ローカルベンチャー

公共空間が変われば地域が変わる。地域資源を活かした民間主導での公園づくりに取り組む、アソビシロ 原本太郎さん

たとえば居心地のいい公園に行ったとき、みなさんはその公園がどんな風につくられた場所なのか考えたことはありますか? 今回は、唯一無二の景観というそのエリアならではの強みを見出し、鹿児島県南九州市で民間主導の公園運営や事業づくりに取り組む、原本太郎さんの活動をご紹介します。

※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

原本太郎(はらもと たろう)さん
一般社団法人アソビシロ 代表理事/ローカルベンチャーラボ第6期生
鹿児島市出身。東京工業大学・大学院で景観デザインを学び、卒業後は建設コンサルタントで公共空間のデザインや地域活性化・観光振興の計画策定に携わる。2019年7月にUターンし、一般社団法人テンラボに所属。コミュニティデザインやファシリテーションを学びながら、県内各地の地域づくりを支援する。2021年4月から、鹿児島県南九州市頴娃町(えいちょう)に地域おこし協力隊として移住。2023年3月に一般社団法人アソビシロを設立し、番所鼻自然公園を拠点にコミュニティづくりを軸としたパークマネジメントに取り組んでいる。

景観はコントロールできないからおもしろい。手触り感のあるまちづくりの場を求めてのUターン

もともと手を動かして物を作ったり、折り込みチラシで間取り図を見たりするのが好きだったという原本さん。建築に興味をもち、大学で土木や都市計画まで含めたカリキュラムを学ぶなかで、景観へと関心が広がっていきます。

「建築はクライアントのニーズを聞いて、設計士がそれに応える形でできていきますが、景観はニーズもよくわからないし、自然や周囲の建物なども含めたもので、コントロールできる範疇を超えていますよね。でも人の心象としては、『いい景観だな』『いい場所だな』と思う何かがあるのがおもしろいなと思いました」

大学院の研究室で、大分県別府市の護岸工事のランドスケープデザインに携わったことをきっかけにまちづくりにも関心をもつようになり、公共空間の景観デザインができる仕事がしたいと、東京の建設コンサルタントに就職します。

岩手県陸前高田市の市街地復興計画や、沖縄県宜野湾市の普天間飛行場跡地の利用構想の策定など、全国各地での事業に携わってきた原本さんですが、あまりに大規模な計画で、そこに暮らす人々の思いを感じられないことに次第に違和感を感じるようになりました。

「このままでいいのかと、退職して地方を拠点に活動することにしたんです。行くなら瀬戸内地方や九州など、暖かいところがいいなと思っていましたが、温泉と土地勘があることが決め手となり、最終的には地元の鹿児島にUターンしました。

今度は個人事業主として仕事をしたいと思っていたので、まちづくりを実践するメンバーが集まる『一般社団法人テンラボ』があったことも大きかったですね。今の仕事でもやっぱり関係者とのコミュニケーションが大切なので、テンラボでNVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)のような対話や、ファシリテーションの手法を学べたことは財産になっています」

テンラボメンバーと。右から3番目が原本さん

やりたいことに挑戦しやすい体制を考えると協力隊だった。挑むのは、番所鼻自然公園リニューアルのミッション

テンラボに所属しながらフリーランスとして活動を始めた原本さんは、空間とコミュニティ両方のデザインに関われそうだと、鹿児島県南九州市頴娃町(えいちょう)の、「夢・風の里アグリランドえい」という公園運営のコンペティションに応募します。

「残念ながらそのときは落選となってしまったのですが、僕の提案書を見た『NPO法人頴娃おこそ会』(以下:おこそ会)のメンバーが『すごくいい提案だったよ。一緒に何かできないかな?』と声をかけてくれたんです。おこそ会で活動するための体制を考えたときに、地域おこし協力隊制度を活用するとよさそうだということになり、2021年4月に南九州市からおこそ会への派遣という形で協力隊に着任しました」

こうして関わることになったのが、番所鼻(ばんどころばな)自然公園の活用事業でした。原本さんが着任したのは、おこそ会の尽力により、公園内で10年以上廃墟となっていた宴会場跡地の撤去がようやく実現したというタイミング。この跡地の活用が、原本さんのミッションの一つでした。

「おこそ会が寛容で、4月1日の着任日から僕をリーダーに据えてくれたので動きやすかったですね。こんな地域はなかなかないと思います。まずは実際に使ってみないとわからないので、毎月最終日曜日に6~7台のキッチンカーを呼ぶ『絶景ごはん』というイベントを始めました」

絶景ごはんの様子。目の前には薩摩富士として知られる開聞岳と、東シナ海が広がる

「ちょうどコロナ禍だったので、屋外のほうが可能性がある時期だったんです。薩摩富士として知られる開聞岳(かいもんだけ)と東シナ海のきれいな景色を眺めながら、テーブルと椅子を並べてご飯を食べられる場をつくることで、どれだけ人が集まるか実験しつつ、並行して市役所と連携し、公園のリニューアル計画を進めていきました」

内閣府の地方創生事業や県の観光地づくり事業、市の再整備事業などを組み合わせて予算を確保する際は、半分市役所職員という協力隊の立場を活かし、原本さん自ら申請書や提案書の作成にも取り組んだそうです。

