社会・公共

「感情論と根性論で、取り返しのつかないことになっていた」——卒塾生2人が語る、社会起業塾インパクトコースの半年

ETIC.ソーシャルイノベーション事業部のnoteに掲載された記事を、当メディア向けに一部編集して転載しています。

事業がある程度かたちになり、収益も立ちはじめた。けれど、ここから先——「経営」という新しい問いの前で、立ち止まっている。そんな社会起業家は、少なくないのではないでしょうか。

拡大・発展の先に、社会により大きなインパクトをもたらす事業展開を目指す。そんな起業家に向けて、ETIC.が2025年から始めたのが「社会起業塾イニシアティブ インパクトコース」です。

社会起業家特化の伴走支援プログラム|社会起業塾イニシアティブ インパクトコース

2026年度の募集にあたって開催したオンライン説明会には、昨年度の卒塾生お二人がゲストとして登壇。半年間のプログラムを経て、事業と組織、そして自身の眼差しがどう変わったのか——その言葉を、ご本人たちの語りでお届けします。

孕石 修也(はらみいし しゅうや)さん
一般社団法人多様な学び舎 代表理事

愛媛県で教育事業を展開。学習塾、フリースクール、オルタナティブスクールを運営。2019年にフリースクールを設立。2026年7月より松山市とひきこもり居場所づくり事業を開始予定。
一般社団法人多様な学び舎 公式サイト

市川 加奈(いちかわ かな)さん
Relight株式会社 代表取締役

“見えないホームレス問題”をテーマに起業して6年。路上ではなくネットカフェや友人宅を転々とし、仕事はあっても自分の家を借りられない人々に向けて、住まいと仕事の支援事業を展開している。
Relight株式会社 公式サイト

※記事中敬称略

ある理事からの「やめたい」という相談がきっかけ

孕石:「学校以外に学びの場があることをとにかく伝えたい、そんな想いで、私自身は学生時代から学習塾を二拠点起業して運営してきました。2019年には、学校に行けない子どもたち・エネルギー切れを起こしている子どもたち向けにフリースクールも開室。子どもたちが元気になっていくプロセスが確立していく一方、成果が出て学校に子どもたちが復帰することで、事業は赤字が続くという状況が続いていました」

「学校に戻った子どもたちの中には『学校に私の居場所はなかった』という子たちも一定いて、今度は学校以外で多様な学びが得られるオルタナティブスクールにも始めようと取り組み出しました。そうやっていろいろやっていく中で、現在は学習塾を2教室、フリースクールとオルタナティブスクール、そしてひきこもり居場所づくり事業を7月から松山市とスタートします。」

「インパクトコースに参加したときは、個人で色々やりすぎて、それが散らかっているような状態でした。理念や価値観はあるんだけれども、それが法人としてのミッション・ビジョンとして合意は取れていない状態で進んでいました。そんな中、ある理事が辞めたいと言い出したことをきっかけに、このままだと理念達成か、それ以前にそもそも崩壊するんじゃないかと思っていたところ、インパクトコースに出会いました」

参加していなかったら、感情論と根性論で取り返しのつかないことになっていた

孕石:「起業塾に参加している間に経験した変化がいくつかあります。一つ目に、それまでバラバラだった個々の活動の理念を、関係者の合意をとりながら法人のビジョン・ミッションに進化させていきました。そして辿りついたビジョンは『全ての子どもたちがやりたいと思えることをやれると思える社会へ』、ミッションが『日本が追いかけたくなる自由な一クラスを創りつづける。』です。起業塾に参加する中で作り込んでいきましたが、参加していなかったら確実に理事が一人減っていたと思います。」

「また、メンターからの助言によって人を巻き込んでいくことにも考えが変わりました。それまでは基本的に去るもの追わない主義だったので、辞めたいという人にはそのままバイバイと言っていました。それが、メンターが『思いついたら一旦やってみようよ』『どんどん最短距離を目指していこうぜ』と背中を押してくれたことで、辞めたいという理事に対しても『もっと一緒にやっていこうよ』と声をかけて、働きやすい職場を作っていくことへの一歩を踏み出していけました」

「起業塾の後半戦は、ミーティングの質をどう改善するかということに焦点を置いて取り組んできました。先ほどお伝えしたとおり、自分自身も社会人経験がなく、ミーティングとは何をする場なのか、効果的なやり方や方法というものを経験せずにやってきました。経営ミーティングなのに運営の話ばかりをしてくる理事がいて、以前はそこにヤキモキをしていたんですが、メンターの助言も受けて『あの話は運営的だったと思うんだけど、どう感じますか』と言ったふうに自分たちに振り返りを促すようなフィードバックを投げられるようになりました。それにより、『あ、あれが運営なのね』という風に共通理解することができて、最近では向こうから『これって経営の話で合っていますか』と確認してくれるようになったのはとても良かったなと思っています。」

