
総務省の発表によると、2025年度の地域おこし協力隊の隊員数は8,196人となり、6年連続で過去最多を更新しています。地域で活動する際の入口として定番となってきた感のある地域おこし協力隊制度ですが、果たしてその「出口」については戦略的に考えられているのでしょうか。
2026年7月に開催された「地域おこし協力隊 熊本サミット」には、そんな地域おこし協力隊の「その後」に関心をもつ現役隊員やOB・OG、自治体の協力隊担当職員の方々など、約100名が九州各地から参加しました。

こちらの記事では、九州(離島を除く)で最も人口が少ない村として知られる熊本県五木村(いつきむら)で、移住・インターンシップの受け入れや地域ブランドづくりなどに取り組む、土屋望生さんが担当した分科会の様子を要約してお届けします。


土屋 望生(つちや のぞみ)さん
株式会社日添 取締役
1993年熊本県球磨郡五木村生まれ。2015年、修業先として新卒でNPO法人ETIC.(エティック)に就職。地域活性事業の事務局、インターンシップ等のコーディネートを経験。2018年に五木村にUターンし、株式会社日添を起業。移住・インターンシップ受け入れや地域ブランドづくりなど、人材をつなぐことでさまざまな事業を手掛けている。特定地域づくり事業協同組合制度を活用した複業人材の仕組みづくりや、「過疎未来研究会」を通じた学び・対話・実践の場づくりにも取り組む。
株式会社日添 公式サイト
ローカルならではの「かっこよさ」で稼げる仕組みをつくりたい
株式会社日添をはじめとして、NPO法人いつきつなぎや五木村複業協同組合など、五木村を拠点とする4つの組織の運営に携わっている土屋さんですが、意外にも地域活性化には全く興味がなかったそうです。
「むしろめちゃめちゃ冷めた目で見ている側だったんです。それがあるとき五木村の愚痴を言い合っている場面に遭遇して、『なんてダサい人たちなんだ』と言ったら、『おまえも一緒じゃん』と返された。そこから靴に小石が入っているような感覚が生まれて、五木村のことが気になりだしました」
とはいえ、当時は何の経験もない学生だった土屋さんは、新卒で東京のNPO法人ETIC.(エティック)に入社。3年程働きながら、さまざまな地域の挑戦や葛藤、先進事例を学びます。
「東京はお金があればなんでも手に入るのがすごいなと思いました。お金って、俯瞰して考えると交換するものですよね。都会は作ってくれる人や仕入れてくれる人がいるから、お金と交換することで簡単に欲しいものを手に入れることができます。でも五木村にはそういう人がいないから、自分でつくるしかない。
自分の人生を自分で楽しむための知恵やスキル、アレンジ力がないと本当につまらない場所だけど、逆にそれができたらすごくクリエイティブじゃないですか? 私はそれこそが超かっこいいことだと思っているので、そんなかっこよさがもっと世間に認められて、収入にもつながるようにしていきたいんです。
『楽しさと稼げる仕事があれば、人はその町に居続ける』というのが私の持論ですが、多くの人が東京に惹かれる理由が、まさにこれだと思います。なんとなく楽しそう、なんとなく稼げそう。だから、そんな楽しさと仕事を五木村でつくれたら最高だなと思いながら活動しています」

地域コーディネーターの役割は、プロジェクト化・マッチング・伴走
土屋さんは地域コーディネーターとして、これまでさまざまな場面で地域内外の人を結びつける役割を担ってきました。その仕事の本質は、地域の課題や村の人のやりたいことをヒアリングしてプロジェクト化し、しかるべきものとマッチングさせることだと言います。
「『もし自分がもう1人いたら、どんなことをやってみたいですか?』といった問いかけで、その人がやりたいことを聞き出し、『やりましょうよ!』と応援するところからスタートしています。そして何があればできるのかを整理して、狙った人が関わりたくなるようなプロジェクトにして、世の中に発信するんです。
副業兼業で関わってくれる人がいたらできるかもしれないし、大学生インターンの子が1カ月来てくれたら実現するかもしれない。関わり方はオンラインなのか現地なのかなど、なるべく具体化していきます。
例えばご夫婦2人で営まれている五木とうふ店の事例では、村内の人口が減るなかで、村外にも売っていきたいという思いがありました。そこから出てきたのが、豆腐の自販機を設置するというアイデアです。
それが本当に事業として成り立つのかを検証するべく、名古屋から1名、関東から2名の副業人材をマッチングしました。まずは1度五木村に足を運んでもらい、その後は週に1回のオンラインミーティングを4カ月間実施しています。検証の結果、初期投資が回収できそうな見込みが立ったため、現在は自販機設置に向けて準備中です」

