
2026年5月、虎ノ門ヒルズで開催された「Beyondカンファレンス 2026」に、多様なセクターから491名が集結しました。第5回目を迎える今回は「個の意志に、組織の動力を。」がテーマ。個人の意志や想いを組織の動力にし、社会を動かすエネルギーへ変えていくために、社会課題解決の最先端を走る挑戦者たちと、実践的なアプローチを議論しました。
本記事でお届けするのは、「地域内の循環する経済づくり〜ローカルファンド構想──三豊モデルを解剖し、30年後の未来を耕す『投資』の極意を考える──」セッションのレポートです。
30年後、次世代が笑顔で暮らせるまちにしたい──。例えばこんな当たり前の願いには、営利であれば金融商品になりにくく「投資」が機能しない、公益でも支援が続かないといった、資金循環の課題が存在します。この時間軸の壁をどうしたら乗り越えられるのかをテーマに、セッションは展開されました。
セッションの発起人は、これから佐賀でローカルファンドを始めようとされている、創業116年を迎える「株式会社ミズ」代表取締役であり、地域での挑戦を応援する「一般社団法人佐嘉再興パートナーズ」理事の溝上泰興さんと、同じく「佐嘉再興パートナーズ」メンバーでありながら、先進地域・香川県三豊市(みとよし)で事業を続けてきた原田佳南子さん。
議論の中心となったのは、香川県三豊市の先行事例です。地元の経営者たちが業種・業態を超え「プロジェクト型ファイナンス」を推進。その成功事例を地域内外に開き、独自の循環を生み出した「ローカルIPO」。さらには週3日10時間農業に従事することで、家を無償で提供する「ベーシックインフラハウス」など、地域の基盤を自分たちで作り変えることでリターンをもたらす投資構造を紐解きました。
さらに、地域全体を下支えする「公益型」と、事業を加速させる「プロジェクト型」のファンドをいかに組み合わせ、多層的な資金循環を築くかという戦略についても議論しました。
<登壇者一覧>
溝上 泰興(みぞかみ やすおき)さん 株式会社ミズ 代表取締役 / 一般社団法人佐嘉再興パートナーズ 理事
原田 佳南子(はらだ かなこ)さん 瀬戸内ワークス株式会社 代表取締役 / 一般社団法人佐嘉再興パートナーズ
池田 寛人(いけだ ひろと)さん 株式会社ファンベースカンパニー 取締役CFO
青柳 光昌(あおやぎ みつあき)さん 公益財団法人社会変革推進財団 専務理事
宝楽 陸寛(ほうらく みちひろ)さん 公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団 代表理事 / 一般社団法人全国コミュニティ財団協会 代表理事
※記事中敬称略
30年後の地域を幸せにする資金循環は、どうやったら生まれるのか
池田寛人(以下、池田):ファシリテーターを務める池田です。今日のセッションでは、これからローカルファンドを構想し始めている溝上さん、原田さんをはじめ、会場の皆さんのヒントになることを生み出していくことがミッションになるかと思います。
ローカルファンドという言葉について、この場ではいったん「地域事業を支える新しい資金循環」という定義に設定をさせていただきたいと思います。またその際、「新しい」ということは、何かしらの難しさがあるということ。今回はその中でも「時間軸」に着目したいと思います。

例えば、「3年後に世界一稼げる観光都市を目指すのか、30年後に次世代が笑顔で暮らせるまちを目指すのか、どちらかしか選べない」と言われたら、どうですか? 「どちらも必要だよね」という方もいらっしゃると思うのですが、少なくとも30年後の未来を捨てる人はいないでしょう。しかしながら、今の金融工学では、長期の時間軸を支えるのが難しいんです。
もう一つの軸として、図2のように主体として「営利目的の箱なのか」「公益目的の箱なのか」という観点も置かせていただきます。
例えば営利目的の企業がやる短期的な資金調達には、商品を買えるクラファン、購入型のクラファンなどがあります。公益目的の自治体ですと、寄付型のクラファン、民間と自治体が組んだガバメントクラウドファンディングみたいなものがあったりします。

