
文化祭など、一緒に何かを作り上げるなかでクラスメイトとの絆が深まったという経験がある方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな風に誰かと一緒に空間づくりに取り組むことで、地域内でゆるやかなつながりを増やす活動をされている、KILTA(キルタ)雲南の中澤太輔さんをご紹介します。
※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

中澤 太輔(なかざわ だいすけ)さん
KILTA雲南 代表・株式会社中澤建設専務取締役/ローカルベンチャーラボ第5期生
1986年生まれ。島根県雲南市掛合町出身。地元の島根県立三刀屋高等学校を卒業後、大学進学のため大阪へ。大学卒業後は奈良県の金属加工会社に就職し、同会社の東京営業所配属。その後Uターンし、実父が経営する株式会社中澤建設にて勤務。本業の傍ら、KILTA雲南の活動などを通して地域のつながりづくりにも取り組む。
祖父が立ち上げた会社の経営危機がUターンの決め手に
10数年前、20代半ばで東京から雲南市掛合町(かけやちょう)にUターンしてきた中澤さん。まずはUターンして家業を継ぐまでの経緯を伺いました。
「もともとどこかのタイミングで島根に戻ろうとは思っていたのですが、祖父が起こした会社のうちの一つが倒産の危機だと聞いたことが決め手になりました。祖父は雲南市内で土木建設、不動産、車の販売整備など10社程立ち上げていたのですが、当時は6社残っていました。
結局、潰れそうだと言われていた会社は親族以外の方に承継してもらったんですが、公共事業や土木工事を手がける僕の父も、気付けば60代になっていました。そこで、こちらの方もそろそろ後継ぎが必要だろうということで、僕は中澤建設に入ることになったんです。
誰かがやるだろうとは思っていましたが、僕は4人兄弟の3番目なので、20歳くらいの頃の自分からすると意外な展開ですね。ほかの兄弟は会社経営にはタッチしていませんが、家の改築があればうちに頼んでくれるなど、顧客としても精神的にも応援してくれる存在です」
DIT(Do It Together)という手法と出合って始まった、KILTA雲南の活動
東京では製造業の営業職として働いていた中澤さんにとって、家業とはいえ建設業は初めて飛び込む領域でした。
「建設業は体力仕事が多くてきついというイメージがありましたが、現場にはすごい技術をもっている大工さんや職人さんがいて、かっこいい仕事だなと思う場面もたくさんあったんです。建設業界をよく知らない、素人目線で見たときに、こういった技術を皆さんにもっと知ってもらう機会を作りたいという思いが生まれました」
そんなときに、雲南市の中間支援団体「NPO法人おっちラボ」から紹介されたのが、「一般財団法人KILTA」が雲南市の住民向けに開催するオンライン講習会でした。KILTAとは、「つくる人のつながり」を意味するフィンランドの言葉です。
KILTAの活動は、東日本大震災を受け、津波で流された岩手県陸前高田市内の集会所を住民と共に再建したことで、地域コミュニティ自体も再構築されていったという原体験がベースにあります。「自分で作る(DIY:Do It Yourself)」の輪を広げて、「誰かと共に作る(DIT:Do It Together)」場を提供することで、親戚や友人、地域の方々など、その空間に関わる人々が交流しながら関係性を深めていくことを目指す活動です。
「講習会に参加して、『これいいな』とピンときました。雲南は大きな災害があったわけではありませんが、地域の人同士が接点をもてる場になったらいいなと思い、講習会参加後すぐに活動を始めました。2020年頃のことだったと思います」

DITワークショップを通じて広がる、地域住民の輪
中澤建設が請け負っているのは公共工事が中心ではあるものの、個人宅のリフォームやリノベーションも扱っています。本業とも親和性があることから、中澤建設の事業の1つという位置づけで、KILTA雲南の活動がスタートしました。
「雲南市役所の方に相談し、国の補助金などを活用して、まずは空き家を借りて拠点となる工房を作りました。切ったり削ったり穴を開けたり、基本的なDIYができる工具が一通りそろっているので、ここに集まって作業することができます」
KILTA雲南では、改修したい建物やスペースを持ち、活動の趣旨に賛同してくれる方を施主として、DITワークショップを企画・開催しています。これまで手がけた案件は10件ほど。年に2回のペースで、ゆるやかに活動中です。
「営業などはできていないんですが、口コミでご相談をいただくことが多いです。カフェを新設したいという方が施主となった案件では、床材を切って張り替え作業をしたり、ウッドデッキを作ったりしました。ほかにも壁紙の張り替え作業や、漆喰壁塗り作業などをやってきました。
ワークショップでは、専門知識があり、経験豊富な職人さんや大工さんにインストラクターをお願いしているので、中澤建設のネットワークやノウハウも活きているなと感じます」

