
2026年5月、虎ノ門ヒルズで開催された「Beyondカンファレンス2026」に、多様なセクターから491名が集結しました。第5回目を迎える今回は「個の意志に、組織の動力を。」がテーマ。個人の意志や想いを組織の動力にし、社会を動かすエネルギーへ変えていくために、社会課題解決の最先端を走る挑戦者たちと、実践的なアプローチを議論しました。
本記事では、カンファレンスで実施された「『あいだ』作戦会議─アカデミア・NPO・まちづくり会社・地方議員等多様な『あいだ』を繋ぐ人たち同士の繋がりを考える」セッションの、登壇者発表を中心としたレポートをお届けします。
政策現場で「中間支援」という言葉が飛び交っている昨今。けれどその実態と重要性が、確かな解像度を持って語られているでしょうか。都市と地方、行政と住民、人間と人間以外の生態系──そうした「あいだ」には、大きなギャップが存在します。それらの狭間に立ち、泥臭く調整し、合意を形成し、新たな価値を紡ぎ出す「あいだ」の人たちこそが、今、社会のレジリエンスを担う鍵となっています。
本セッションでは、エネルギー基盤の構築から被災地復興、そして若者のコーディネートまで、異なる領域で「あいだ」を担う人々が集結し、それぞれの体験から葛藤や課題となっている構造が共有されました。
<企画メンバー一覧>
※ 本記事は3時間にわたるセッションの一部をまとめたものになります。記事内にご発言の記載がない方もいらっしゃいますこと、ご了承いただけますと幸いです。
上入佐 慶太(かみいりさ けいた)さん 株式会社JAL航空みらいラボ 航空事業調査研究部
北條 聡子(ほうじょう さとこ)さん 日本航空株式会社 W-PIT 能登復興事業ユニット
村川 友美(むらかわ ともみ)さん 株式会社リバー・ヴィレッジ 代表取締役
高橋 朝美(たかはし あさみ)さん 一般社団法人環境パートナーシップ会議
江口 健介(えぐち けんすけ)さん 一般社団法人環境パートナーシップ会議
髙田 知紀(たかだ ともき)さん 兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 准教授
杉山 高志(すぎやま たかし)さん 九州大学 准教授
瀬沼 希望(せぬま のぞみ) NPO法人ETIC. ローカルイノベーション事業部
持続可能な社会をつくるために、「あいだ」をつなぐ人の思いや意味をどのように結晶化させていけるのか
セッション冒頭、一般社団法人環境パートナーシップ会議の江口健介さんから、なぜ今「あいだ」の話をするのかについて語られました。
「チェックインでも多種多様な『あいだ』があがってきましたが、今日この場だけで解決しないにせよ、『あいだ』ってなんだろう?ということを考える機会にできればと思っています。特に大事にしたいと思っているのが、行政と市民の『あいだ』など人が作った仕組みの中だけではない、外との『あいだ』の話です。
例えば気候危機や鳥獣被害。コロナは人獣共通感染症でしたが、人の生活圏がどんどん広がり野生生物との境界が曖昧になってしまったことで、社会や経済にとても大きなブレーキをかけるような事態が生まれています。そのように、人が生み出した仕組みの中以外の『あいだ』へも想像力を働かせてみてください。
また、人口が減って税収が減り、公助が限界になった先の安価なアウトソースとして求められてしまっている『助け合い』や『公助』もあるなかで、お金がつかない状態の『つなぐ仕事』を本当にこのままやり続けていいものなのか、やり続けられるのかという観点もあると思います。
企業の方にとっては、見方を変えると『隙間(あいだ)』は次のビジネスチャンスにつながるかもしれません。けれども、公共をないがしろにするような、いわゆる新自由主義的な発想で取り組むだけではかえって社会課題を増やしかねません。むしろ地域自治や持続可能な社会をつくっていくという観点をもって、この『あいだ』をつなぐ存在の思いや意味を結晶化させることとビジネスをどう両立させ得るか、この作戦会議を契機に試みていけるといいなと思っています。