長期では、営利においては上場株式。上場ということ自体が、審査を経て「みんなで支えるべき公共の企業」となることなので、時間軸関係なく投資できる環境が整えられている状況になります。公益においては、公益財団や公益信託、そういったものが少しずつ出始めています。
その上で提示したいのは、地域事業が目指しているものが長期であればあるほど、例えば営利の企業が調達しようとしたとき金融商品になりにくく、公益でも支援が続かないんですね。「この時間軸の壁を越える資金循環はどうやったら生まれるのか」、今日は課題として考えていきたいと思います。
宝楽陸寛(以下、宝楽):一点だけ補足すると、公益の領域には自治体や政府の話と、僕らのようなコミュニティ財団や非営利セクターが混ざっている面もありそうですが、混ぜてはいけないと思っていて。
公益財団においては、2008年12月から施行された公益法人制度改革関連3法により、誰でも財団がつくれるようになりました。そうしたコミュニティ財団の文脈で語られる「市民でも持てる公益の器(銀行)」ができたという意味で、ちゃんと区別して考えたいです。
青柳光昌(以下、青柳):あとは、「どこまでその地域の主体として関わることができますか」という視点が、図2の右側にはある気がします。
私がインパクト投資と言っているのは、図2の最上段にある「投資ファンド」「上場株式」をしている方々、そこにお金を投じている方々、そのお金を預かって専門的に営利で運営している金融機関の方々が、公益目的、社会課題解決のためにお金を投じていたりすることなのですが、この図のとおり、投資ファンドでも10年、上場株式でも50年の時間軸はないんですね。財務リターンがあることを期待してお金を投じているので、待っても10〜15年。それ以上になると「誰がお金を出すのか」という問いが生まれるのが、図2右側エリアだと思います。
地域の方々が、営利であれ公益であれ、財務リターンが高くてもなくても、「自分ごと」としてその資金や資源をどれだけ出したりつくれたりするのか、というところが、右側エリアをつくれるかどうかの難所じゃないかなと思っています。三豊ではその難所を一つ超えつつあるんだろうな、とは思っているのですが。

自分たちで自分たちの事業をつくることで、地域のプライドも一緒に培う
池田:ではここからは、三豊の話を原田さんからご紹介してもらいましょう。
原田佳南子(以下、原田):私は出身は東京なんですけれど、2018年に大企業を辞めて香川に移り住み、自分の会社を立ち上げて事業をスタートしました。事業計画も書けないところからスタートして8年間やってきたのですが、いま三豊は「この10年で100の新しいプロジェクトが生まれているまちだ」と言われています。
新しく何かができるというのは、住んでいる人たちからしてもすごくワクワクするし楽しいことです。ただもちろん、「何かが生まれる」には、お金と、それを担う人の存在が不可欠です。
私は現在、佐賀でも地域がより良くなっていくために「人とお金の仕組み」がつくれないかと模索していて。そうした意味で「三豊はどんなふうにお金をつくってきたのか」を、少し紐解いていきたいと思っています。
まず1つ目が「みんなで出資モデル」。私が一番最初に古田秘馬さんという方と2人で始めたのは、「うどんを打たなきゃ泊まれない『UDON HOUSE』」という事業だったのですが、それから1年後、地元の企業11社が一緒に一つのホテルをつくるプロジェクトの旗振り役をさせていただきました。
その頃、クラウドファンディングが一般的になってきていて、投資家でも何でもない普通の人たちが「誰かを応援する」仕組みが目に見えるようになってきていました。それがあってこそだと思うのですが、「せっかくなら事業にそのまま投資できた方がいいのでは?」という想いもあって。
また、普通の出資は「増えて戻ってくるから出す」という話だと思うんですけれど、このホテル「URASHIMA VILLAGE」の場合は違っていて、もちろん配当は出すんですが、「配当目的はだめ。この事業に関わることができる人がお金を出してください」という前提で、1社500万で11社集まりました。
ですので、実は「URASHIMA VILLAGE」を運営する「瀬戸内ビレッジ株式会社」という会社には、社員が一人もいないんです。清掃スタッフは直接雇用していますが、基本的な宿の運営はすべて株主に仕事を発注しているという外注モデルです。
そうすると、自分たちでお金を出して、自分たちで仕事をつくって、配当で戻ってくるよりも先に「実業でリターンが戻ってくる」という循環が生まれていきます。外資が入ってこなくても「自分たちで自分たちの事業がつくれるんだ」という、地域のプライドも一緒に培うことができる。

実は今、三豊では山ほどみんなで出資しているモデルが生まれています。「三豊鶴」という酒蔵をリノベーションした事業は地元の他業種5人が出資、「おむすび座」という飲食店は子育て世代の8人で、「瀬戸内暮らしの大学」は22社が出資をして進めています。

イニシアチブは自分たちで、新たな仲間を募っていく「ローカルIPO」。地域のサービスで生活そのものを支える仕組み「三豊ベーシックインフラ」
原田:続いて2つ目は、「ローカルIPOモデル」というものです。「URASHIMA VILLAGE」は11社で5,500万、プラス融資で土地を買って建物を建てて事業をスタートしました。その際、代表の個人保証が付いてくると次のプロジェクトに挑戦しにくくなってしまうので、そこをどうにかしていけないかと考えたときに、自分たちで持っていた土地と建物を、自分たちでつくった特定目的会社のファンドに売却。家賃を「瀬戸内ビレッジ株式会社」からこのファンドに毎月払ってお借りしている、という形に変えました。
サービスは今もずっと「瀬戸内ビレッジ株式会社」が運営しています。今まで融資を組んでいたものを一回「オフバランス(賃借対照表から外すこと)」し、ここで出た売却益でまた違うホテルがつくれたという形になっています。