そしてもう1つ、地域コーディネーターにとって重要なのが伴走することです。
「事業者と人材をマッチングしただけだと、ほぼほぼ自然消滅します。だからこそ、進捗やお互いのモチベーション、今直面している課題などを確認しながら伴走する人が必要です。高額な報酬を準備できないという事業者も多いので、条件面ではなく何をやれるかを重視する人とマッチングしやすいサイトを選ぶなど、プロジェクトの掲載媒体も意識してみてください」
プロジェクトには「締切」を。締切後の受け皿は“ゆるいコミュニティ”
分科会に参加した方の多くに共通していたのが、プロジェクトの終了にともない、外部人材との接点がなくなってしまうという悩みでした。せっかくできた地域外とのつながりを維持するために、土屋さんはどのような工夫をされているのでしょうか。
「逆説的ですが、プロジェクトには締切をつくるのが一番有効だと思います。本業が忙しい、家庭の事情、本人のコンディションなど、さまざまな要因から、一生関わり続けるというのは現実的には難しいですよね。がんばった分だけその地域への思いは強くなりますが、普通は締切がないとがんばれないので、半年とか3カ月とか、プロジェクトを始めるときには終わりを決めるようにしています。
そしてプロジェクト終了後には、受け皿となるようなコミュニティを用意しています。五木村の場合は、『五木東京支部』というものをつくりました。これは、インターンや副業などで五木村に関わったことがある人が入れるコミュニティで、加入の条件は『2年に1回以上五木村という単語を思い出すこと』というゆるいものです。
グループチャットには副業のOB・OGが二十数人いて、恒例となっている年に1度の『五木の秋祭り』への出店や、3カ月に1回程度東京で開催されている飲み会など、関わりたくなったときに関わればいいというスタンスで活動が続いています。五木村発の新商品の試飲会や、五木村で夏季限定のかき氷屋さんをやるといった企画も生まれています。
この『五木東京支部』は、私が東京に出張する度に飲み会を開催して、仲よくなり始めたところで『こんなコミュニティをつくりたい』とプレゼンして立ち上げました。中心になってくれそうな人が2人くらい出てきたので、『これで私の仕事は終わったな』という感じで、今は本当に何もしていません。ちなみにそこまでは2年程かかりました。
グループ内に熱量差が生まれつつあるといった新たな課題もありますが、関わり続けられる仕組みの一つとして参考になればうれしいです」

100×1より、1×100の力を集めよう
土屋さんが関わる4つの組織の中で、今一番力を入れているのが五木村過疎未来研究会の運営だそうです。参加者の多くが関心をもっていた、地域の「中」の人同士をつなぐカギもこの会の活動にあるということで、取り組み内容を詳しくお話しいただきました。
「最初にお話しした『楽しさ』と『稼ぎ』を五木村で生み出していく上で最も大切なのが、この研究会での活動だと考えています。これまでの五木村には、なにかと行政に頼りがちな風潮がありましたが、住民自身で議論して実践していこうというのがこの会の趣旨です。特に、言いっぱなしで終わらせず、実践につなげることを大切にしています。
この会では、『もっと村がこうなったらいいのに』という思いがある人に対して、村からの補助金でチャレンジを形にできる仕組みをつくりました。林業、商業観光、教育・子育てなど、五木村の振興計画に沿った5つのテーマに基づき、住民のチャレンジしたいことに取り組んでいます。
例えば林業分野では、捨てられてしまう広葉樹の木材をどうにかできないかという声から、生木を削って手作りの小物などを作る、グリーンウッドワークに活用しようというプロジェクトが生まれました。自分だけのスプーンを作れるキットにしたところ、捨てるだけだった端材から、5,000円もの価値を生み出せるようになったんです。
村にふらっと遊びに来てくれた、株式会社良品計画の方もプロジェクトメンバーになってくれたので、グリーンウッドワークに使う専用ナイフの開発なども含め、現在協議中です」

村民のチャレンジを形にする際には、副業型の地域活性化企業人制度も活用されています。
「旅費や報酬の補助を受けながら、個人の副業として村に関わってもらうことができるので、村の人たちがチャレンジしたいと思ったとき、『それだったらあの人だよね』と、個人を口説いて五木に関わっていただいています。中の人だけでプロジェクトを進めようと思うとドライブがかかりきらないこともあるので、ここでも適宜必要なスキルをもつ人とマッチングすることがポイントです。
私が尊敬する先輩の言葉に、『起業家精神は、100×1よりも1×100のほうが、地域においては価値がある』というものがあります。強力なリーダーが1人いるよりも、ここでがんばっていくんだという覚悟をもって挑戦していく人が少しずつでも増えていくと、地域の空気が変わってくる。五木村で活動していて、そんな風に感じています」
数々の実践を重ねてきた土屋さんの言葉に、背中を押された参加者も多かったようです。それぞれの地域で、次はどう動いていくかを考える時間となりました。

以上、本記事では2026年7月24日に開催された「地域おこし協力隊 熊本サミット」のプログラムのうち、土屋望生さんによる分科会の内容をご紹介しました。
「地域おこし協力隊 熊本サミット」は、熊本県内で活動する地域おこし協力隊、協力隊OB・OG、自治体の協力隊担当職員を対象に開催し、約100名が参加。当日は、本記事でご紹介した基調講演をはじめ、6次化や空き家活用など8つのテーマに分かれての事例紹介・グループワークの他、交流会なども実施されました。参加者のみなさまには、これからの活動や事業づくりのヒントを得られる機会としてご活用いただいております。
主催:熊本県
運営:NPO法人ETIC.
※本プログラムは、「令和8年度 地域おこし協力隊等出口戦略支援業務」として、熊本県よりNPO法人ETIC.が委託を受け実施しました。

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