2002年、NPO法人ETIC.(以下、エティック)と共に、国内企業として初めて社会起業家育成支援に取り組むプログラム「NEC社会起業塾」をスタートしたNEC。24年間で累計78ものNPOと社会起業家を支援してきました。
2026年2月には、社会起業家とNECグループのテクノロジーや社員スキルとのより深い共創を促すため、「NEC社会起業家フォーラム2025」を開催。リアルでの参加、オンラインでの参加合わせて約70名もの企業とソーシャルセクターの方々が参加しました。
今年のテーマは、「社会課題への気づき」「起業家精神の学び」「共創を通じた社会価値創造の可能性」。先進的な取り組みを進める企業、社会起業家、中間支援組織の登壇者から共創の現在地を聞き、共創の価値や課題、今後の可能性について理解を深め、未来に求められるステップを確認する1日となりました。

企業・社会起業家・中間支援組織。それぞれの立場から見た共創の現在地
第1部のパネルディスカッションでは、5名のゲスト登壇者から、共創の現在地を伺う時間となりました。
まずは企業の立場から、「サントリーホールディングス株式会社」CSR推進部長一木典子さんをお迎えして、サントリーグループの次世代エンパワメント活動「君は未知数」とセクターを超えた連携でコレクティブインパクトの創出を目指す活動の現状、企業がCSR活動等を通して社会的価値の創出に取り組む意義についてお話しいただきました(※1)。
さらに「合同会社デロイト トーマツ」CSRディレクターの小國泰弘さんから、企業の中でも特にコンサルティングという立場で、日本に留まらず世界の潮流を踏まえた支援の実際について伺いました。
社会起業家の立場からは、経済的な困難を抱える子どもたちが塾や習い事、キャンプなどの学校外教育に使える「スタディクーポン」を発行するなど、放課後の学びの格差解消に取り組む「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」代表理事の今井悠介さんから活動をご紹介いただきました(※2)。
さらに社会起業家と企業を結ぶ中間支援組織の立場からは、「エティック」シニアコーディネーターの白鳥環よりセクターを超えた共創の現在地が語られ、「NEC(日本電気株式会社)」みらい価値共創部門ビジネスイノベーション統括部ディレクターの藤村広祐さんより、オープンイノベーションなど、NECの新しい共創への挑戦が語られました。
※1 サントリーグループの次世代エンパワメント活動「君は未知数」について取材した記事はこちらから:https://drivemedia.etic.or.jp/38111/
※2 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの活動を取材した記事はこちらから:https://drivemedia.etic.or.jp/37702/

自社だけでは生み出せない価値が、共創の中に必ずある
登壇者発表を終え、ディスカッションに移ります。テーマは、「社会起業家と企業との共創の成果・価値をどう捉えているのか?」。社会的事業の成果や価値をどのように捉えるかは、各社の状況によってそれぞれ違いながらも、営利企業にとって共通する一つの課題です。
まずは企業の立場から、サントリー一木さん、デロイト トーマツ小國さん、NEC藤村さんより、それぞれの実践から絞り出された今の実感が下記のように語られました。

サントリー一木:究極成果は、最終受益者である子ども・若者の幸福度、未来に希望を持てるようになったかなどの変化だと考えています。ただ、その成果の実現には長い時間がかかりますし、更には、非財務指標又は長期財務指標として損益計算書(P/L)ではなく貸借対照表(B/S)に反映されていくものです。一方で、それだけでは、社内の共感・応援が広がりにくい。だからこそ、短期成果も重要な事業部門との連携も積極的に行っています。
そのなかでわかってきたことは、例えば営業先の企業様のニーズを踏まえた社会貢献活動をご提案したり、ご一緒いただくことが、その企業様の課題解決の一つとして営業部門にとっても価値になるということ。もう一つが、社員のエンゲージメント向上につながるということでした。
人材の獲得が難しくなるなか、今の若い世代の多くが関心を持っている社会貢献活動をきっかけに、「一緒に働きたい」と思ってもらえる会社になることは短中期的な価値にもなると感じます。