イニシアチブは自分たちでしっかりと持ちながらも、新たな仲間を募っていくという目的で生まれたのが、この「ローカルIPO」というモデルです。それまで基本的には地元の人たちだけで進めてきましたが、日本航空さんやJR西日本さんが大口で、さらに「URASHIMA VILLAGE」に泊まったことのある方が「宿が良かったから自分も支える側になりたい」と入ってくださいました。
最後の3つ目は、今進めている「三豊ベーシックインフラ」です。人口減少、市場が縮小していくなかで、今まで公共が支えていたその地域のサービスを地域の共助で担っていけないかという構想です。
「ベーシックインカム」ではなく、生活そのものを支える仕組みをつくろうとしていまして、例えば週3回、朝3時間農業を手伝ってくれたら家賃、光熱費、食材を提供する仕組みをつくりました。

キーワードは、「自己の拡張」「関係性」「非財務」
原田:以上3つの事例から、私のほうから今回のテーマ「時間軸の壁を越える資金循環はどうやったら生まれるのか」に寄せてご紹介したいのは、一つは「自己の拡張」という考え方です。
三豊では「みんなで出資をする」ことが比較的できているんですが、それを新しくローカルファンド構想を進めている佐賀でもできるかというと、「それぞれの会社はそれぞれだよね。なぜみんなで出資しなきゃいけないのだろう」という感覚がまだまだ強いのではないだろうかと感じていて……。
この根底にあるのは、「隣の企業が元気に生き残ってくれることは、私たちが元気に生き残ることと同じ」という感覚──つまり「私たち」という言葉の定義がどこまでを指しているかという捉え方の違いだなと思っています。
「地域全体」を「私たち」と、自分とほぼ同義で言えるかどうか。「自己」という概念がどこまで拡張できるかによって、地域の人たちがつながって何かができるか決まってくるのだと思います。それによって、今まで短期でしか考えられなかった物事が、長期になっていくのではないでしょうか。
それから「関係性」。「URASHIMA VILLAGE」の「ローカルIPO」は、一応一般公開で募集はしたんですけれども、本当にお金のリターンだけでいい人にとってはそこまで良い商品ではない。けれど「URASHIMA VILLAGE」のことが好きで毎年泊まりに行きたいような方々にとっては、良い商品です。クラウドファンディングもそうですよね。「あの人が頑張るんだったら、それを応援したい」というような関係性によって突破口が生まれるんじゃないかなと感じます。
最後に「非財務」。ローカルにはお金はないかもしれないけれど、資源がいっぱいあるんです。給料はたくさん払ってあげることはできないけれど、家はタダで提供できるなど、非財務のメリットを工夫することによって越えていける壁があるんじゃないかと捉えています。
池田:なるほど……先ほどのフレームワークで考えると、一つ目の「みんなで出資」は「営利事業で稼ぎに行くぞ」という領域になりますね。二つ目はそこからファンに対してパブリックにしていくという、上場株式に近いようなことをされていました。三つ目は、公益のためにお金だけではなく非財務の関係性でやっていこうというアプローチ。そうやって時間軸を越えていったのかなと思います。

地域にある相互扶助の仕組みを、資金的に支援することで基盤強化する「コミュニティ財団」
池田:ここまで三豊の事例を伺ってきましたが、宝楽さん、青柳さんの実践についても教えていただけますか?
宝楽:僕らは大阪南部泉北周辺地域で、市民の力で地域の課題解決を実現していくために、ニュータウン型コミュニティ財団「公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団」を運営しています。
我々は、言ってみたら「誰かの代弁者」なんです。ボランティアや支え合いでやっていた相互扶助の仕組みを、資金的に支援することで基盤を強化していこうとする取り組みです。
まず自分たちが感じている地域課題が先にあって、それをみんなにシェアしていく。寄付を募る場合もあれば、問題意識を共有する「地域円卓会議」のような対話で進めていく場合もあります。そこから初めて事業の方法を構築していきます。
僕らは「あり方」のほうを重要視していて、「やり方はあとからいくらでも見つかる」という姿勢です。この公益財団には20種類ぐらいチェックリストがあって、寄付もできるし、奨学金の貸付、美術館運営もできます。
また、2026年に公益信託の法改正があったことで、さらにこの分野は変わっていくなと感じています。例えば、地域にある使われていない不動産を公益信託財産に切り替えることができるようになりました。すると、「ここで地域活性化のためにカフェをやってみよう」といったことができるようになります。カフェをやるということ自体は営利目的ですけれど、地域のために貢献するものだと公益認定されたら可能です。そのように、生きている間に寄付できる財源になるのが公益信託なんですね。
不動産や使われていない山、使われていない畑などを持ち寄って公益財団がプールし、運用しながら凸凹な資産を活用して地域のために活動していけるといいなと思っています。
また、「財団」「公益信託」「投資」というのはやり方の話であって、地域の成熟度や歴史によって相互扶助の仕組みは全然違うので、そこは議論をしたほうがいいかなと思っているところです。

