社会・公共

「セクターを超えて」をどう捉える?企業と社会起業家が、共創の一歩をともにつくる【社会起業塾DEMO DAY(1)】

2002年のスタート以来、社会に変化を広げる起業家を多く輩出してきた社会起業塾では、2026年3月17日、都内で「2025年度 社会起業塾イニシアティブ DEMO DAY」(主催:NPO法人ETIC.)を開催しました。メインテーマは、「事業性と社会性の両立に挑む社会起業家とともに、企業と社会の『次の関係性』を考える」。

当日、会場には、2026年3月に卒塾した起業家たちに加え、卒塾生、一般参加の個人・企業が集合。起業家と企業人による基調セッションの後、8つのテーマをもとにした分科会も行われるなど、参加者全員が、起業家と企業とのつながりや共創に向けた、新たなきっかけをともにつくりました。

今回、冒頭に行われた基調セッション「社会性と事業性を両立するための社会起業家の挑戦から、企業と社会起業家の連携価値を探る」より一部をご紹介します。

2025年度 社会起業塾イニシアティブ「DEMO DAY」
基調セッション
「社会性と事業性を両立するための社会起業家の挑戦から、企業と社会起業家の連携価値を探る」


<登壇者>
竹内 弓乃(たけうち ゆの)氏 特定非営利活動法人ADDS 共同代表/臨床心理士/公認心理師
(2025年度スタートアップコースメンター)

土屋 有(つちや ゆう)氏 地域資源ブランディング株式会社 代表取締役、株式会社CNC取締役、国立大学法人宮崎大学 地域資源創成学部 准教授
(2025年度インパクトコースメンター)

高瀬 憲児(たかせ けんじ)氏 NEC テレコムサービスビジネスユニット 支配人、NPO法人SVP東京 理事、NPO法人チャイボラ 理事

<モデレーター>
番野 智行(ばんの ともゆき) NPO法人ETIC. シニアコーディネーター

※記事中敬称略

社会起業家の志を支えてくれた、安心感を持てる企業との関わり

番野:2つの視点から、 2つの問いを皆さんに伺いたいです。まず、企業と起業家の関係性を、チャレンジする側と応援する側にとどまらず先へ進めたい。そこで、メンターや応援団の視点から、1つめの問いです。本日ご登壇の皆さんは、社会起業家が事業を創っていくチャレンジをするとき、どんなことを大切に応援していますか?

竹内:私自身、社会起業塾の塾生だった頃は、たくさんの方に伴走いただきました。その中で良かったなと思うことは、この人たちは絶対私たちを悪いようにはしないという安心感のようなものを持てたことです。そう自信を持って関われる人が何人かいたことで、自分たちの耐久力や志の持久力のようなものがすごく支えられたと思っています。

また、メンターとして、「自分のときはこうだった」といったアドバイスめいたことを言う必要があるときもありますが、それはあくまで私の視点であり、一つの主観にすぎないと自覚しています。それを選択するか、独自の正解をつくっていくのか、あるいは失敗から学びを得るのか。すべては起業家の皆さんご自身が決断し選ぶことで、その選択を応援したいと思っています。

共創のポイントは同じ立場になって、仲間になること

土屋:今ここにいる、社会課題に取り組んでいる人たちは、プロフェッショナルとして人生を賭けて本気で事業を行っています。それは疑う必要がないことは大前提として、今回、塾生の皆さんは、互いへのリスペクトを持つ素晴らしい方々だったと思っています。しかも、誰かしらの痛みや苦しみと向き合っている方々であることを前提に、僕はビジョンファーストで皆さんと向き合ってきました。

そのうえで、僕がアルバイトとして雇われ、24時間365日メンバーの一員になったとしたら、どう自分事として向き合うか——。そういう視点を持ち続けるようにしてきました。

高瀬:チャレンジする側も応援する側も、お互い様だと思っています。立場の違いを超えて同じ目線に立ち、仲間として向き合わなければ、本当の意味での協働にはならないという実感があります。

