
2026年5月、虎ノ門ヒルズで開催された「Beyondカンファレンス 2026」に、多様なセクターから491名が集結しました。第5回目を迎える今回は「個の意志に、組織の動力を。」がテーマ。個人の意志や想いを組織の動力にし、社会を動かすエネルギーへ変えていくために、社会課題解決の最先端を走る挑戦者たちと、実践的なアプローチを議論しました。
災害時の支援のあり方は大きな転換点を迎えています。特に復旧・復興フェーズでは、人材や資源の不足、地域内外の連携不足といった課題が顕在化し、行政だけでは支えきれない領域を民間の力で補完していく必要性が高まっています。
一方で、防災は依然として企業にとってコストやCSRと捉えられることが多く、事業との接続は十分とは言えません。今回、平時の事業が有事にも機能する「フェーズフリー」の考え方を起点にし、企業活動と防災を接続する新たな可能性を探ることを目的に、企業と地域が対話する共創セッションの場をつくりました。
※『Beyondカンファレンス2026』「あなたの事業は災害時にどう活きる? 企業×地域で考えるフェーズフリー共創セッション」よりご紹介しています。
<登壇>
星 久美子(ほし くみこ)さん 株式会社雨風太陽 法人事業本部 関係人口ユニット 部長
國定 奈央子(くにさだ なおこ)さん 特定非営利活動法人 Chance For All
森 進之介(もり しんのすけ)さん 一般社団法人 能登町定住促進協議会 専務理事
三田 将司(みた まさし)さん 株式会社CAMPFIRE 執行役員
<モデレーター>
光野達也(みつの たつや) ETIC. コーディネーター
瀬沼希望(せぬま のぞみ) ETIC. コーディネーター
※記事中敬称略
なぜ今、「フェーズフリー」なのか
共創セッションは、モデレーターのETIC.(以下、エティック)光野が「フェーズフリー」について、「日常の事業やつながりが、有事にもそのまま地域を支える状態」と説明する場面からスタート。そのうえで、「なぜ今、フェーズフリーなのか」と話を続けました。
「災害が特別なものではなくなりつつある今、全国的に広域災害に対する危機感が高まりをみせています。そこで、行政だけでは対処が難しいすき間を埋める役割として期待されているのが、日常の業務からのつながりが有事にも地域を支える『フェーズフリー』の状態です。今日は、明日からの共創に向けて、企業と地域の接点をもちながら、横につながる時間にできればうれしいです」
次に、トークセッション「地域のレジリエンスは日常の事業から生まれる―復旧・復興を支える平時からの繋がり―」を、登壇者4名を迎えて行いました。能登半島地震以降、災害支援に携わった団体・企業から、株式会社雨風太陽・星 久美子さん、特定非営利活動法人 Chance For All・國定奈央子さん、株式会社CAMPFIRE・三田将司さん、一般社団法人 能登町定住促進協議会・森 進之介さんです。

最初に、森さんが、能登半島地震から2年4カ月経過した(2026年5月時点)、能登での現状について語りました。
「おかげさまで生活は戻った実感があります。しかし、祭礼や人の集まりなどの暮らしが戻っていません。今は暮らしを戻したいと思っています。現在の課題感は、想定外の支援やミスマッチでコミュニティの疲弊が多く発生していることです。私たち集落側からみると、実は震災前というよりコロナ禍の前に状況を戻したい。でも、人材不足など課題が山積しています。
一方で、集落を主役にチームをつくり、地域の人が集落の外の人材と集落の中をつなぐコーディネート役を担うことで物事が動き出しています。特に外から人が入ってきた集落の様子を見て、その周りの集落にも火が付いたりしている。企業・個人の方には、一緒に楽しみながら関わってもらえるとありがたいです」

続く星さんは、普段の取り組みと、背景としての関係人口について話しました。
「雨風太陽は生産者と消費者をつなぐ『ポケットマルシェ』を通して、持続可能な関係性づくりを行っています。
生産者の方々は農作業などで瞬間的に人手が必要な場合も多いのですが、地域の人だけで必要に応じた人のつなぎ役を担うのは負担が大きい。そのため、有事の際に得意な領域を活かせるように、普段から消費者の方々が関係人口として好きな地域や縁ある地域とどう関われるか、地域側のニーズとのさじ加減もあわせた事業作りを自治体や地域と一緒に考えています。
平時からつながることで、顔の見える動きができます。関係人口として、得意なことを地域の現場で活かし、人と人がつながっていく仕組みをつくりたい」