地域のために挑戦している事業を、すぐにはお金にならなくても支える仕組みが必要
青柳:私は、日本財団から9年前にスピンアウトした「公益財団法人社会変革推進財団」で、社会課題解決を目的としたインパクト投資を日本国内に普及・推進する活動を行っています。また、私自身も2つの地域に関わっていて、数年以内のローカルファンド立ち上げに向けて計画を進めています。
そもそも「インパクト投資とは?」についてですが、いろんな社会・地域課題を解決しようということを「意図した」投資行為のことを指しています。さらに、その「意図」が本当なのかを説明・証明するために、「評価(測定)」が必要になります。
金融商品としてインパクト投資というものができていること自体は、素晴らしいことです。10年前は200億円の市場だったのが、今では18兆円ですから、すごい伸び方でもあります。けれど、今日のテーマで言うと三豊をはじめ皆さんの地域に「どんなお金が本当に流れていくべきで、生み出さなきゃいけないのか」というところが、これから日本でつくっていかなくてはいけない部分です。そう考えたときに、原田さんにお話しいただいた三豊のモデルは非常に秀逸だと思います。
突き詰めると、一番最初の「URASHIMA VILLAGE」が売れるかどうかだったのではないでしょうか。収益が上がらないと、次の「ローカルIPO」の方針にもいかないし、人も来ない、ということになってしまうので。やはり「いかに魅力的で強いコンテンツを各地域でつくることができるか」が、お金という意味では一番最初の最重要のステップなんだと思います。「箱」や「仕組み」から先に考えてしまうと、おそらくうまくいかないのでは、と。
宝楽:コミュニティ財団も、つくるときは2〜3カ月かけて設立に必要な基本財産をみんなでお金を出し合っていく必要があるんです。そのプロセスの「対話」の中で、地域が自分たちのことを見つけていくという感じなんですよ。だから僕らの場合は、「暮らし」から始めて、「それを支える仕組みにはどんな器(箱)がいいか」という順番で議論します。
原田:一方で、地方創生でよくあるのは、意欲のある外から来た人が「まちのために頑張るぞ」とまちにとって大切な事業を始めるけれど、結局うまくいかなくなって。それはその手の取り組みが数字としては「すぐには結果が出ない」からなんですよね。
すると10年はなかなか持たなくて、3〜5年ぐらいで疲弊していくケースがすごくたくさんあります。自分たちの場合はそうしたタイミングで、きちんと地元の実力派企業を巻き込んでいくことができたというのがポイントかなと思っています。
そういう「いいこと」をやっているところに、佐賀で言えばミズさんのような企業が、「すぐにお金にはならないけれど、その事業を支える」というハブの役割を担っていくのがポイントなのかなと思います。
損得を超えた熱量ある個人の想いと、ビジネスでも利益となる仕組みの両方が必要
最後、会場の質疑応答を経て、発起人でもありローカルファンドを構想中の溝上さんから下記のような発見の感想をいただき、セッションは終了となりました。
溝上泰興:今日はたくさんヒントをいただきました。あらためて、私は金融のプロではなく、地域で100年以上事業を続けている企業の人間として、「地域に必ず必要なものをつくらなければいけない」ということを強く感じました。
佐賀でチャレンジしている人、出資している人がいないわけではないんですよ。ただ、そこに「共感の資本」が集まっているかというと、実はそうではないものもあって。「なぜだろう?」と考えたとき、「勝ち」ではなくて「自分が損をしてでも絶対にやる必要があるんだ」という個人の強い想いであったり、「ビジネスの損得もある程度担保されながら地域に資する仕組みができているのかどうか」という視点が浮かんできました。
そうした「全体の絵の見せ方や伝え方」みたいなものが、おそらくうちの地域にはまだないんだな、ということがわかった気がします。まずは絶対にやりたい熱量を自分自身から示してみること。そして、それを見せながら「そういえば周りもこういうのやりたいって言ってたよな」ということを掘り起こしていきたいと思いました。
またいろいろと教えてもらえたらなと思います。本日はありがとうございました。

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