DITを通じて地域内でのつながりをつくるという狙いについても、手応えを感じているそうです。
「ワークショップには、施主の友人や応援したい人など、毎回7~10人程が参加してくれています。あまり人数が多いと作業できずに終わってしまうので、10人弱がちょうどいいですね。
ウッドデッキ作りのワークショップに施主の知人の大工さんが参加してくれていたんですが、その方に次のワークショップの講師をお願いするなど、1回限りで終わらないつながりも生まれています。
一番びっくりしたのは、ワークショップの参加者だった県職員の女性が大工仕事にハマり、仕事を辞めて大工さんに転職されたケースですね。その方のご自宅のリノベーションを中澤建設でやらせてもらうことになったんですが、一部は近所の方にも参加してもらい、DITワークショップ形式で完成させました。
僕は技術者ではないので、具体的な作業のレクチャーなどは講師の方にお任せして、楽しんでもらえるように参加者と会話をしたり、出会いにつながるように意識して動いたりと、ワークショップ中はコミュニケーションの潤滑油に徹しています」

田舎ならではの不便を、田舎だからこその余白に置き換える
来年は高校生向けに、校舎に断熱材を入れるワークショップも開催する予定だそう。ローカルに身を置きながら、ものづくりを通して人と人をつなぐ活動を続けるなかで感じたことを伺いました。
「昔と比べて、手触り感のあるものを自分でつくり出すという機会が減っている時代だと思います。特に都市部では『消費する』ことが主体になりがちななかで、創造することや、自分でつくる人を応援したいという気持ちが出発点でした。
田舎は娯楽も人材も少ないので、自分たちで何かおもしろいことを生み出さない限り何もないという面もあります。でも場所はたくさんありますし、騒音もあまり気にしなくていいので、そういった部分を資源だととらえて有効に使うという発想が大事な気がします。そう考えると、むしろ田舎の方が自分たちでやれる余白があると言えるかもしれません。
たまたま家業としてやっていたのが建築だったのでその領域になりましたが、畑でも家でも事業でも、自分たちで何かをやってみる手助けになればと思っています。かっこよく言えば、消費社会へのアンチテーゼ的なイメージです。
一方で、DITは余裕がある人がやる行為だと感じることもあります。今日一日をどう生きるかで精一杯だという人も多いなかで、対象者が少ないというのも田舎のリアルな面ですね。
それでもやってみたいという方は一定数いるし、『おもしろかったよ』と言ってくれる人もいる。それはやってみたからこそわかったことだし、事業性などの課題はありますが、やって良かったと思っています」
「しっかりやりなさい」の言葉を胸に、地域に必要とされる企業を目指して
中澤さんは、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVL)の卒業生でもあります。LVLに参加して印象深かったことについてもお聞きしました。
「LVLも『おっちラボ』からの紹介で参加しました。『KILTA雲南』の活動をどう推進していくかについて考えたのですが、ゼミでメンターの森山奈美さんから『やるならしっかりやりなさい』と喝を入れていただいたことが印象に残っています。
参加期間中に具体的な解決策が出てきたわけではありませんが、今も自分の中にある言葉です。最終発表はプランを可視化するいい機会になりましたし、その後、別団体が主催する『アトツギ甲子園』への応募にもつながりました。
また経営のセミナーなどは、大阪や東京のような大都市か、地方で開催されるとしても福岡や仙台などその地方の中核となるような都市に集まることが多いですよね。本当にローカルの地域課題について議論することや、地方の人同士で交流する機会は少ない気がします。
そうしたなか、地域に根付いた人同士でそれぞれが直面する状況をどうとらえ、どう改善していくかを話せる場は貴重ですし、価値が高いと思うので、特にそういった場を求めている方にとっては意義深い場になると思います」
最後にあらためて、今後の展望について伺いました。
「今後については、まさに模索中という感じです。地域経済の縮小など外部環境の厳しさもあり、きれいごとだけではすまない現実も感じています。難しいとは思いますが、働いている方に恩返しできるような、地域の方々に『あの会社があって良かった』と言っていただけるような会社を目指して、がんばっていきたいです」
中澤さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」について、気になった方はぜひ公式サイトなどをご覧ください。

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