國定さんは、能登半島地震の発災後に始めた取り組みについて話しました。
「平時も災害時も子どもたちが遊べる環境を守るため、 遊び道具を各地の広場に届ける移動式遊び場『プレイカー』の活動をしてきました。
能登半島地震後に活動するなかでわかってきたことは2つあります。1つは、子どもたちが遊ぶ環境づくりの大切さです。被災地では学校の校庭や公園に仮設住宅が建設され遊べる場所が限定されます。そんな環境でも、プレイリーダーとともにプレイカーが訪れることで、子どもたちが安心して遊べる環境をつくることができました 。
2つめは、現地の子ども支援団体との協力体制づくりです。例えば、平時から関係性をつくって日常的に一緒に取り組みをすることで、地域外から車で駆け付けて活動をサポートすることが可能です。
子どもが遊ぶことで保護者同士がつながる、子どもたちを高齢者が見守るなど横のつながりが生まれる。遊び場は、平時から顔の見える関係性をつくることができます」

三田さんは、資金面での取り組みについて説明しました。
「能登の災害支援に関するクラウドファンディングは、2026年5月5日時点で、408事業者のプロジェクトが立ち上がり、累計支援額は9億円以上、支援者は7万人に達しました。
事業者の復旧や再建に、全国から多くの気持ちのこもった支援を届けられていることを実感しています。
クラウドファンディングの良さは、リターンを通じて、多様な支援の関わり方を事業者様に選んでいただけることです。『応援してください』『一度来てください』『DIY仲間になってください』。挑戦や共創を当たり前にするカルチャーを日本中に広めていきたいです」
6企業・団体から事業と有事への取り組み
登壇者による話のあとは、「企業と地域の共創を見据えたネットワーキングタイム」として、企業・地域それぞれが短くピッチ(投げかけ)を行い、交流・議論の場をつくりました。
まずは、6つの企業・団体の投げかけからスタート。星さん、國定さん、三田さんに続き、株式会社WAVE1・竹田元生(たけだ もとき)さん、株式会社AsMama・甲田恵子(こうだ けいこ)さん、一般社団法人Smart Supply Vision・矢崎淳一(やざき じゅんいち)さんが、言葉をつなぎました。

最初に、竹田さんが話します。
「建物や組織の防災力診断を主力事業としています。防災は長らく『コスト』として捉えられてきましたが、私たちは防災の効果を可視化・評価することで、不動産や保険、金融と組み合わせ、地域や建物の価値へ転換する仕組みづくりに取り組んでいます。
今後は、寄付つき電気サービスを展開する新電力会社・テラエナジーと連携し、利用者の追加負担なく、電気料金の一部を地域の防災対策に積み立てる『防災積立基金』を始めます。さらに、防災の成果を評価できるため、関係人口づくりやコミュニティ形成など、災害に強い地域を育てる取り組みに防災財源を投資できる、新しいインパクトファイナンスの仕組みを目指しています。地域で防災を持続可能な仕組みにしたい方と出会えたらうれしいです」

続いて、甲田さんが登壇。事業とフェーズフリーの関係性について語りました。
「2009年から自治体や企業と連携し、子育てや暮らしの孤立化を防ぐため地域リーダーの育成、交流機会などを開発運営してきました。子どもを 1時間500円で保険をかけながら預け合える仕組みを全国に広げる、この形はまさにフェーズフリーで、災害時には、アプリを通じて、隣近所での子どもの預け合いなどを実現してきました。
能登の被災地では、お年寄りが段ボールを敷いて睡眠をとる姿を見て、仕切りを立てることでプライベート空間をつくったり、ビート板素材をボードゲームのように活用し、子どもたちが遊べるようになりました。ワークショップなどで日常からつながり、万が一の際には、防災備蓄を通じた本当の意味での災害支援ができるところまで、次々展開をしていきたいです」

矢崎さんも続いて、事業と有事に備えた取り組みについて話しました。
「東日本大震災以降、必要な人に必要な支援を必要な分だけ届けるという、誰もが貢献できる市民参加型の物資支援プラットフォーム『スマートサプライ』を開発運営してきました。
災害時には、特定の場所にだけ、全く仕分けをされていないものが大量に届き続けるという問題がいまだに起きています。災害が起きてからだと課題解決は間に合わないため、地域の社会福祉協議会や自治体と一緒に、『災害が起きたときにこういう形で協力し合いましょう』と、あらかじめ決めておくことが必要です。
そのため、災害が起きたときに、社会全体で広く『スマートサプライ』を効率的に使える仕組みを展開しようと準備を進めています。一緒に何かできればありがたいです」

