社会・公共

「声なき声は、どう社会を動かせる?」社会起業家と考える、当事者発信とムーブメント【社会起業塾DEMO DAY(4)】

見えにくい課題は、どうすれば可視化されるのか。例えば、当事者の声はどうすればより伝えたいかたちで人々に届け、社会を動かすことができるのか――。

社会起業家3人と共に、「当事者発信」について考える機会が、3月17日、東京都内でつくられました。「2025年度 社会起業塾イニシアティブ DEMO DAY」(主催:NPO法人ETIC.)の分科会「当事者発信」です。今回、当事者の声が共感を生み、社会変革につながるプロセスを探った時間をご紹介します。

※今記事は、「2025年度 社会起業塾イニシアティブ DEMO DAY」にて行われた、8つのテーマで構成する分科会Ⅰ・Ⅱより「当事者発信」に焦点を当てています。
(分科会 I ①孤独・孤立 ②多様な学び ③家族・子育て ④共生社会、分科会 II ⑤メンタルヘルス ⑥インクルージョン ⑦当事者発信 ⑧社会性と事業性)

<テーマ>
「当事者発信」
声なき声は、どうすれば社会を動かせるのか?〜当事者発信がムーブメントになる瞬間〜

<登壇団体>
・Color Code
・ハーモニックス合同会社
・一般社団法人子どもの声からはじめよう

<モデレーター>
川島菜穂 ETIC. ソーシャルイノベーション事業部 コーディネーター

※記事中敬称略

外見コンプレックスに悩む若者の自己受容と社会復帰を支える──小渡結稀さん(Color Code)

小渡 結稀(おど ゆうき)さん
Color Code 代表


<事業内容>
醜形恐怖症や外見コンプレックスに悩む若者が孤立せず、支援につながれる社会を目指し、2025年より活動開始。安心して悩みを共有できるコミュニティ運営、SNSによる啓蒙活動に加え、認知行動療法に基づいた集団プログラムの提供を行う

小渡:SNS時代のいま、自分の容姿に強い不安を抱える10代・20代は少なくありません(参考:ユニリーバ「ダヴ」調査より)。Color Codeにも、「外見のことが頭から離れず、学校や仕事、人との関わりにも支障が出ている」「外出や写真、人からの視線が怖い」といった声が日々届きます。私もその一人でした。

外見に強いコンプレックスを抱える人の中には、身体醜形障害、いわゆる醜形恐怖症に近い状態に苦しんでいる方もいます。根本的な要因には、外見そのものだけでなく、認知の歪みや、外見に自己価値を強く結びつけてしまう苦しさが関係していることも多いと感じています。
そのため、解決策としては、安心して悩みを共有できる場所を持つこと、自分の考え方や認知の歪みに気づき、少しずつ改善していくこと、外見以外の時間や人とのつながりを取り戻していくことが大切だと考えています。

Color Codeでは、外見の悩みを一人で抱え込まないための居場所づくりや、認知行動療法に基づいた集団プログラムの提供を行っています。外見が気になって、着たい服ややりたいこと、人との関わりまで諦めてしまう当事者の方に、「好きなものを好きだと言っていい」と思える状態を届けたいと考えています。

音楽を活用した生きがいづくりと就労の支援──佐久間玲奈さん(ハーモニックス合同会社)

佐久間 玲奈(さくま れな)さん
就労継続支援B型事業所 ルフラン(ハーモニックス合同会社)代表社員

<事業内容>
就労継続支援B型事業所「ルフラン」を基盤として、未経験者から参加できる音楽プログラムを通した表現活動を提供。「やってみた!」と思える実体験を最初の一歩に変える。地域に向けた便利屋さん(就労支援)も行っている。

佐久間:高校卒業後にひきこもりを経験し、自立するために福祉の仕事と音楽活動を行ってきました。私自身、音楽という生きがいがあったからこそ何とか立ち上がれたのではないかという原体験があります。昨年11月、自分の経験をもとに、生きがいをプログラムとして提供できないかと考え、秋田県に就労継続支援B型事業所「ルフラン」を開所しました。

地方では、自分の特性や状況に合った就労先をなかなか見つけられず、満足に雇用サービスが活用できない人が多いという現状があります。「ルフラン」では、音楽を中心に、自分を表現するプログラムを取り入れて生きがいづくりを支えています。

ビジョン・ミッションは、「一人ひとりが表現とつながりによって自分らしさを発揮できる社会」です。表現活動を通してマイノリティな方が自分らしい表現を見つけ、地域と共に生きるつながりをつくっていきたいと考えています。

子どもの声が尊重される社会を実現する──川瀬信一さん(一般社団法人子どもの声からはじめよう)

川瀬 信一(かわせ しんいちさん
一般社団法人子どもの声からはじめよう 代表理事


<事業内容>
子どもの権利を尊重する社会の実現に向けて、権利の普及啓発と子どもアドボカシーの実践に取り組む。近年は、学校や医療型障害児入所施設にもフィールドを広げ、子どもが自分の人生に意味のある選択を行えるよう伴走している。