『あいだ』の話は複雑でもあるので、自分の今いるポジションだけから考えると理解が難しい部分があるかもしれません。あまり答えを急がずに、複雑なものを複雑なまま捉えることを意識して、そこから生まれる次のアクションの主語も『自分』として考えてもらえたらうれしいです」

アカデミアと現場、人間と自然、現在と未来の「あいだ」で、見積書に出てこない項目に対応し続ける日々──九州大学発ベンチャー「リバー・ヴィレッジ」村川友美さん
セッションは、フィッシュボウルというディスカッション方式で実施。話を聞きたい人も話をしたい人も共に楽しむことを意識した方法で、会場の中心に椅子で円をつくり、企画メンバーが座りつつも、空席をいくつか用意して話したくなった参加者が誰でも入れるようになっていました。
前半には、2名の企画メンバーからの「叫び」──自分の体験をもとにした本心からの苦悩や願い──が共有されました。最初に「叫び」を聞かせてくれたのは、九州大学発のベンチャー企業で、地域の方々が小水力発電に取り組むことを技術的にサポートする株式会社リバー・ヴィレッジ 代表取締役の村川友美さんです。

(村川さん)「この会社が生まれたきっかけは、大学での研究でした。大学の研究というのは、社会にある様々なことを科学的に分析しながら『これがあったらいい』という仮説のようなものを立て、ある程度の実証までは行うんですけれども、実装まで担うことが中々難しい立場になります。
私が十数年前に所属していた研究室でも、中山間地域で小水力発電を実現できたら、地域資源の活用にもなり産業にもなり、地域で新しいことに取り組んでいく投資のきっかけにもなるだろうと考えていました。
そうした研究が生まれた1年後、東日本大震災が起こりました。世の中の流れも『地方で分散型のエネルギーを持っておく必要がある』となっていき、流域で事業化できるものとして小水力発電が有効なのではないかという仮説が生まれました。
では、それを実際に地域の人たちが取り組むためには、どのようなサポートが必要か。まずは本当に可能か科学的な調査を経ての評価が必要になります。さらに誰がどういう形で事業化していくか、お金はどうするか、組織体はどうするか、いろんなことを話し合う必要があります。
そのようなことを技術・ノウハウ提供しながらリードしたり応援したり、まとめ役を担うことをしてくれるコンサルティング機能が当時社会にはなかったので、アカデミックと現場の『あいだ』をつなぐ役割として当社が生まれました。
今年で14年目になりますが、これまで全国各地の中山間地域と関わってきました。大抵の資源の活用では、例えば森林は所有者が決まっていたりと地域事業であっても関われる人/関われない人が出てきてしまいます。一方で水は、地域内のすべての人が平等に利用している資源なので、すべての人に『かかわりしろ』がある──言い換えれば、『かかわらざるを得ない』、ある意味で地域の結節点になるような事業です。
視点を変えれば、それゆえに推進・実施するのが難しいと言われます。けれど非常に安定したエネルギー源で、水がある限りは基本的に水車を回転させてエネルギーが取り出せますし、調整もできる。多いときは絞ることもできるので、物理的に非常にコントロールが可能な地域資源の一つです。
ここからが本題になりますが、難しさと同時に良さがあるこの事業をしっかりと理解した上で、『何のためにお金をかけてこの事業をやるのか』という、かなり難しい問いを80代、90代のおばあちゃんもいる中でみんなで話さないといけません。
しかも、現役世代と呼ばれる40〜50代から、80〜90代の方々がメインで話し合いをするのですが、小水力発電事業というのは最初の建設までに最短でも3〜4年かかるので、完成するまでにいなくなる人が出てくる可能性もあります。
エネルギー事業というのは、そもそも非常に長期的な事業です。小水力発電は最低でも50〜100年というスパンでエネルギーを生み出し続けます。例えば明治期に開発された発電所がまだ現役で動いているくらいですから。今つくったとして、本当の意味で地域の資産になっていくのは、実は20〜30年ほど先になります。
