤーと値上げ交渉をしたとき、三角生揚げを1パック100円値上げしたんです。もともと130円で販売していたので、なかなか思い切った値上げで、父も『うまくいくわけない』という態度でした(笑)。これでダメだと言われたら取引をやめようという覚悟で交渉したところ、25店舗中23店舗は値上げに応じてくれました。
そして、諸々の経費もすごく上がっていたので、製造日や配送日を少しずつ減らしていくことにしました。値上げをすると、買い控えで販売数がざっくり1割減ります。年に1回程のペースで価格を上げ、製造数を減らしていった結果、製造日は週6日から3日になりました。配送日も1日おきにしてもらうなど交渉して、なるべく人件費やエネルギーコストを抑えています。
幸いにもうちの場合、働くのはそこそこでいいという、勤続20年レベルのベテランパートさんが多いので、お互いのニーズが一致するくらいの働き具合に落ち着いています」
パティシエでもあるパートナー・光さんとの出会いがカフェのオープンにつながる

卸売り中心の業態からの脱却を模索するなかでたどり着いたのが、カフェという形態でした。
「豆腐を高付加価値で売ろうと思うとなかなか難しいんです。原料にこだわるようになって、放浪時代に出合った天然のにがりを使うようにしたり、製法やストーリーをきちんと伝えて差別化したりすることに力を入れ始めました。
最初は催事やイベントに出展していたんですが、恒常的につながれる拠点がないとお客さんがつかないよな、とも感じていました」
そんなタイミングで結婚したお相手が、もともとパティシエをしていたパートナーの光さんです。光さんも自分の店を出したいという思いがあり、2021年5月、工場の裏手にカフェ「とうふやたかはし」をオープンしました。
カフェでは、原料にこだわった豆腐やがんもどきなどが直売されているほか、豆腐や豆乳、おからを使ったスイーツや、湯豆腐定食などのランチを楽しめます。


「イベント出展で東京に行くと、アレルギーのお子さんが多くて驚きました。おからドーナツなども販売していたんですが、友達と買いに来たのに卵アレルギーで1人だけ食べられないという子もいて、なんとか対応したいなと思っていたんです。そこでカフェのメニューは、誰かが我慢しなくていいように、小麦・卵・乳製品アレルギーとビーガンにも対応しています。
カフェを開いたのは僕たちに子どもが生まれた時期でもあったので、子どもが遊べるようにボルダリングの壁を作ったり、トランポリンを置いていたりもしています。地域に根差した商売をやりたいという思いがあったので、近所の人や小学生が気軽に遊びに来てくれるのはうれしいですね」

家業や地域課題など長いスパンで考えないと解決できない課題に、一緒に向き合い続けている仲間がいた
そんな高橋さんが昨年参加したのが、地域に特化した6か月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVL)です。家業イノベーション・ラボ(以下家業ラボ)という、家業を成長させるためにイノベーションを起こそうとする次世代の挑戦者たちを応援する別プログラムから、「家業後継者支援枠」を活用しての参加でした。
「参加する前は、『僕がやってることって事業と言えるのかな?』と悩んでいましたが、実際にラボで学んだことで、お店でのイベントや子どもたちが集まれる場作りなど、地域課題と事業を結びつけた活動を自然とやってきていたんだなと気付くことができました。
ただ、無意識と意図的にやるのとでは全然違うので、そこを意識して地域との関わり方を深掘りして考えられるようになったのは大きかったです。次はこういうことをやってみたい、というのがどんどん出てくるようになりました」
高橋さんは1年程前から、八千代町のことを自分ごととして考える「ヤチヨゴト」というイベントを立ち上げ、ヒーローズトークと題して町で活躍する人を紹介しているほか、餅つきやバーベキューなどのみんなで楽しむ場作りを、月に1回のペースで開催しています。

また、東京のアイスクリーム店「あくび」を経営するLVL同期と親交を深めたことで、八千代町での豆乳アイス作りの企画や、東京での豆腐や味噌作りイベントの企画が生まれるなど、「ヤチヨゴト」の活動もますます多彩なものになっているようです。
さらに、三重県鳥羽市の答志島(とうしじま)で空き家事業に取り組む同期を訪ねる予定もあるなど、LVLで生まれたネットワークを積極的に活用しています。
「僕も家業で大変なときは、つい答えや解決策を求めてしまうんですが、家業や地域のことって長いスパンで考えないと解決できないことも多いですよね。すぐに答えを出すより、仲間と話しながら自分なりの考えを熟成させていくのが大切なのかなと感じています。
LVLでは『そもそも本当にこの土地でやるの?』と根底がゆらぐような人も結構いたんですが、そういうのも含めて、悩みって絶対に尽きない。地域の中だけだと悩みを打ち明けにくいこともありますし、それぞれが抱える問いを真剣に考えてくれる全国各地の仲間とつながれたのはすごくよかったです」

多くの人と関わることで視野が広がった。事業を通じた地域づくりは続く
「目の前の赤字をどうにかしなければ」というところから始まった豆腐店の経営ですが、今では地域内外の多様な人が関わる事業へと変貌しつつあります。
「地元の農家さんとコラボして、いちごの豆乳スムージーやシャインマスカットのクレープを作ったり、地域に根ざしたコミュニティづくりに向けて、カフェで豆腐や地域の伝統文化に関するイベントを開催したりもしています。
家業ラボを通してつながった副業人材の方も2人いて、パッケージや商品開発、イベントの企画などに関わってもらっているところです。こういった関わりを通じて、視野は以前より広がりました」

豆腐業界の集まりにも積極的に参加し、機会があるごとに全国各地の豆腐店や農家の視察に訪れるなど、よりおいしい豆腐作りのため、日々研鑽を重ねる高橋さん。最後に今後の展望について伺いました。
「地元の農家さんとの連携は、これからもどんどんしていきたいですね。それから、最近は行政のイベントや委員会にも積極的に参加しているので、連携して豆腐作りなどの体験や食育の場をつくれたらと思っています。
とはいえ一人ではできませんから、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)的にいろいろな人に関わってもらえるといいですね。
各地で豆腐屋も減ってきていますが、『この町に豆腐屋があって良かった』と思ってもらえるようにがんばっています。さらに2026年4月には東京都港区の芝浦に2号店を出店すべく、絶賛準備中です。
豆腐の価値だけではなく、八千代町の農産物や関わった人とのコラボ商品など、『とうふやたかはし』ならではの価値を発信できる拠点にしていきたいと思っているので、お近くにお越しの際はぜひ立ち寄ってみてください」

高橋さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3月から4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

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