参加していなかったら、感情論と根性論で取り返しのつかないことになっていた部分が多々あるんじゃないかなと思います。そこを構造的に考えられるようになったというのは非常に大きな点だと思います。僕は愛媛県にいるのですが、地方ではなかなか出会えないけれど、インパクトコースでは新しいことをどんどんチャレンジして、勇気も元気も嫉妬ももらえる仲間たちに出会えました。」

“見えないホームレス問題”と、6年続けるなかで消えないもやもや

市川:「私が向き合っているのは、“見えないホームレス問題”です。路上で生活する人だけではなくて、隙間バイトをして友人宅やネットカフェを転々とする——仕事はしているけれど、自分の家を借りられない人たちが増えています。生きてはいけるし、ある意味では成り立っているけど、良い状態ではない。見えないから社会課題としても取り上げづらく、定義もしづらい問題です」

「最初は家と仕事をセットで紹介して生活を立て直すところから始め、やがて物件をオーナーから借り上げて転貸する不動産事業へと広げていきました。車中泊で困っているという問い合わせが来た若い方が、仕事について、家族ができて、生活が全部変わっていく。そんな変化も生まれてきました」

「一方で、6年やる中で、成り立つけど『なんか伸びない』、という感覚がずっとありました。本当に社会課題の解決につながっているんだろうか。実際に入居した方の中には、家具も何もない部屋でずっと暮らして、自暴自棄の時期になって出て行ってしまった人もいました。仕事も紹介したけど数年経って戻ってきた、ということもある。また来てくださること自体は嬉しいし、短期的なアウトカムは出せていたかもしれないけど、本当に長期的に立て直せていたのか——そのモヤモヤがずっとありました」

「社会と誠実に向き合えているのかというところを自分としてもすごく考えていて、いろんな人と繋がって解決策を見い出そうと動いている中で、インパクトコースを紹介してもらいました。“あ、私が求めていたのはこれだ”という感覚でエントリーしました」

本質を射抜く問いに、逃げられなかった——だからよかった

市川:「私にとっては『社会に誠実であるのか』みたいな問いがすごく新しかったです。『本当に社会のためになっていますか』とか『それって市川さんが本当にやりたいことなの?』というのをこれだけ問われることはあまりない。普段からいろんな場所に行っていろんな人と話したりもしますし、ビジネスとして経営する上での経済性について考えなくてはいけないという現実はあるんですけど、まっすぐに問われるこれらの問いから逃げられない感覚が逆にありがたい機会でした。」

「写真を見ても分かる通り、すごく楽しそうな印象の一方で、泊まり込みでずっとアウトプット・言語化を繰り返すことにも驚きました。同時に、出会いと事業の相互関係のようなものも感じて、出会いと関係性の中で自分がどういう事業を作っていくのかを内省したり、俯瞰していくことを繰り返していると、同じ目線で向きあって、いろんなプロセスでフィードバックをもらえるというのがすごく良い機会でした。」

「メンターとの出会いやつながりを経て、『社会課題を解決する』というより、『自分が何をしたいのか』から事業をつくっていこうと思うようになりました。現在は、入居した人がその後どう生きていくのかを一緒に考えることに向き合おうと、八王子という地域で戸建てを借りながら、居住支援をしっかりやっていくことにしました。ちゃんと次につながっていけるように、そして支援する・されるという関係を超えて、その人たち自身も役割を持って活躍していける場をつくろう、と。拠点を借りて、その周辺に入居者さんが住んでくれて——そんなトライアルを、このプログラムを経て形にできました。」

参加したから救われるではない——活かすかどうかは自分次第

市川:「すごくいい機会だったんですけど、これを生かすも殺すも自分次第なのかもという感覚があります。色々ギブはしていただくんですけど、それを自分で得て、この機会を得てどう形にしていくのかというのがないと、結局変わらないかもとも思います。」

ここに来たらなんか伸びていい感じになるというよりは、とにかく『場がある』という感じ。だからこそ、自分として目標を持って、どうやって何を得て帰っていくのかというのは自分の中でしっかり決めてやっていたので、私にとってはすごくいい機会でした。」

実績を重ねた二人にも、「想定外」の学びがあった——パネルディスカッション

後半は、参加者を交えた質疑応答の時間に。「現場での実績があるお二人が、塾の場で“想定外だった”学びは?」という問いから、対話が立ち上がっていきました。

組織を巻き込みながらインパクトを出すフェーズ

市川:「いろんな人と話していて、面白い気づきがありました。社会課題解決というと『〜すべき』と思いがちで、課題を解決するために私たちは起業しているし集まっている、と思っていたんです。でも『それって本当にやりたいことなの?』『べき論ではなく、どういう社会にしていきたいの?』という問いが、対話の中で生まれてきて。あ、囚われていたのかもしれない、その課題を逆に自分が社会に生み出していたのかもしれない、と。すごくいい学びでした」