「元建設コンサルなので、そういった資料の作成は得意分野です。行政・地元としっかり話し合いながら事業計画を練り、地方創生の後押しもある時期だったので、一気に事業が進んだという手応えがありました」

前例のないイベントを実現させた、地道な交渉の積み重ね

「絶景ごはん」のイベントを重ねるなかで、「こういうことをやってみたい」と声がかかり、公園内で別の派生イベントが生まれることもありました。なかでも2022年3月に実施した「おでんと、たきびと、」というイベントは思い出深いものだそう。

「屋台を呼んで海に沈む夕日や焚き火を楽しみながら、おでんやお酒を味わうイベントです。このなかでも公園の中での焚き火は、市役所と約1カ月の交渉を経てやっと実現できました。

条例で定まっているわけでもなく、公園管理の内規に書いてあるだけなので、明確にやってはいけない理由はなかったのですが、まねして個人で焚火をする人が出てきたら危ない、直火だと危ない、といった懸念点がいろいろと挙げられました。あくまでイベントで、個人ではやらないようにアナウンスしましょう、直火ではなく焚き火台を使いましょうなど、そういった懸念点を一つひとつ地道につぶしていった感じです。

実際にやってみるとクレームなどもなく、その後は毎回許可を取らずとも実施できるようになりました。最初は険しい顔だった市役所の人たちも、今では一緒に焚き火にあたっています(笑)」

「おでんと、たきびと、」の実際のイベントの様子

その後、原本さんは協力隊の任期終了後も地域で生計を立てていけるよう、在任期間中の2023年3月に「一般社団法人アソビシロ」を設立し、任期3年目からは公園内に新設するカフェの計画立案や運営など、番所鼻公園の運営に関わる事業の受託を始めました。同年6月には「音楽のバンドのようにセッションしながら、公園を起点に地域をつなぐ絆を育んでいく」という意味を込めた、「bandparlk -バンドパーク-」という公園の愛称も生まれ、公園のグランドデザイン策定が進んでいきます。

bandparkとして生まれ変わった公園。エリア全体を見渡して、必要な要素を考える

公園内にもともとあった、50年以上の歴史をもつ老舗旅館・いせえび荘と、日本で唯一のタツノオトシゴ観光養殖場・タツノオトシゴハウスに加え、2024年4月にはスペシャリティコーヒーと絶景を楽しめるカフェ・イソヒヨコーヒーが新たにオープン。

宴会場跡地はモルック広場として生まれ変わり、2025年8月のリニューアルオープンに合わせて、1日2組限定のツリーハウスのあるキャンプ場・ソナレの森もお披露目となりました。原本さんの着任前は年間7万人程だった公園の来訪者数も、2024年には年間20万人にまで増加しています。

「結果的にカフェやキャンプ場を新設することになりましたが、もとからそれをやりたかったというわけではありません。行政職員、集落の自治会長、公民館長、おこそ会のメンバーといったステークホルダーと話し合うなかで出てきた、『これだけ景色がいい場所なんだから、おいしいコーヒーが飲めるカフェがあったら最高だよね』という思いを形にしたら、今ある場になっていったという感覚です」

「地域には『どういう場所にしたいか』を起点に考える人が少ないので、そういった役割は意識的に担いたいし、実践できているんじゃないかと思っています。行き詰まっても諦めるんじゃなくて、形を変えてやるとか、別の道があるはずです。

思い通りにはならないよなと思いつつ、大筋では思い通りにいっているかもしれません。エリア全体で足りないものに、キャンプ場など自分自身の『あったらいいな』を少し混ぜ込みながら、整備や運営の計画を考えています。

現在はbandparlkのほかに、海岸線沿いの2つの公園も整備しているので、同じような考え方に沿っておもしろい公園が広がっていけばいいなと思っているところです」

フィールドワークでのインスピレーションが、自分の地域を変える第一歩に

原本さんは、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVL)の卒業生でもあります。最後に、LVLに参加された動機や、プログラムで印象に残っていることについても伺いました。

「パークマネジメントやキャンプ事業について学びたいという気持ちもありましたし、県内だけだと視座を高めるのに限界があるなと思い参加しました。印象に残っているのは、北海道の下川町と厚真町へのフィールドワークです。土地柄も考え方も全然違うけど、空間づくりや人と人との関係性がすごくいいなと感じました」

北海道下川町でのフィールドワークの一枚。左端が原本さん

「今、協力隊のコーディネート事業にも携わっているんですが、それには下川町の起業型地域おこし協力隊『シモカワベアーズ』のイメージが大きく影響しています。僕自身も協力隊として活動していたときは、おこそ会が動きやすい場を整えてくれたり、地域の人とつないでくれたりしたことがすごく助けになりました。南九州市でもそういったサポート体制づくりを進めて、挑戦する人がもっと増えたらいいなと活動中です。

LVLでは普段だったら接点がないような方々と出会うことができましたし、飛び込んでみたらきっといい機会になると思います」


原本さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3月から4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

>> ローカルベンチャーラボ公式サイト

>> ローカルベンチャーラボ X(旧Twitter)

>> ローカルベンチャーラボ Facebook

>>ローカルベンチャーラボInstagram

この記事を書いた人
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宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。
その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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