※ETIC.ソーシャルイノベーション事業部のnoteに掲載された記事を、当メディア向けに一部編集して転載しています。

法人を立ち上げて、事業が動き始めた。けれど、目の前のタスクをこなすことに精一杯で、本当にやりたかったことは何だったのか——立ち止まって考える余裕がない。そんな社会起業家は、少なくないのではないでしょうか。
創業期の社会起業家に向けて、ETIC.(エティック)が運営する「社会起業塾イニシアティブ スタートアップコース」は、半年間の合宿・実践・メンタリング等を通じて、事業の軸を磨き上げるプログラムです。
社会起業家特化の伴走支援プログラム|社会起業塾イニシアティブ スタートアップコース
2026年度の募集にあたって開催したオンライン説明会には、昨年度の卒塾生お二人がゲストとして登壇。参加のきっかけから、プログラムで起きた変化まで——その言葉を、ご本人たちの語りでお届けします。
上田 彩果(うえだ あやか)さん
NPO法人miraito 理事長
岩手県岩手町(人口1万人)でユースセンターを運営。東日本大震災のボランティアをきっかけに大学時代から岩手に関わり、不登校・発達障害・LGBTQ・困窮家庭など多様な生きづらさを抱える若者の居場所づくりに取り組む。1年半前にNPO法人ミライトを設立。
NPO法人miraito 公式サイト
大嶋 明仁(おおしま あきひと)さん
株式会社JinVisionary 代表取締役
昭和医科大学医学部に在学しながら起業。「病院でも自宅でもない、第三の医療空間をつくる」をミッションに、医療と生活をつなぐブランド「Tomaru Medica(トマルメディカ)」を展開。病院のそばで患者・家族が安心して滞在できる場をつくっている。
株式会社JinVisionary 公式サイト
※記事中敬称略
「モデル作りがしたい」と応募したら、初日に「モデルなんて無理」と気づいた
上田:私たちのビジョンは「マイノリティユース——あらゆるマイノリティユースが自分らしさを諦めなくても大丈夫な社会」。不登校や発達障害、LGBTQ、困窮家庭など、様々な生きづらさを抱える若者たちが安心して過ごせる居場所づくりをしています。人口約1万人の岩手町には法人格のあるNPOが私たち1つしかないため、結果的にいろんな課題に対応しなければならない状況になっていきました。
社会起業塾への応募理由は、小規模自治体におけるインクルーシブな子ども・若者支援のモデルを作りたいということでした。人口減少が進む地域の中で、限られた人材や資源を生かしながら、どうすれば若者支援を持続可能な形で続けていけるのか。その問いと向き合いたいと思っていました。
参加前は、不登校支援も、マイノリティ支援も、居場所づくりもと、目の前のニーズに応えようとする中で、自分たちの強みや優先順位を十分に整理できていない感覚がありました。また、小規模地域のNPOとして、限られた人数でどのように価値を生み出し続けるのか、組織のあり方やリーダーシップについても考えたいと思っていました。