6人の話が終了したあと、各ブースに分かれ、事業に関心のある人たちとの交流や議論が行われました。モデレーターのエティック光野は、「フェーズフリーは普段からの関係性づくりが大切。今回を機にお互いに顔見知りの関係になってもらえれば」と、地域ピッチへとつなげる言葉でこの場を締めくくりました。
地域ピッチのあと、関心をもとにディスカッション
地域ピッチでは、能登の森さんをはじめ5人が事業や思いを話しました。その中で、社会福祉法人拓くが実施する休眠預金事業の一員として参加した鬼尾さん(福岡県久留米市・株式会社A.LIFE)は「本業+αの取り組みをしています」と話します。

「飲食店やお弁当屋さん、美容室+αの拠点を増やすことで、平時は防災拠点として防災講座や支援物資の配布などを行い、災害時には活躍していただけます。
現在、60数拠点あり、2026年内に国立研究開発法人 防災科学技術研究所との連携で、100拠点ほどに拡大し、一斉の避難訓練・物資調達訓練などを行う計画が進んでいます。協力体制づくりや、拠点側のメリットなど、ご意見をいただけたらありがたいです」

認定NPO法人北海道NPOファンドの高山大祐(たかやま だいすけ)さんは、「ローカルファンド(地域での資金循環ネットワーク)を軸にしたサブシステムを強化する取り組みをしています」と話します。
「災害において支援組織の事業や三者連携(行政、社会福祉協議会、NPO・民間団体)は、とても有効な形で推進されています。ただ、さまざまな災害が発生するなかで、どうしてもカバーしきれない部分が生じます。
サブシステムは、カバーしきれない支援のすき間をメインシステムを補完する形での民間の動きを想定しています。我々コミュニティ財団など、地域のお金を地域で循環させながら寄付できることで、企業や民間団体の方たちが財団を軸につながる形をイメージしています。関心のある方にお話をさせていただきたい」

地域ピッチのあとは、地域別に関心を寄せる人が集まり、情報交換や議論を交わしました。
その中で、青森県八戸市・株式会社バリューシフトの栗林志音さんを中心にしたグループでは、「お祭りはまさに伝統的なフェーズフリーの取り組みではないか」と、各地域の祭りについて活発に議論が行われました。例えば、よそものと呼ばれる人たちが、地域の人たちと思い思いに神輿をかつぐ祭りの話では、「それこそが外からの支援を受け入れる準備になっている」と声が上がっていました。
能登からは高校生も参加し、被災地の課題感として、人材不足の話があげられました。その際、高校生から「活動をしたくても、忙しくて参加できない人が多いのが実情。しかし、一方で高齢者の方に向けた参加型卓球は、高齢者の方が比較的参加しやすい様子が見られる。普段の運動習慣にもつながり、可能性を感じている」という話もされ、現地からのリアルな言葉に参加者たちは熱心に耳を傾けていました。

初動につなげる新法人を設立(エティック)
共創セッションの終盤には、エティックの瀬沼から、2022年より取り組んできた「災害支援会員制度」を、「一般社団法人チャレコミ災害支援ネットワーク」として法人設立したことをお伝えしました(2026年4月30日設立)。
「これまでエティックでは、行政や社会福祉協議会などでは埋められない部分を重視した取り組みを行ってきました。まちづくりや、関係人口づくりと有事の災害支援は一つにつながっていると捉えています。これからも全国約80地域で活動する町づくり団体やコーディネーターの仲間たち、そして企業の皆さんとこうした動きを推進したいです。
災害支援は、初動があって動き出します。その際、資金不足という大きな課題を解決するため、2022年から共済のような仕組みを作ってきました。団体同士がお金を出し合い、自分たちのエリアで発災した際には資金として活用いただくことで、有事の初動で現地コーディネーターが動けるものです。この度、この仕組みを法人化したことで、いろいろな方々と寄付やプロジェクトなどでご一緒しながらネットワークを広げていきたい」
セッション全体を振り返り、エティックの光野はこう話しました。
「今回のセッションでは、『フェーズフリー』というテーマから企業と地域をつなぐ取り組みを行いました。冒頭でもお伝えしたように、今回を機に皆さんが『顔の見える関係性』になっていただくことが最も有効な防災への備えになるのではないかと感じています。ぜひ今回出会った皆さんの地域・企業に、実際、訪問するような動きが起こるとうれしいです。エティックでは、今後も平時からのネットワーキングを積極的に行い、平時も有事も安心できる関係性づくりに取り組んでいきます。ご注目のうえ、関心ある方はご連絡ください」
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