そうなると、今その地域内でやろうと決意する人たちにとっての目的は、目先の利益にはなりません。何を自分たちの地域で資産として今つくり、それをどう維持管理してもらえる形で後世につなぐかという非常に難解なテーマに、地域の方々が向き合わざるを得なくなる。そういう事業を、私たちは持ち込んだり依頼を受けて調査をして、「じゃあ皆さん、今から考えましょう」というところからスタートさせています。
もちろん、行政や金融機関、地権者、そしてもう一つ大切なのが、水をとるということは河川への影響があるので、河川にいる生き物や河川管理者、災害のことなど、さまざまな関係者との整合性を考えなければなりません。その『あいだ』を適切にやらないといけないんです。
私たちは『現場のことをやれ』という声に応えアカデミアから出て、ソーシャルベンチャーを始めましたが、成り立たせるのは非常に難しいなと思いながら14年を過ごしてきました。地域の方々がクライアントですが、そもそも地域にお金がないという理由で小水力発電を検討することになったケースがほとんど。この会社は誰から支えられているんだ? というジレンマがあります。日々増える優秀な若いメンバーたちを支えるためには、技術コンサル業として収入を得ないといけない。一方で稼ぎが目的の事業というよりは、本当にその地域に必要なものをつくっていくことを目指している……。
さらに、地域の成り立ちから、そこに暮らす人の現実の悩みまで含めてしっかりと捉えながら、塩梅を考えてプロジェクトを動かすマネジメントは、決して見積り項目には出てこないものです。日々、契約書や見積書に出てこない項目を60パーセントぐらいはやっている感覚です。
『あいだ』を支える立場として、地域の方々からも『あなたたちはボランティアでやりよるね』と言われるくらい入り込んでやっています(苦笑)。でもそうしないと、水を扱う事業の合意形成はできない。非常に悩みながら存在しているというのが、私たちの実情です」
村川さんの「叫び」には、兵庫県立大学で自然・環境科学研究所 准教授をされている髙田知紀さんらが応答。地域の合意形成にまつわる研究知見の共有などが行われました。また、「お金にならない部分ほど実は高度な専門性が必要なのではないか」「数値化して見える成果と数値化できない見えない成果の両方が必要なのに、見えない成果の対価を得にくいのはどうしたらいいのか」ということなどが議論されました。

都市と能登の「あいだ」で、人々と地域の縁をつなぐ──「JAL航空みらいラボ」上入佐慶太さん
次は、株式会社JAL航空みらいラボ 航空事業調査研究部の上入佐慶太さんの「叫び」です。上入佐さんは2021年に社内ベンチャー「W-PIT」で関係人口の創出に取り組み始め、2024年からは能登の復興に資する地域に根差した関係人口事業を統括・推進されています。

(上入佐さん)「私の思いはコロナ禍にさかのぼります。JALに入社して1年目にして飛行機にお客様を乗せられなくなって、『我々の存在価値は何だろう』と思ったとき、東北を訪ねました。そのとき初めて地方に行って、その体験がめちゃくちゃ楽しくて、自分がガラッと変わったんです。
行く前は上から目線で見ていたのに、息切れするくらい働いて大企業の歯車の一つになりかけていた自分に気づいて……。『こうした気づきが生まれるのが人が移動する理由なのかな』と、日本各地に目を向け始めました。
そのときもつないでくれた『あいだ』の方がいて、その方に助けていただきながら、最初は都市から地方へ大学生とJAL社員が一緒に留学する事業を始めました。そうしたなかで、都市から地方に行くためには、地方の案内人やコーディネーターと呼ばれる人たちが必要だということが徐々に見えてきました。
そして2023年11月、能登半島の能登町にワーケーションで訪れる機会があり、能登の人も里山も大好きになって。そんな矢先に地震が起こり、ワーケーションプログラムを企画してくれた方々や周りの人たちが被災者になってしまい、いても立ってもいられなくなって能登に通い始めたのがきっかけです。
