ローカルベンチャー

まずは飛び込んでみなきゃわからない。新卒で始めた、書店を拠点にしたまちづくり──たてよこ書店 堀田滉樹さん

新潟県上越市に残る、伝統的な雁木(がんぎ)町家。その一つを活用して、「たてよこ書店」という小さな書店を営んでいるのが、今回紹介する堀田滉樹さんです。堀田さんは大学在学中に休学して「たてよこ書店」を開業し、現在は上越市で書店を経営しつつ、東京でも個人事業主として働くという二拠点生活を送っています。

「新卒で就職」という一般的なルートではなく、地元で個人事業主という道を選んだ経緯や、開業までの試行錯誤、これから目指すまちづくりまで、幅広く伺いました。

※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

堀田 滉樹(ほった こうき)さん
たてよこ書店 /ローカルベンチャーラボ第9期生
2000年生まれ。新潟県上越市出身。大学進学を機に上京し、在学中の2022年12月に地元上越市の雁木町家を活用して『たてよこ書店』を開業。以来、3年にわたって東京と上越での二拠点生活をしながら店舗を運営。『まちの ”たて” と ”よこ” を紡ぐ』というコンセプトのもと、まちの歴史や文化、伝統などの「たてのつながり」、住民、近隣の地域、事業者などの「よこのつながり」を丁寧に紡いでいくことで、上越らしさのある暮らしづくりに取り組んでいる。
たてよこ書店 公式サイト

コロナ禍の逆境を逆手に。場所にとらわれず、福島の過疎地域で積み重ねた地域づくりの経験

堀田さんがまちづくりに関心をもつようになったのは、書店で偶然手に取った、山崎亮さんの『コミュニティデザイン 人がつながるしくみをつくる』という本がきっかけでした。

「高校まではほぼ野球しかやっていなくて、社会のことをほとんど知らないまま進学のために上京したんです。この本を読んで『こういうことが仕事になるんだ』と知り、まりづくりに興味をもつようになりました」

ちょうど2020年頃のことで、コロナ禍のため大学2年生の1年間はすべての講義がオンラインとなった時期でした。この状況を「インターネットとパソコンさえあればどこでも受講できる。東京にいる必要はないかもしれない」とプラスにとらえた堀田さんは、Instagramで知った「地域ベンチャー留学」(事務局:NPO法人ETIC.)というプログラムに応募します。

「地元の上越市は人口約18万人で、新潟県内では3番目に人口が多い都市です。もっと人が少ない場所を体験してみたくて、福島県の葛尾村(かつらおむら)で住み込みのインターンシップに取り組みました」

葛尾村での日常

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の影響により発生した福島第一原子力発電所事故のため、葛尾村は約5年もの長期にわたり全村避難となった地域でした。

葛尾村での堀田さんのミッションは、村内における電力の自給自足を目指して設立された、地域新電力の会社の広報とPR。1カ月半程かけて取り組んだあとも、次の期の学生メンターとして残り、コーディネーターに近い立場も経験します。

「プログラムを作る側になることで初めて見えてくる部分がありました。そもそもどこの企業をパートナーとして選定するか、どんなミッションに取り組むか、何人チームにするか、滞在場所をどうするか、事前・中間研修をどう組むかなど、考えるべきことが山ほどあって難しかったです。ありとあらゆる動線が設計されていたんだなと感じました」

このときの経験は、現在の東京での仕事である、渋谷区のアクセラレーションスペース「100BANCH」での業務にも活かされているそうです。

尾道で出会った、「自分なりのなりわい」を形にして生きる大人たち

福島での活動に一区切りがついた堀田さん。2020年10月からは、広島県尾道市のゲストハウスに約1カ月滞在し、地域に根ざした活動に取り組むロールモデルとなるような方々と出会います。

「葛尾村は山奥だったので、今度は海の近くに行こうと滞在先を探していたところ、たまたま尾道で1カ月4万円で過ごせるゲストハウスを見つけました。どこであれ地域づくりをがんばっている人はいるだろうから、行った先で関係を作れたらと考えていたんです。

SNSで『尾道に滞在します』と投稿したら、以前島根県雲南市で1カ月のインターンシップに参加したときにお世話になった、一般社団法人umiの山下実里(やました みのり)さんが反応してくれて、いろいろと人を紹介してくれました」

