※Sustainable Brand Journey に掲載された記事を、当メディアで許諾を得て転載しています。

2026年5月15日・16日、虎ノ門ヒルズにて、第5回「Beyondカンファレンス 2026」が開催された。
今年のテーマは「個の意思に、組織の動力を」。
持続可能な社会とWell-Beingの実現を目指す、大手企業やベンチャー企業、大学、地方中小企業、NPOなど、熱意ある人々が集結した。
本記事では、2日間にわたって行われた「子ども支援」セッション1日目の様子をレポートする。
「子ども支援」と聞くと、多くの人は困窮家庭や不登校、虐待などの課題を思い浮かべるのではないだろうか。
もちろん、それらの支援は不可欠だ。
しかし、子どもを単に「支援の対象」として捉えるだけでは、社会全体を変える大きな力にはなり得ない。
子どもたちが好きなことに夢中になり、地域の大人たちとつながり、自由に挑戦できる環境が生まれると、そこには自然と人が集まり、コミュニティが育つ。
そして、その活気は地域経済や企業活動にも波及していく。
子どもは、地域を盛り上げ、ひいてはビジネスを盛り上げる起点となる存在なのではないだろうか。
本セッションでは、経済・教育・医療それぞれの経験と仮説を持ち寄り、子ども支援の捉え方を変え、企業が果たしうる役割のヒントをお伝えする。
企画者・登壇者
▍ファシリテーター
北川 幸子 氏 特定非営利活動法人プラットファーム 理事長 / NPO法人ETIC. and Beyondカンパニー事務局 / 株式会社doode 代表
▍登壇者
葉田 甲太 氏
エレコム株式会社 執行役員 / エレコムヘルスケア株式会社 取締役社長 / 認定NPO法人あおぞら 理事長/ 医師
加藤 彰彦 氏
教育学者 / 評論家 / ノンフィクション作家 / 元横浜市立大学教授 / 元沖縄大学学長 / 同大名誉教授
中田 智也 氏
三菱UFJ銀行 コーポレートバンキング企画部 調査役
後藤 愛実
株式会社YUIDEA サステナビリティエンゲージメント部
寄付に「未来への超長期投資」という新たな価値を見出す|中田 智也 氏

三菱UFJ銀行の中田氏は金融の立場から「寄付」を通じた社会課題解決とビジネスの両立を模索している。
「投資」という言葉は一般的に「出資」を指し、短・中期的な経済的リターンを期待する意味合いで使われる。
しかし本来、人への投資やソーシャルセクターへの資金循環は、5年や10年で目に見える成果が出るものばかりではない。
大学の研究が新たな産業を生み出したり、地域の子どもたちへの投資が将来の優秀な人材を育んだりするように、その真価は15年後、20年後に現れる 。
中田氏は、こうした長期的な価値創出に資金を循環させる仕組みとして、これまで主として社会貢献の文脈として活用されてきた寄付に「未来への超長期投資」という新たな価値を見出すことを提案する。
その実践として、三菱UFJ銀行は企業とソーシャルセクターをつなぐ新たな寄付仲介のサービスをスタートさせた。
【株式会社三菱UFJ銀行 ニュースリリース(2026年5月12日) 】
※今年5月に立ち上げを発表した「フィランソロピー・アレンジメント・サービス」の詳細。
企業側は社会課題に関心があっても「どこに資金を投じれば効果的か」が分からず、大学やNPO側も「自分たちの活動がどの産業の何に役立つのか」を明確に説明しきれていないケースが多い。
結果として、多くの可能性が出会えぬまま埋もれてしまっている現状がある。
中田氏は、金融機関が両者の間に入ってそれぞれの言葉を翻訳し、架け橋になることで、今までになかったお金の流れをつくることができるという。
さらに、今の日本の寄付に対する捉え方についても指摘する。
日本では、寄付というと、災害支援や困窮者支援などの「救済」をイメージする人が多い。
しかし、企業経営や株主への説明として「困っている子どもがいるから支援する」という説明だけでは、不十分な場合もある。
子どもへの投資が地域の活性化につながり、地域の活性化が将来的な産業や事業環境の発展につながる。
そのような長期的なストーリーを描くことで、社会貢献にとどまらず、企業の経営戦略とも結び付いていくのではないかと話す。
子どもを起点に大人が、そして地域が変わる|加藤 彰彦 氏