デロイト トーマツ小國:市民の安心な暮らしがビジネスを支える原点になるという考えのもと、当社は「公平・公正な社会をつくること」を目的に掲げ、社会貢献活動をしています。さらに、Deloitteグローバルのパーパスは 「Making an impact that matters」で、そうしたことに会社が真剣に取り組んでいるのだとメンバーに示し続けることで、ロイヤルティにつながっています。
また多様なクライアントの方々とお話しする機会の多いプロフェッショナルファームとして、社会に対する感度や価値観をメンバー一人ひとりが常に養っていく必要がありますし、メンバーがより良い人生、より良い社会への関わり方を実現するため、良質なインプットの機会にもなっているのではと思います。
決して会社として何かを得たいと思っての貢献事業ではないのですが、結果的にそうしたインパクトを生んでいるのではないかと感じています。

NEC藤村:私たちも、外部の起業家の方と事業を進めていく価値は、やはり自社の中では生み出せない事業をつくっていくことにあると感じています。
また、かなり幅広く事業を手掛けているなかでの一つの軸が、「社会価値創造企業」ということなんですね。そうした側面を、社会起業家との共創でより推進していけたらと思っています。
NPO単独ではできなかった規模のインパクト創出を目指して
一方、社会起業家の立場からは下記のように感じられているとチャンス・フォー・チルドレンの今井さんは語ります。

チャンス・フォー・チルドレン今井:私が感じるのは、NPOが単独ではできなかったような価値をつくることが、企業と連携することで可能になるということです。
私たちが運営するスタディクーポン事業は、民間の寄付金を財源に、15年以上の活動の中でさまざまな試行錯誤を繰り返しながら、子どもたちにより良い形で学びを届けるための知見を蓄積してきました。
例えば、定期的な面談を通じてクーポンを利用する子どもの意思決定を支える「ブラザーシスター」や、地域の方々と一緒に多様な学びの場をつくり、そこに子どもたちをつなげる役割を担う「地域コーディネーター」の配置は、子どもたち一人ひとりのニーズに沿った学びの機会を届ける上で、非常に価値のある仕組みだと感じています。
一方で、最近はスタディクーポン事業が自治体の政策として取り入れられる事例が増えてきていますが、自治体の委託事業においても、これらの価値をいかに再現できるかが重要です。特に行政主導で事業を実施する場合、財源や制度上の制約などにより、これまでの活動を通じて得た知見を事業に反映するのが難しいことがあります。
そんななか、これまで年間100社ほどの企業さんから寄付をいただいてきたのですが、特にSMBCグループさんとは年間1億円を3年間、さらにフルタイムの出向社員を派遣していただいて。そうして始まったのが、チャンス・フォー・チルドレン、SMBCグループさん、自治体と連携した3者協働型の事業でした。
自治体と連携しながらも寄付を財源にすることで、これまでに活動を通じて培ってきたノウハウを活かす形で事業を進められ、結果、今回の協働型事業では地域コーディネーターを位置付けることで地域の中でいろんな学びが生まれていくような連携を進めることができました。これは出向社員の方がかなり汗を流して一緒に取り組んでくださったおかげで実現できたと思っていて、3年間で事業化し、現在これが新しい政策として動き、国も支援するという流れが生まれました。
もう一つ、この出向社員の方が「SMBCブラザーシスター」の仕組みをつくってくれたことで、SMBCの従業員の方々にも、研修を受けた上で、クーポンを利用する子どもたちの相談支援を担っていただけるようになりました。この仕組みは従業員のエンゲージメント向上につながっていると伺っています。