まず突撃で会いに行ったのが、当時「ONOMICHI SHARE」というコワーキングスペースを運営していた後藤峻(ごとう たかし)さんです。

尾道市が主催する若者チャレンジ講座「おのみちまちカレッジ」の企画運営を担当されていたことから、講座のプログラムに同行させてもらったり、尾道のおもしろい人を紹介してもらったりと、そこから数珠つなぎに人脈を開拓し、1カ月で尾道の中枢を担う10人程の地域のプレイヤーと交流することができました。

「コーヒー屋台を出してる女性や、ドーナツ屋さんを営みながら世間に縛られずに生きているような方など、結果的に尾道でユニークな活動をしている大人とは大体会うことができました。今振り返ると、自分でも『よくそんなことやったな』と思います(笑)。

自由な人、真面目な人、いろいろなタイプの方がいましたが、それぞれ自分の考えていることを形にして楽しそうに生きている様子を目の当たりにして、『これは就職ではないかも』『挑戦してみる価値があるかもしれない』と思うようになりました」

よく釣りをしていた、尾道でのお気に入りスポット

まずは小さくチャレンジ。飛び込みと数珠つなぎでたどり着いた、家賃ゼロ物件

東京に戻り、大学生活を送りながら今後のことを考えた結果、堀田さんが選択したのは、大学を休学して「自分なりのなりわい」の土台をつくるということでした。

「部屋を見渡したら本がたくさんあったので、まずはこれを使って何か始めようと思いました。もともと本を読むことや、本屋という空間がすごく好きだったんです。地元にいた頃も、家族でスーパーに行くときなんかは本屋さんで待たせてもらっていたくらいで、今も本屋さんを見かけたら必ず立ち寄ります。『いつかは作りたいと思っていたけど、早速チャンスが来たぞ!』という感じでした」

そこでまずは、本を扱う感覚をつかみ、本のある場が地域にどんな変化を起こすのか探ってみようと、実験的に近所の公園で青空図書館を開催することにしました。

国分寺市の公園で実験的に取り組んでいた、古本屋台

「週1ペースで、晴れた日に自転車に本を積んで公園に行っていました。本を並べていると『本屋ですか?』としょっちゅう聞かれるので、自治体に申請して途中から本の販売に切り替えたんです。だだっ広い歴史公園で、市も活用のアイデアを求めていたようなので、運よく使わせてもらえたんだと思います」

東京には書店も多く家賃も高いため、書店をやるなら地元だろうと考えていた堀田さんには、すでにこのエリアがいいという心当たりがありました。それが、通学路としてなじみがあり、雁木町家が並ぶ上越市東本町です。

ひさしが軒から長くせり出した雁木造りの町屋が並ぶ雁木通り。雨や雪でもぬれずに歩ける

「尾道のドーナツ屋さんも、月1万円で物件を借りて、DIYで店内を改装していました。店舗維持のコストが小さいから、週末午後だけの営業でもやっていけるという話を聞いていたので、それが頭にあったんです。

東本町周辺には空き家がたくさんあるのも知っていましたし、そんな地域でしっかりとやりたいことや想いを伝えれば、応援してくれる人がいるはずだという考えもありました。尾道での経験もありましたし、地元の小さな商店に飛び込み、しっかり説明して人につないでもらうといったことを繰り返して、今の大家さんと出会うことができました」

大家さんは、「一般社団法人雁木のまち再生」で町家の保存や再生に取り組んでいる方からご紹介いただいたそうです。最初の数年間は家賃ゼロで挑戦し、数年後に金額を相談の上、買い取るという契約で物件を使わせてもらえることになりました。

「もともと本のある居場所を作ろうと改装していた場所だったようで、本屋をやりたいという自分が来たのはすごい巡り合わせだなと思います。最初から完璧を目指すと一生始められないので、最初は私物の本を並べて、店内の一部をDIYで改装して、6割くらいできあがったところでオープンしました。そこから少しずつ本屋っぽくなっていった感じです。1年程前から、少しずつ家賃も払えるようになりました」