教育学者の加藤氏は、長年にわたり子どもや地域を研究する中で、「子どもが元気になることで地域全体が変わる場面を数多く見てきた」と話す。
活気のある地域の子どもたちに耳を傾けると、彼らの願いは「お腹いっぱい食べられること」「嫌な(頭ごなしに否定する)大人がいないこと」「好きなことができること」という、極めてシンプルなものだった。
そして、地域にそのような環境が整うようになると、子どもだけでなく保護者や教員、周囲の大人たちの行動まで変わっていったという。
その経験から加藤氏は、「子どもは単なる支援の対象ではなく、地域をつなぎ、人を動かし、コミュニティを活性化させる存在である。むしろ大人が子どもから学び、共に地域をつくる存在として向き合うことが重要だ。」と話す。
さらに、支援するためにはまず現場を知ることが重要だという。
「どこで、どんな人が、どのような課題を抱えているのか」を知らなければ、適切な場所に、適切な支援を行うことはできない。
だからこそ、日頃からコミュニティに参加して現場の状況を把握し、それを社会や企業へ伝えていく「ハブ」になる存在が必要だと話す。
企業(職場)で働くだけでなく、地域や近隣の子どもと接する機会が増えることで、どちらも活性化してくる、とも語る。
また、加藤氏は「里親制度」の本質についても触れた。
本来、子育ては家庭だけで完結するものではなく、地域全体で支えるべきものである。
里親という言葉の語源も、預かった特定の家庭だけが責任を負うのではなく、「里(社会)全体で子どもを育てよう」という考え方に由来しているという。
「子どもの課題は家庭の問題ではなく、地域全体の課題である」と訴えた。
ビジネスと社会課題解決の両立を実現する取り組み|葉田 甲太 氏

医師としてNPOで活動する傍ら、エレコム株式会社の執行役員を務める葉田氏もまた、ビジネスとソーシャルの両立を目指す一人だ。
葉田氏は「子どもを起点に大人が変わる」という加藤氏の意見に共感し、子どもを通じて親の行動変容を促す「ヘルスメッセンジャー」の取り組みを紹介した。
医療の世界でも、「大人を治すには、まずは子どもから」という考え方があるという。
大人に直接禁煙を指導するよりも、学校で喫煙の健康被害について学んだ子どもが、家庭で親に話した方が、効果的だと話す。
また葉田氏が執行役員を務めるエレコムでは、国内で先駆けて「*里親支援制度」を導入した。
里親の登録には数日間の研修受講が必要となる。そんな背景を踏まえ、里親になる意思がある従業員に対して特別休暇と支援金を支給する制度だ。
この取り組みは行政の目にも留まり、官民連携の動きへと発展した。「企業が先陣を切ることで、国も動きを後押しできるのでは」と話す。
さらに、自身の経験から、企業内で活動を立ち上げるステップとして、*企業版ふるさと納税や助成金などを活用し、既存のスキームの中でまずは小さく始めることが重要だと提案した。
医師、NPO、そして会社役員という唯一無二のキャリアを持つ葉田氏は「企業から変えて行くこと」を、自身のこれからのミッションにしていきたいと結んだ。
*エレコム株式会社は、里親登録を目指す従業員および里親として子どもを養育する従業員を支援する新たな制度として、2026年3月に「里親支援制度」の導入を開始した。プレスリリース:https://www.elecom.co.jp/news/release/20260310-02/
*企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制):国が認定した地方自治体の地方創生プロジェクトに企業が寄附をした際、法人関係税から大幅な税額控除を受けられる制度。通常の損金算入に加え、寄附額の最大約9割が軽減され、実質負担を約1割に圧縮できる。内閣府 地方創生推進事務局 :https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/kigyou_furusato.html
「支援する」から「共につくる」へ
今回のセッションを通じて見えてきたのは、子どもは「支援の対象」にとどまらず、多くの可能性を秘めているということだ。
もちろん支援は必要である。
しかし、「かわいそうだから手を差し伸べる」という福祉的な発想だけでは、一時的なボランティアや社会貢献活動の枠組みから抜け出すことができない。
子どもたちは地域を活性化し、セクターの壁を越えて人を繋ぎ、新たな価値やコミュニティを生み出す、未来の「共創パートナー」である。
企業がその可能性に投資することは、巡り巡って自社の持続可能な事業環境や、将来の産業を発展させることにつながるのだ。
そのためには、企業、NPO、大学、行政を繋ぐ「翻訳者(ハブ)」の存在が欠かせない。
そして私たち自身も、企業人、あるいは親、地域の一住民といった複数のグラデーションある視点を持ちながら、ビジネスと社会課題解決を地続きに捉えていく必要がある。
10年、20年先を見据えた「超長期な視点」を持ち、子どもたちの可能性を信じ、共に社会をつくるパートナーとして関わりを持つこと。
「支援する社会」から「共につくる社会」へシフトするために、その視点が今、企業に求められている。
2日目は、「0~10歳の、“支援が届かない”を超えよう~子どもの心が整う地域社会をつくるには~」をテーマに行われ、具体的に「何をやるか」「どうやるか」「何ができるのか」が話し合われた。(2日目のレポートは後日配信)
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