最後に、社会起業家と企業をつなげる立場にいる中間支援組織のエティック白鳥からは、企業の声、社会起業家の声を受けて、下記のような実感が語られました。
エティック白鳥:私たちが社会起業家と企業の共創のコーディネートを始めたきっかけは、まさに「社会起業家は企業や行政と組むことで初めて、広く社会にインパクトをもたらすことができるのではないか?」という問題意識でした。
特に最近感じている潮流として、とある外資系のIT企業の方がおっしゃられていた、「ソーシャルセクターとの連携で可能になるのは、技術開発とリーダーシップ開発、それを通じた市場開発の三位一体だ」という言葉が思い出されます。
社会課題の最前線で取り組まれている社会企業と一緒に技術を開発することで、本当に顧客の課題解決に資する技術を開発することができたり、社員の技術を磨けたり、起業家に接することでリーダーシップが開発されたり、複合的な効果を求められているのが現在の潮流なのかなと思います。
「本当に対等な」共創の鍵となるのは、信頼関係と、社会的成果に本気でコミットできる環境
共創の価値が明らかになっていく一方、実際に事業を進める上でまだまだ存在する課題をそれぞれの立場からどう解決しようとしているのか、下記のようなディスカッションが続きました。
サントリー一木: 損益計算書(P/L)の意義だけに寄りすぎると、本質的な活動が難しくなります。けれど本質的な活動だけをしていると、社内の味方を増やすことが難しい。社会課題解決に向けた長期的なアウトカムを本質に置きながらもブランドにつなげていく、または短期的に営業部門にも取引先との商談に使えるなど、いくつかの部門、社内のステークホルダー別にメリットを感じていただけるような取り組みも合わせてポートフォリオをつくることは意識しています。
また実際の共創では、0→1までは互いに勢いでできるのですが、本当のアウトカムまでには両セクターの価値観の違いでぶつかることもあるので、常に両セクターでコミュニケーションをとりながら軸をぶらさず一緒に乗り越えていくことが求められます。私たちは毎月のミーティングに加え、毎年一回合宿をして、率直に話し合うような場を外部のファシリテーターを入れてつくることで乗り越えようとしています。
デロイト トーマツ小國:当社は世界中の各ファームで社会課題に対する活動に統一感を持って取り組んでいるので、「社内で通す」という点では、もしかしたら一般的な国内企業よりは理解を得やすいところはあるかもしれません。
日々の活動でいうと、やはり一番大事だと感じるのは、ソーシャルセクターの方と共通言語を持つという部分です。我々も本業となる企業との業務の中では、例えば日本のソーシャルセクターが取り組んでいる社会課題や解決方法などの最新状況について触れる機会が限られています。メンバーにそうしたことを学ぶ接点をつくっていくことを大事にしなければならないと感じています。
チャンス・フォー・チルドレン今井:私が感じてるのは一木さんがおっしゃっていたこととほぼ同じで、それをNPO側からの視点でお伝えすると、「本当に対等に」一緒に何かをつくるということそのものが、やはり企業連携の中では一番課題になってくるだろうと感じているということです。
実際、組織規模や文化があまりにも違いすぎるなかでは相当難しい。加えて、我々から企業に対してお客さんのように距離を持って接してしまうと、やはり思うような共創を互いにやっていくのは難しいです。
ただ、先述したSMBCグループさんとの連携に関しては、私たちの実感としては、そこを突破するような一つの兆しが見えた事業だなと思っています。背景には互いに対するリスペクトや信頼が醸成されていることがあると思っていて、最終的にはそこが一番鍵になるんだろうなと。
そうした信頼関係を実現していくには、いろんな要素があります。一つは企業側に、社会的価値を経営のど真ん中に置いて、社会的な成果を出していくことに本気でコミットできる環境があるか。さらに従業員の方に出向してもらう場合、その人がNPOで働くことが評価されるのか。
昔、ある企業さんに「出向で誰か来てもらえませんか?」と相談したとき、「その出向者のキャリアの空白期間になってしまう」と言われました。一方でSMBCさんの場合は、出向したキャリアがちゃんと社内で認められ、出向後のキャリアにも活かされているように感じます。環境が整ってやっと、本気で一緒にものがつくれるなと感じていますし、出向者が企業とNPOの翻訳者のような存在になってくれているとも感じています。

第1部を終え、第2部は会場に集まったNEC社員の皆さんと社会起業家とのラウンドテーブルを実施。終了後、参加した社員の方々からは
「非営利団体と企業との関係について、企業が上位ということではなく同等の立場で取り組む、という話が印象的でした」
「今後グループ内のプロボノ活動を始め、社会課題解決のための活動に積極的に参加したいと思いました」
「今回のようなイベントに継続して参加して、会社および社会貢献につなげていきたいと考えています」
などの声が届きました。ラウンドテーブルで必要性が語られた共創への社内文化醸成へ、確かな一歩となったようです。
「NEC社会起業家フォーラム」は来年度も開催予定。次回レポートもどうぞ楽しみにしていてください!
>> 「NEC社会起業家フォーラム2024」レポート記事はこちらから。共創の現在地を更新していけるようレポートを積み重ねていく予定です。

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