孕石:「僕も市川さんも一人で参加したのですが、2人組で来るところもありました。代表と事務局長の掛け合いに、メンターさんが入って問いかけていく。それを自分に当てはめながら聞いていると、すごく学びがあるんです。ときどき、その2人の関係が家族的・夫婦的にも見えて、『これ、うちでも当てはまる』というのもたくさんありました」

市川:「組織論みたいなところがあるのは、インパクトコースならではかもしれません。スタートアップコースにはたぶんない、このフェーズならでは。代表と副代表の関係性、経営層とメンバーの関係性は、すごく学びになりました」

インパクトコース2025の仲間・メンターと

「自分たちが決定に関わったんだ」という感覚を内部で養う

会場の参加者からは「プログラム内での学びを、場に参加していないメンバーにどう伝えてきましたか?組織基盤強化の流れで方針転換する部分を、古くからのメンバーにどう伝えていけばいいか悩んでいます」との質問が寄せられました。

孕石:「自分の場合、組織の課題や『実はこう思っていた』ということを、理事にオープンにしました。『本当に知りたい?』とかなり前置きした上で共有したら、みんな爆笑しながら聞いてくれて。それはすごくいい経験でした。と同時に、内部を研ぎ澄ませていく方向転換のなかで、メンバーが去っていく痛みもありました。」

市川:「うちは規模が小さいので、階層的なコミュニケーションがあまりなく、わりとダイレクトに伝わります。それでも、プロセスを都度共有して一緒に悩むことで、『自分たちが決定に関わったんだ』という感覚を生み出すのが必要かなと思っています。組織の外で学んだことは朝会などでそのままアウトプットして共有していました。とはいえ、みんなで決めるのがいいのか、トップダウンで今のフェーズを走った方がいいのか——コーディネーターと相談すると『気にせず走り抜けた方がいいのでは』という声もあって。あり方は団体次第なのかもしれません」

法人がなくなった後に、どういう社会を残していきたいのか

最後に、「コースを終えて、次の5年・10年をどう見ているか」という問いに、お二人はこう答えてくれました。

孕石:「まさにインパクトのところだと思うんですが、『法人がなくなった後に、どういう社会を残していきたいのか』を、新しく事業を始めるときに考えられるようになりました。ひきこもり事業を始めるにあたっても、どんな社会にしていきたいかを想像してから、そこで課題を見つめ直す。その往復で事業を設計していくというのは、自分にとって良い思考の癖がついたと思っています」

市川:「困っている人たちのために作った事業も好きだったし、楽しかったんです。でも、5年後・10年後どうなっていくのかという絵がなかなか描けませんでした。それが今は、八王子で地域の人たちと一緒に、いかに面白おかしくやっていけるかをみんなで考えていて、『これからは多摩でやって行こう』という感覚があります。それに自分自身が一番わくわくできているんです。まだ仮説でしかないけれど、その仮説が見えてきた。すごく霧が晴れて、よかったなと思っています」

事業の“次の景色”を、一緒に描く半年間へ

事業が軌道に乗ったあとに訪れる、「経営」という新しい問い。一人の起業家から、経営チームへ。感情論と根性論から、構造へ。「べき論」から「どんな社会にしたいか」へ。

おふたりの言葉は、インパクトコースが「答えを授ける場」ではなく、まっすぐな問いと、肯定と、支援後も続く仲間との関係性のなかで、自分の次の景色を自分で描いていく場であることを教えてくれました。


社会起業塾2026のエントリー締め切りは、2026年7月6日(月)朝9時です。まずはWebからのプレエントリーを!プレエントリー後は、ご自身の事業に照らした個別相談もお申し込みいただけます。「インパクトコースとスタートアップコース、どちらが合うか」のご相談も歓迎ですので、ぜひお早めにご活用ください。

▶ エントリー・詳細はこちら:社会起業家特化の伴走支援プログラム|社会起業塾イニシアティブ インパクトコース

あなたの事業の“次の景色”を、私たちと一緒に描いていけたら嬉しいです。

この記事を書いた人
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NPO法人ETIC.(エティック)ソーシャルイノベーション事業部です。コーディネーターが日々感じていることやソーシャルセクターの皆さんに役立つ情報などをお届けしています。メルマガ(ソーシャルイノベーションセンターNEWS):https://etic.or.jp/mail-list

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