温かみのあるたてよこ書店の店内

個人事業主だからこそ実現できた、新卒からの二拠点居住生活

堀田さんがやりたいのはあくまでまちづくりということで、「たてよこ書店」開店初期は、書店以外にもさまざまなことに挑戦していたそうです。

「はす向かいが小学校なので、離れの建物を子どもたちの遊び場にしています。当初は他にも畑やギャラリースペースなどをやっていたのですが、一人でいろんなことをやるのは思ったより大変で、今は本屋とイベントスペースの2つに絞りました。

それでも本屋だけで生計を立てるのは難しい部分はもちろんありますし、何より東京でもまだまだ学ぶべきことはたくさんあるので、『100BANCH』で働きながらさまざまな経験をさせていただいています。月の半分は本屋をやりながらオンラインで稼働して、もう半分は東京で出勤するという生活です。

二拠点生活がしたいから個人事業主を選んだという側面もあるので、今の生活は結構気に入っています。ずっと上越だともっと刺激がほしくなるし、ずっと東京だと疲弊してしまう。どっちの生活も好きで、どっちも嫌いという感じですね(笑)」

100BANCHでお仕事中

尾道で遭遇した万引き事件が原体験に。医療福祉や文化事業へと広がる視座

堀田さんは、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボの卒業生でもあります。大学生世代の起業家向け支援プログラム「MAKERS UNIVERSITY」への参加を経て、地域を軸により深くこれからの事業と向き合いたいと考えての参加でした。

「全国各地で似たような課題を感じながら挑戦している参加者と、横のつながりができたのがよかったです。それから、メンターの和田智行さんとの出会いも大きいですね。和田さんは、故郷である福島県南相馬市小高区を拠点に、『地域の100の課題から100のビジネスを創出する』というミッションを掲げて多種多様な事業の創出に取り組んでいますが、僕が上越でやりたいことに近いかもと思えました」

ローカルベンチャーラボで参加した和田ゼミのメンバーたちと、和田さんが拠点とする南相馬市小高区フィールドワークのときの一枚。下段左から2番目が和田さん、下段右端が堀田さん

堀田さんが目指すまちづくりの原体験となっているのが、尾道滞在中に遭遇したとある事件です。尾道駅近くの、オーガニック野菜なども扱う少し風変わりな無人のCDショップ「れいこう堂」に、3日連続で万引きが入ったのです。すぐに近所のおじいさんが犯人だとわかったものの、店主の信恵勝彦(のぶえ かつひこ)さんはすぐに通報することはありませんでした。

ひとまず事情を聞いたところ、その人には頼れる家族もおらず、暖房もないほど困窮している状態にあることがわかりました。そこで信恵さんは周囲の人にも声をかけ、「オカネイラズ尾道」というコミュニティにつなぎ、無償で暖房や食料が手に入るようサポートしたのです。

「その後の生活もみんなで見守ろうといったことが起きていて、まちのコミュニティがセーフティネットになっていると感じました。こんなのって見たことがなかったし、こんな暮らしを自分でもつくりたい。まったく同じものがつくれなくても、そういった関係性がある暮らしってとても大切だと思ったんです。

そのためにも、本だけではなくまち全体を編集するようなイメージで、いろいろな事業をつくっていけないかと考えています。たとえば医療福祉分野との関わりをもっと強めて、病院以外の場所で医師や保健師とつながれるような場作りや、『上越らしさ』がある暮らしをつくる文化事業に取り組みたいです。

最近は個人で出版も始めましたし、地域に残る瞽女(ごぜ・弾き語りをしながら新潟の農山村をめぐっていた盲目の女性旅芸人)の文化を新たな切り口で継承していけないかと、創作落語作りのコーディネートにも挑戦しています」

地域と医療福祉をテーマに開催したイベントの様子

まだまだ進化中といった様子の堀田さん。これから地域に根付いた事業を構想してみたいという人に向けて、「いったん飛び込んでみなきゃ何もわからない」とエールを送ります。

「学生時代から飛び込みでたくさんの人に話を聞いてもらい、受け入れてもらったことが今につながっています。時には厳しい対応をされることもあるかもしれませんが、それも込みでまずは飛び込んでみてください」


堀田さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3月から4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

>> ローカルベンチャーラボ公式サイト

>> ローカルベンチャーラボ X(旧Twitter)

>> ローカルベンチャーラボ Facebook

>>ローカルベンチャーラボInstagram

この記事を書いた人
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宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。
その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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