お互いに信頼関係ができ、相手を好きになり、同じビジョンを一緒に目指していると双方が感じられるようになって初めて、真の共創が生まれるのではないでしょうか。

もちろん主役は、あくまでも社会起業家や活動団体の方々です。応援する側には、その挑戦に対する深いリスペクトが欠かせません。

一方で、社会起業家の皆さんには、ある種のしたたかさも必要だと思います。自分が目指す事業の重要性や社会的価値を、周囲の人たちが当然理解していると考えないほうがよいからです。むしろ、その価値を本当に実感できている人は世の中にそれほど多くありません。

だからこそ、多くの人を巻き込み、共感を広げながら仲間を増やしていく力もまた、社会起業家に求められる大切な資質なのだと思います。

「起業家と企業は、同じセクターにいる」

番野:2つめの問いです。共創のパートナーの視点から、社会起業家と企業のセクターを超えた集まりや共創は、社会とビジネスにどんな可能性を生み出すと思いますか?

高瀬:起業家と企業との関係は、支援する側、支援される側ではなく、企業としても、こういった場やつながり、共創の機会は、この先すごく重要になってくると思っています。

企業は、社会に向けて事業を行っています。そのため、いろいろな形で、社会の中で事業を推進していくことは必然的で、何をやるにも社会が関わってくる。社会で何が起きているのか、またはそこにあるリアル感などに対して、何が課題なのか、実際のところを企業はよくわからない場合もあると思います。

高瀬:私も、いろいろな社会に関わる活動をさせていただいて、とても勉強になっているし、楽しいんです。今回のようにつながりを持って、活動をさせていただくことが、企業として、企業人として大きな価値あることだと思っています。支援する、支援されるではなく、これからますます仲間になっていくことを期待しているし、ここを原点に、後世にも伝えていくことがあればいいなと思っています。

土屋:セクターを超えた交わり、というよりは、そもそも同じセクターにいるという認識のほうが僕自身はしっくりきます。人と人であり、今目の前にいる起業家たちが向き合っている社会とは、別に特別な場所や話ではなく、誰もが一人ひとり悩んでいるし、苦しいんです。

まず生活、暮らしがある。働いている人たちの悩み、まだ見えていない悩みもあるし、その背景には何かしら問題があって、企業の方々は、それらを解決しようとしている存在が会社の外にいると思ってもらえればと思っています。

もし考えることがあるとするなら、企業も、社会起業家も変わり続けないといけない。例えば、企業側は、社会起業側を特別な存在としてみるのではなく、自分の会社や新規事業に対して、収益化の可能性がある相手だとみたほうがいいと思っています。

一方の社会起業家は、ビジネスセクターを遠くにみるのではなく、いま自分たちに関心を向けてくれる企業の収益化のために何ができるのかを考えたほうがいい。本気でパートナーシップを組んだときに、起業家側は、相手の会社や担当者のビジョンに対してしっかり向き合えるかが、やはり一緒に取り組んでいるという可能性だと思っています。お互い、うまくいかなかったらつぶれてしまう。

社会の情勢や課題が複雑化するいま、企業側も追い込まれる状況にあるかもしれないし、社会起業家も自ら可能性を取りに行ったほうがいいと思っています。発明が求められているこの瞬間に、一緒に発明していく。その関係を短期間でどう築けるかが重要だと思っています。

竹内:「セクターを超えて」について、土屋さんのおっしゃるように、「もともと同じセクターにいる」ということは私も同感です。みんな同じ社会にいて、私はNPOのスタッフですが、NPOのスタッフという人間ではないし、企業の人も、企業の人という人間ではないと思います。それぞれが市民性を持っているはずで、根底にあるものは同じだよねと思っています。

ただ、日々長い時間を過ごしている環境によって、何を重視するかや、仕組みが少し違うのだろうなと思います。だからこそ、一緒にやることで、新しい可能性や楽しさが生まれるのかなと思っています。

竹内:私自身、団体での活動を通して、企業の方や企業出身の方とお仕事をご一緒するときに感じることがあります。私たちは、純粋にニーズに向き合うということの強さを率直に届けられるので、「それっておもしろいですよね?」「一緒に楽しみませんか?」という価値観はまっすぐ共有できるかなと思うのです。