創業期に「タレ作り」を——事業の軸と向き合う時間
上田:キックオフ合宿が印象的でした。「モデル作りがしたい」と言って参加したのですが、初日に「モデル作りなんて無理だ!」と。メンターのお話を聞く中で、もっとちゃんと一つのテーマにどっぷり潜っていっていいんだな、と思えました。課題を俯瞰して浅く広くやるんじゃなく、当事者——救いたい人たちの解像度をもっと上げていくことの大切さを、初日に感じました。
メンターが使っていた言葉は「タレ作り」。事業のタレ=事業の軸や核になるものは何か。それをずっと問い続けてくれたことがすごく良かった。一人でいると不安になって、すぐお金のことを考えたくなる。でも、現場の子どもたちや地域の人の声をもう一回ちゃんと聞いて、自分の事業のタレを考えられました。
「ここに入れば成長できる」—ちょっと浅い気持ちで申し込んだ
大嶋:一言で言うと、僕がやっている事業は「病院のそばで安心して治療に向かえる場所を作る」ということです。医療にかかる宿泊をテーマに、患者さんとそのご家族の滞在施設と医療従事者の長期滞在支援を行うレジデンスを運営しています。現在は既存のホテルや介護タクシーと連携して患者さんの通院・入院支援を行うモデルも検証しています。
応募理由は、あんまりかっこいいことを言うつもりはなくて…。もともと一人で起業して一人で動いてきたのですが、ちゃんとした伴走者がいなくて路頭に迷っていた。ビジネスとして成立させる方法をそもそも知らなかった。「ここに入れば成長できるだろう」という、ちょっと割と浅い気持ちで申し込んだというのが正直なところです。
参加前の不安は、自分が本当にここにいていいのだろうか、という感覚。他のメンバーはみんな強烈な原体験を持っていて、怖い人たちの集団なんだろうな、と思っていました。でも実際に入ってみると、そんなことはありませんでした。自分の未熟さが人にバレるのが怖いとか、事業を本当に伸ばせるのかも分からないとか、当初、そういう不安は正直ありましたが。
「Howにこだわらず」——自分が何をしたいかを問い続ける
大嶋:社会起業塾を通じて変わったことは、すごくありすぎて書き切れなかったんですが、強いて言うなら「Howにこだわらない」こと。一人でやっているとどうしても方法ばかりを気にしてしまいがちだった。でも社会起業塾に入って分かったのは、起業という形自体も一つの手段でしかなくて、もっと広く物事を捉えていいんだということです。
大切なのは自分自身が強くなることではなく、自分の弱さと向き合って、それでも弱さを抱えたまま打席に立ち続けること。それが一番大切な学びとして自分の中にあります。メンターとの対話を通じて、目の前のタスクをこなすことが目的になっていたところから、もう少し広い視点で自分の事業の課題を見つめることができるようになりました。
創業期に取り組んでよかったこと——パネルディスカッション
「事業のタレ」があれば、どこに行っても話せる
「創業期に取り組んでよかったこと」を問われ、お二人はこう語ってくれました。
上田:社会起業塾に参加して良かったのは、やっぱり一旦経営のことを置いておける時間があったこと。「事業のタレ」は何かということを問い続けてもらえて、現場の子どもたちや地域の皆さんの声をもう一回ちゃんと聞いていく作業ができた、その軸があるから今は安心して、どの助成金を申請するにも、どんな事業を実施するにも、「いける!」という感覚があります。
大嶋:普段は目の前のタスクばかりを見てこなすことが目的になりがち。でも、こういう場で同期のメンバーと事業の話をしたり、メンターに相談したりする中で、もう少し広い視点で課題を見つめることができた。方向性を考える上でとても良かった。
仲間・先輩とのつながりが、地方にいても世界を広げてくれた
大嶋:同期のメンバーとは定期的に連絡を取り合ったり、事業相談をしてもらったりしています。先輩の社会起業塾アルムナイの方と事業の協業プランについて話したり、ホテル連携でつながった方、企業との協働セッションで出会った方がプロボノメンバーに入ってくれたり——いくつかの連携が生まれていて、すごく良かったと思っています。
上田:私は子ども・若者支援をやっていると、その領域のつながりは増えるのですが、他の領域の方とはなかなかつながれなかった。今回はいろんな領域・テーマのソーシャルな皆さんとつながれた。同期の方に岩手まで来てもらってインタビュー調査をお願いしたり、東京での飲み会でネットワークが広がったり——シンプルですが、本当にいろいろあります。
「言語を手に入れた」——相手によって伝え方を変えられるように
上田:良かったことの一つは、いろんな言語を手に入れたこと。地方にいると「D&I」「インクルーシブ」と言ってもなかなか伝わらない場面もある。でも東京の企業のCSR担当者にはこの言葉が響く、一般の人にはこう伝えると届く——という伝え方の引き出しを、電通の皆さんとの「伝えるコツ」のプログラムや、色々な人との対話の中でかなり磨けた。どの場にいて何を話すかによってスイッチを切り替えられるようになったのは、大きな訓練になりました。

一番印象に残ったプログラム
上田:企業協働セッションです。自分の事業の概要と悩みを企業の方々に相談する機会で、プロボノの巻き込み方を実践で学べる場でした。そこでつながった方が実際に岩手にも来てくれて——普段地方にいるとつながれない方々とつながっていけるのが、本当に良かったです。
大嶋:バーチャルボードミーティング(VBM)です。先輩企業家の方を呼んで仮想の理事会を開き、次の方針を決めていくセッション。
もっとこうすればよかったことは、同期のメンバーともっと早い段階から悩みを共有して切磋琢磨できる環境を作ること。もう少し早くからそれをしておけばよかったと思っています。

事業の「軸」を掘り下げる半年間へ
法人を立ち上げて、事業が動き始めたからこそ見えてくる問い——「本当に自分がやりたいことは何か」「この課題の解像度を、自分は本当に上げられているか」。
お二人の言葉は、スタートアップコースが「答えを授ける場」ではなく、まっすぐな問いと、仲間との対話と、実践と内省の往復の中で、自分の事業の軸を自分で磨いていく場であることを教えてくれました。

社会起業塾2026のエントリー締め切りは、2026年7月6日(月)朝9時です。まずはWebからのプレエントリーを!プレエントリー後は、個別相談もお申し込みいただけます。
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