川瀬:子どもの声を聴いて、一緒に声を上げる子どもアドボガシーという活動をしています。なかでも、貧困や暴力、様々なマイノリティに対する差別といった状態にさらされた子どもたちは、気持ちや考えていることが抑え込まれて、ときに怒り出したり、悲しみがあふれ出たり、社会ではよくないとされる暴力を奮ったりする場合があります。子どもアドボガシーは、子どもが思いを受けとめられるための関わりによって、子どもが力を回復していくための取り組みです。

子ども自身が、身の回りの話をできるようになった先には自分の人生の舵を取ることができるようになっていきます。また、何かの当事者として、社会に対し声を発信することに伴走しています。

日本では、親元を離れて施設や里親家庭で暮らしている子どもたちが全国に4万人ほどいますが、そういう子どもたちにアドボガシーの機会を提供しています。最近は、もっと手前の段階で、学校教育の中でも、子どもの権利について知ったり、理解したり、声が聴かれることって重要だよねと認識しあう活動も重視しています。

いい意味でバズりたいけれど「ムーブメントに意味はあるのか?」

――社会起業家3人の話を聞いて、感想や皆さんと話したいことがあればお願いします。

川瀬:当事者ということを考えたとき、その問題に直面している人だけを指していいのだろうか、という思いがあります。一次的にはそうなのだとしても、二次的には、本人、困難に直面している本人をケアしていく家族や支援者も当事者になり、三次的には、制度設計や当事者研究といった形で、システム設計に関わる方たちも当事者だと思うのです。

また、当事者の発信には難しさを感じています。例えば、当事者の声が消費されやすいことに危機感を持っていて、大きな困難に直面した人たちがそれを乗り越えて立ち直ると賞賛を浴びるような構造があるようにも感じています。ほかにも、当事者の声は分断を生むことにもつながるなど、いろいろな課題が考えられるなかで、みなさんと考えたいのは、こうした当事者の声の消費を防ぐためにはどうすればいいのか、または当事者の理解者たちをどう増やしていけるのか、また、理解者たちとどうパートナーシップをつくっていけるかということです。

参加者:世の中には倫理やルールがありますが、例えば、ゲームのアプリでは、人を動かすためには何らかの刺激が必要になります。そういうことを考えると、本当にムーブメントにしなければいけないのかという疑問を持っています。

川瀬:運動、活動、事業、それぞれ大事なことを推進していて、できれば大勢の人に知ってもらいたいという思いがあります。いい意味でバズりたい。ただ、刺激的なものと同じ土俵で戦っても勝てるわけがないとも思います。

参加者:世の中にムーブメントを起こせば勝てるということを前提にしていますが、「ここの部分の人が動いてくれれば、自分たちが目指す方向性へと社会を動かせられるかもしれない」というポイントは、マス全体なのか、もう少し絞ったところなのか、それも気になります。

当事者発信の難しさ・重要性

小渡:Color Codeの活動で言うと、コンプレックスを植え付けているものの規制は一つ有効だと思います。もともと困っていた人たちも、「自分たちが困っていたのはこのせいだったんだ」と気づけば、外見コンプレックスの問題は解決に近づくのではないかと思います。

佐久間:地域の社会という話になりますが、都会と違うなと思っていて、ムーブメントをつくろうとする人が生まれる土台がない場合もあると思います。ただ、そのなかで活動すること自体は重要だと思っていて、私は自分の当事者性を打ち出すようにしています。結局、地域の中で「こういう思いって大事だよね」というメッセージを、身をもって伝えていくことがすごく大事なことなのかなと思います。

川瀬:佐久間さんがつくるコミュニティの中で、音楽を媒介にして障害のある方がエンパワメントされていくことは、大きなアドボカシー活動といえると思っています。変容する人たちを見て「私も関わってみたい」と思ったり、「いいよね」という人が増えていくことを感じたりするのかなと。

参加者:ムーブメントにもいろんなパターンがあって、NPOも少ない地方での活動は本当に珍しい印象を持ちます。ただ、顔が見える関係で皆に応援してもらえる印象もあります。顔が見えるムーブメントのようなものはローカルならではでないでしょうか。そこにパワーがある。

参加者:当事者発信というと、言語化することに難しさを感じるところがあって、そんな中で発信をどうムーブメントするか。一方で、誰かの発信が誰かの利益になっても損にはならない、そういう利害関係もあると思っています。自分の思いが能動的に発信できる環境ができていけば、誰かの発信も誰かへの利益も大きくなっていく。そう考えると、共感できるコミュニティがあれば、発信がどんどんできるんだろうなと思いました。

実は、社内起業のワークショップに初めて参加したとき、一緒に会話をしたことで、同じ考えの人がいることを初めて知ったんです。以前から知っていた方でしたが、それまで同じ思いを持っているなんて全然知らなかった。初めて「共感するってすごいんだな。共感できるといい仕事につながるんだな」と感じて、今日、この場にも参加させてもらったのです。

――ムーブメントと一言で表しても、形や力は、いろいろあるんだなと思いました。ありがとうございました。


社会起業塾イニシアティブ

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この記事を書いた人
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愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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