ただ、そうは言っても先立つものがない中で、志高く「星空を見上げてごらん」と言われても、足元がもつれて実態が全然ついていけないこともある。そんなときは、企業側の方々からプロフェッショナルな知見に基づいてアドバイスがもらえると、大きな学びになります。また、互いにリスペクトを持って対話ができていれば、お互いの価値観や人柄にも触れられて、とても良い関係が築けると思います。

そして、やっぱり「ソーシャルセクターは、みんなの居場所になれます」という自信もあって、そういったことも今後もっと社会の中で求められてくるように思います。

社会起業塾とは?「一緒に考える仲間を増やす」

2025年度の社会起業塾(約半年間)は、内容を刷新し、スタートアップコースとインパクトコースの2コースで展開しました。まず、起業塾全体の変化について、ETIC.の番野はこう話します。

番野:「社会的な課題事業に挑みたいという、0と1をとにかく応援するんだ」との想いから、2002年に始まった社会起業塾は、長い間、1コース開催が続きました。0・1でまだ何者でもなかったり理解者が少なかったりといった人たちと、一緒になって考えたりしながら応援することをやってきました。今回のリニューアルで、あらためてこうしたことは引き続き大事なことだなと、今年もスタートアップコースとして続けることになりました。

今回、コース増設とともに全体的に参加人数が増えているのも特徴です。参加団体は、これまでの約8団体から、今回、スタートアップコース計15団体、インパクトコース計10団体に大きく増えました。また、さまざまなテーマが集まることで、それぞれのテーマの幅が広がり、地域の団体たちも参加してくれました。

社会性と事業性については、お金を稼いでいくことはもちろん大事ですが、それ自体を目的化するのではなく、ビジョンを実現する手段として事業をつくるという順序を大事にしたいと思っています。

「自分ひとりで登れる山はたいしたことがない」

番野:ここからは、起業家からの言葉です。社会起業塾での時間について、「自分ひとりで登れる山はたいしたことがない」という言葉をもらっています。僕が考える起業とは、吐露すると孤独な闘いになりがちで、自分でうんうん考える、たしかにそんな時間も大事になる。しかし同時に、本当に難しいことに挑もうとしているのであれば、いろいろな人の知恵を集めてということが大事で、いろいろな人と話をしながら事業をする、社会起業塾は、皆さんにとってそんな時間だったのかなと思います。

番野:また、インパクトコースの塾生たちからはこんな声をもらっています。「課題を掘り下げるのではなく、つくりたいビジョンを事業化する」。例えば、社会活動を推進するなかでは、世の中や組織の課題がどんどん見えてくるものの、一つひとつ解決していこうとすると疲弊したり、課題がさらに大きくなったりしがちです。その中で、あらためて課題にまみれながらも自分たちが大事にしたいことやつくりたいことってなんだっけ?といったことをちゃんと作ることが大事なのだと思いました。

土屋:インパクトコースの大きな特徴は、ビジョンが明確に見え、事業も立ち上がっている、ビジョンを実現するための日々食べることも難しいけれどやってはいることです。しかし、本当にこのままの道でいいのか、この延長線上でビジョンにたどり着くのか、に向き合っている方々と、テーマとあわせて強く健全な経営チームを作ることも特徴です。

自分の会社ではなく、みんなの会社にしていく。このフェーズが結構しんどいんです。ある意味言えないような課題をさらけ出す必要がある。組織や仕組みの課題も、その根源にあるのは経営者や中心メンバーの課題でもある。これをどう受け取り、見つめながらしっかり仕組みづくりに落とし込んでいくのか、そこが求められていくところになっています。

結果的に、会社の仕組みやご自身が変わらなければいけない瞬間を、チームみんなで日々積み重ねているからこそ、「自分はこれでいいのかな」となる。皆さんは自分のことを信じているけれど、その次のステップを踏むために、メンターというより、ここにいる塾生メンバーたちと壁打ちが進んでいく場面も多くあったと思っています。


<関連リンク>
社会起業塾イニシアティブ

この記事を書いた人
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愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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