最初は炊き出しや物資輸送などの形で入らせてもらったのですが、徐々に現地の方たちとのネットワークもできてきて、外から能登の現状を知りたいという方の案内を引き受けるようになりました。その後、地域の方たちとの関係性も築けてきたのでJALの中でも事業を立ち上げ、今展開しています。
気づいたら祭りにも参加させてもらえるようになり、能登からいただくものが非常に多くなってきて、『今週あんまり支援することないけど、とりあえず行ってみるか』という感じで、用がない週末は能登に通うようになりました。行ったら行ったで絶対にやることがあるので、活動を続けていくうちに、地域の解像度もどんどん高くなっていきました。
能登の皆さんは『祭りが好き』というイメージで、その際に派手な祭りをイメージしていたのですが、よくよく話を聞くと奥能登といわれている二市二町でも全然祭りのイメージが違うし、能登町の中にも15の公民館区があるんです。さらに細分化していくと約193の集落単位に分かれる。さらにその中に町内会という本当に細かいコミュニティが点在していて、その一つひとつで祭りが違うんです。静かなものもあれば、激しいものもあったり、神輿も違うし、キリコ祭りという有名なものもあるんですけど、それぞれ大きさも担ぎ方も全く違うんですね。
今も能登に関わりたいから案内してほしいというご依頼をいただくなかで、各種調整をするときは、そういった地域の細かさをイメージしながらやっています。大変な面もありますけど、結構楽しいんですよ。楽しいから、もっとみんなでこの『あいだ』を担えたらおもしろい世界ができるんじゃないかなと、最近思っているところです」
上入佐さんの声には、会場に来ていた能登の役場職員の友人の方、上司と同僚の方々らが応答。継続的な支援が必要不可欠な被災地に、事業という形に落とし込みながら覚悟を持って都市部の人と地域をつないでいる上入佐さんの姿が浮かび上がる時間となりました。
「あいだ」の人は、新しい価値や活動を生み出す触媒
後半は小さなグループに分かれながら、「あいだ」の人の仕事についてディスカッションする時間となりました。議論された主なテーマは下記になります。
・企業への「あいだ」を担う仕事の金銭的価値の説明方法
・「あいだ」の人の仕事をどうプライシングするか
・「あいだ」の人が生み出す価値とは?
・「あいだ」の人として自分なりの理論をどう見つけたらいい?
・「あいだ」を見つける、気づくって、どういうこと?

最後の振り返りでは、「あいだ」の人の価値は新しい活動や価値を生み出す触媒であること、つまり関係者それぞれを輝かせたり、複数者にまたがる調整で新しい動きを立ち上げる点にある、という声が聞かれました。
また、地域の人々との対話における感情の扱いの課題に対して、「自分がどういう人間で、何ができ、不安や限界も含めて自分の言葉で語れること」が出発点になるのではという整理が生まれたり、「あいだ」の人を固定化するよりも、誰もが持ちうる「あいだ」になれる要素を引き出す風土づくりや枠組みが大事ではないかという視点が提示されました。
会社員として「あいだ」の人活動を継続する難しさへは、組織内での立ち振る舞いについて知見が共有されたり、企業への金銭的価値の説明については、その枠組みに乗ること自体が不利になり得るため、金銭以外の価値軸でどう戦うかを探求していきたい、という声が聞かれました。
本セッションの企画メンバーは、今後も継続的にフィールドワークを実施するなど、互いの「あいだ」の様子を共有しながら一緒に議論を続けていこうとされているのだそう。早速村川さんの現場へのフィールドワークを企画中とのことでした。「あいだ」作戦会議レポート、続報をどうぞ楽しみにしていてください!
<関連記事>
>>「Beyondカンファレス」の記事一覧
<関連リンク>
>>第5回Beyondカンファレンス2026公式サイト
>>and Beyond カンパニーWebサイト

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます