ローカルベンチャー

新卒で地域おこし協力隊に着任、任期を終えて仲間と起業。第二のキャリアはやりたいことで地域に根ざした事業を──NPO法人たがやす 山田みなみさん

「地域おこし協力隊」制度が始まってから15年以上が経ち、2024年度の隊員数は7,910人に上りました。そんな地域おこし協力隊として新卒からキャリアをスタートしたのが、鹿児島県錦江町(きんこうちょう)で活動する山田みなみさんです。

現在は「NPO法人たがやす」の代表として、民営図書館やゲストハウス、認知症カフェなど、幅広い事業を通じて、他者との関わりのなかで豊かに生きるための場づくりに取り組んでいます。山田さんの進路選択から、現在取り組んでいる事業まで、錦江町でのこれまでの歩みを伺いました。

※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

山田 みなみ(やまだ みなみ)さん
NPO法人たがやす 代表理事/ローカルベンチャーラボ第9期生

兵庫県出身。大学卒業後、2019年4月に錦江町地域おこし協力隊に着任。町の事業者の取材記事作成、関係人口づくりなどを主に行う。また、町民と共にSDGsを語る会を定期的に開催。退任後はNPO法人たがやすで民営図書館や錦江町の認知症フレンドリー事業などに携わりながら、ゲストハウスよろっでの運営や、ライターとしても働く。
NPO法人たがやす 公式サイト

田舎暮らしに憧れて。人とのつながりからたどり着いた、錦江町での協力隊という選択

大学時代は兵庫県西宮市で都会暮らしだった山田さん。田舎暮らしへの憧れはあったものの、最初から地域おこし協力隊になろうと考えていたわけではありませんでした。

「いろいろな地域を旅してみて、都会でよくわからないまま働くよりも、猟師さんがとったお肉や農家さんのお米を食べたりと、暮らしを身近に感じられる生活がしたいと思うようになりました。地方への移住は決めていたんですが、具体的な場所や仕事までは定まらないまま参加したのが、『地域仕掛け人市』です」

「地域仕掛け人市」はNPO法人ETIC.が以前主催していた、自分に合う地域や仕事、チャレンジの機会を探している人と地域で新たなチャレンジを仕掛けている人をつなぐマッチングイベントです。大学のゼミの教授のつながりで名前を知っていたことから、山田さんは錦江町のブースを訪れました。

すると、ちょうど直近で教授が錦江町で講演を行う予定があったため、移住体験補助制度を活用し、教授の講演に同行することに。その後面接などのため2度の訪問を経て、2019年4月から地域おこし協力隊として同町に着任しました。

「当時、協力隊はある程度社会人経験を積んだ人がなるものだと思っていましたし、新卒で着任というのはあまり聞いたことがなかったので、めちゃくちゃ迷いました。ただ、町の皆さんがすごく温かく迎えてくれて、役場の方も私のやりたいことに合わせて仕事を一緒に作ってくださるような姿勢だったんです。これだけ協力的に準備してくださるところなら大丈夫かなと、ワクワク半分不安半分で移住を決めました」

山田さんは着任後、ふるさと納税や移住促進などを担当する未来づくり課(移住促進)に所属し、サップ体験などを取り入れたワーケーションコンテンツの開発や移住希望者の受入れ、ふるさと納税の返礼品を扱う事業者さんの思いを伝える記事の執筆などに取り組み始めました。

サップ体験を取り入れたワーケーションコンテンツ

何をやりたいかではなく、「誰と」やりたいかを軸に築いた第二のキャリア

協力隊退任後の進路を迷っていた2年目の終わり頃、一緒にNPOを立ち上げないかと声をかけてくれたのが、錦江町の隣、南大隅町の福祉事業所で働いていた天野雄一郎さんでした。

「天野さんも独立を考えていたタイミングで、『協力隊卒業後に帰っちゃうのはもったいないよ』と誘っていただき、残る理由が一つできたと感じたんです。協力隊の最後の1年は、立ち上げの準備と並行して活動していました」

こうして、“誰もがたのしみ続けられるような世界を共にたがやす”というコンセプトの下、2022年4月に「NPO法人たがやす」が設立されました。集まったメンバーは、錦江町が位置する大隅半島にとどまらず、鹿児島市内や首都圏在住者などに分かれており、職種も関心も実に多様です。

「たがやすのメンバーは、事業ありきではなく、『誰と一緒にやりたいか』という軸でお声かけしました。なので、メンバーは立ち上げ当初とほとんど変わっていないですね。ほとんどのメンバーはたがやすとは別の仕事をもちながら関わってくれています。

初期は私が民営の図書館を、天野さんが農福連携をやりたいと考えていました。組織としての収入確保よりも、メンバーのやりたいことを優先して、たがやすでできそうならやっていこうというスタンスで活動していった結果、今のような幅広い事業に取り組むことになりました」

たがやすのメンバーと(後列左端が山田さん)

「忘れてもよかよ」。誰もが安心して暮らせる地域づくりのための、認知症カフェの活動

現在山田さんが注力している活動の一つが、認知症の当事者が集える「ゆうゆうカフェ」です。錦江町では、認知症になっても安心して生活できる地域を目指し、「認知症フレンドリーコミュニティ構築促進事業」という事業が実施されています。

もともと行政の事業として実施されていたゆうゆうカフェですが、町からの委託で2022年の夏頃からたがやすが運営することになりました。毎週水曜日の午後2時から2時間程度、同じくたがやすが運営するゲストハウス「よろっで」に集まり、さまざまな活動をしています。

ゆうゆうカフェでは、参加メンバー自身がやりたいことを決める、「自己選択・自己決定」の姿勢を重視しているそうです。

「役場の方から認知症カフェの運営をやってみないかと声をかけていただき、経験はなかったのですがやってみることにしました。専門職ではないからこそ、メンバーさんのできることややってみたいことを後押ししやすいという面もあります。

当事者の人たちが安心して人に頼ったり、『忘れた』って言えたり、支援する・されるを超えた関係性をつくるというのがカフェのコンセプトです。

自分たちで畑仕事をして、その収穫物で忘年会をしたり、商品のシール貼りや陳列作業などの仕事をして報酬をいただいたり、メンバーさんが縫った雑巾を子どもたちにプレゼントしたり、当事者同士や社会とつながる活動をしています」

地域包括支援センターを通して登録されたメンバーや新たな見学者など、活動には毎回10人程度が参加しているそうです。錦江町の高齢化率は49.1%(2025年4月時点)。2023年の全国平均値である29.1%と比べ、かなり高齢化が進んでいる錦江町では、すべての人にとって暮らしやすい町であるためにも重要な取り組みとして位置付けられています。

「最初は認知症を隠したがる方もいましたが、最近はベテランのメンバーさんが、『今日は何したかわからんけどよかったね〜』、『忘れてもよかよ』といった声かけを積極的にされるんです。初めて来たときよりも元気になっている姿を見たり、『毎日やって』という声をいただいたり、やっていてよかったなと思います」

ゆうゆうカフェでの畑作業の様子

人生の大切な瞬間を共有できたローカルベンチャーラボ。仲間との交流が事業の成長を後押し

山田さんは、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVL)の卒業生でもあります。錦江町からの推薦を受け、LVLに参加して印象深かったことについてもお聞きしました。

「参加したのはちょうどゲストハウスの運営を担うことになったタイミングです。そのための情報収集や人との出会いを期待して参加しました。たがやすとしての軸をあらためて言語化して、事業の棚卸しをしたいという思いもありました。

行政とのつきあい方など、細かいアドバイスを教えてもらえたのはもちろんですが、重要度は高いけど手をつけられずにいた組織の基盤づくりについて、たがやすのメンバーで議論する機会をつくるきっかけになったのはありがたかったです。まだまだやることはたくさんありますが、次に向けてのステップが見えました」

また、LVLでのテーマゼミの仲間との交流にも背中を押されたと言います。

「すごくピュアに地元のことを思って活動されている様子や、自分の弱さと向き合う姿に触れて、心臓を素手でつかまれたような感覚がありました。エネルギーをもらったというか、誰かの人生にとって大事な瞬間を共にできたような、貴重な時間でした。何かが変わったというわけではないかもしれませんが、印象に残っています」

LVLデモデイの最後に、所属していた「人とコトをつないで、地域をプロデュース」がテーマのゼミメンバーと撮った一枚(前列左から2番目が山田さん)

やりたいことは変わってもいい。地域での活動は試行錯誤の連続

LVLに参加したことで、たがやすの事業の輪郭が明確になってきたという山田さん。各地で地域に根ざした活動をしている方に向けて、こんなエールをいただきました。

「LVLへの参加は、本当にやりたいことや続けたいことは何なのかを問われる時間になると思います。やりたいことがガラッと変わる人もいるかもしれませんが、変わることを応援してくれる仲間たちがたくさんいました。

地域で最初に『これやります!』と言っていたことが変わってしまうと、『そんなに方向転換したの?』と思われることもありますが、その人の奥にある軸は変わっていないこともよくあると思います。表面的なところよりも、自分がなぜそれをするのかという問いに向き合いながら、考えながら、一緒に試行錯誤していきましょう」

最後にあらためて、今後取り組んでみたいことについても伺いました。

「多様なバックグラウンドをもつ人が応援し合える関係性や場を、これからもつくっていきたいです。子どもたちや学生さんは地域にとって大きな存在だと感じているので、若い世代ともこれから関わっていけたらいいなと思っています」

錦江町での山田さん(左)

山田さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3月から4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

>> ローカルベンチャーラボ公式サイト

>> ローカルベンチャーラボ X(旧Twitter)

>> ローカルベンチャーラボ Facebook

>>ローカルベンチャーラボInstagram

この記事を書いた人
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宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。
その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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