
地方ではまだ珍しかった「実践型インターンシップ」の事業を通じ、これまでに18,000人以上の学生が地域の魅力的な企業とともに挑戦してきました。インターンシップに参加した当時大学生だった彼らの多くが、今では社会人として各地で活躍しています。
今回は2018年に実践型インターンシップに参加し、現在は能登半島の先端・珠洲市(すずし)で事業を展開している畠山陸さんと、当時の受け入れ企業の社長、そしてコーディネーターのお三方をお迎えし、お話を伺いました。
・実践型インターンシップが学生のキャリアや人生に与えた影響
・実践型インターンシップ参加後、社会人として活躍する今、どのような未来を描いているのか
・インターンシップを通して地域や企業がどのように変化したのか
など、年月が経ったからこそ見えてくる実践型インターンシップに参加した学生の「未来の姿」を紐解いていきます。
“海外”をキーワードに飛び込んだら、コーディネーターと受入企業に出会う
畠山 : 両親には「大学入ったら自由にしていい」と言われていました。ただ、どう自由にしていいか分からず、そんな時に浜中さんが企画するイベントに参加したのがインターンシップと出会ったきっかけです。
瀬沼 : イベントで色々あった選択肢から浜中さんの経営する「フルコミッション」を選んだ理由は覚えてますか?
畠山 : シェアハウス事業もやられてて、それが面白そうだなと思ったんですよね。あと当時ずっと「海外」「海外」と言ってたので、それを浜中さんに相談したときに、シェアハウスに近い概念の“ゲストハウス”かつ海外という部分で、提案してくださったのが最初です。
浜中 : 畠山くんは高校生のときにベトナムとか行ってたんですよね。だから、海外の人が泊まることが多いゲストハウスを紹介した記憶があります。
畠山 : 当時はゲストハウスって、東京でやっと流行が来てるかもぐらいの感じだったので、札幌では全く知られてなくて。でも存在を知ってからはお客さんとの近さや働き方の自由度が、未熟な僕にとっては全部新鮮で、それが楽しくてひたすら働きながらお客さんと仲良くなって、家に帰らず泊まってというように過ごしていました。
瀬沼 : 山崎社長は当時の畠山くんの印象を覚えていますか?
山崎 : 何でもやろうというめちゃくちゃ前向きな若者でしたので、そういう学生を受け入れることって社内活性の意味でもすごい良かったなと。今でもインターンを受け続けてるんですけど、畠山くんを含めて初期メンバーたちのいい影響があったという記憶ですね。

株式会社FULLCOMMISSION 代表取締役 山崎 明信さん
コーディネーターと連携して、札幌から始まりアジアまで展開したインターンシップ
山崎 : 当時はインターンをどうやって募集すればいいのか、何を任せればいいのか、どういうフォローすればいいのかも分かりませんでした。小さい会社でしたので、受け入れてもどうしようとためらっていましたが、浜中さんがフォローしていただく形なら受け入れてみようかなとスタートしました。
瀬沼 : 札幌のオープンしたてのゲストハウスでは、具体的にどんなことをやっていましたか?
畠山 : お客さんと仲良くなって、いかに気持ちよくさせるか、にハマっていました(笑)
業務スキルよりも英語が喋れるかよりも、マインドが合うかどうか
瀬沼 : ベトナムでの展開に挑戦する第2期生としての枠は、何人かのエントリー者からプレゼンで勝ち取ったそうですが、自社にとってフィットする提案をしてくれた学生を選んだとなると、しっかり選考している印象を受けました。浜中さん・山崎社長として選考プロセスをどう位置づけていましたか?
山崎 : ミスマッチだったなって思うことも、これまで何回かありました。我々が選考するだけではなく学生にとっても意味のある時間にするためには、しっかり見極めなきゃいけないなと思っています。
ポイントは、学生にもサポートが充実してないと厳しい人と、何でも任せてくれっていうタイプの人のうち、我々がやっているインターンは何でも任せてくれというタイプの人があっているなと。海外で1人で育っていける人を採用しているので、そこに耐えうるかどうか。スキルよりも英語が喋れるかよりも、マインドがあるかどうかを見させてもらっています。
浜中 : エントリーしてきた他の学生たちは「インターンがしたいです」っていう人が多かった中で、畠山くんは「もう立ち上げたいんです」っていうことを強くプレゼンしてくれたんです。
畠山 : 野に放つスタイルはかなり苦労しましたが、結果的に合ってたなと思っています。正直、当時は辛かったんですけど、社会に出る前に経験させていただいたので、当たり前のように視座の高さというか、経営者目線というとおこがましいですけど、それぐらいの目線で考えられるようになりました。
瀬沼 : そこまで学生に任せるのは本当に勇気がいると思うのですが、山崎社長としてはどういう心持ちで送り出してらっしゃいましたか?
山崎 : 「失敗したらしょうがない」みたいな感じでした。僕らにとってもアジアでは初めてで、駄目もとだっていうとこがベースでした。そこに社員が張り付いてやるかどうかと、畠山くんがやるっていうのは、結論は大差ないんじゃないかって。何かやってみたいっていう「熱量」を優先しました。
インターンシップから今の仕事へと繋がる“文脈”
瀬沼 : 当時の経験が今の自分の仕事だったり考え方だったり、人生にどう影響していますか?
畠山 : クライアントと仕事をさせてもらうときには、裁量権があって内部に入っていける働き方でないと納得できないですし、自分で自分を作らなきゃいけないっていうことを学ばせてもらう機会をいただいたなって。めちゃくちゃ活きてますね。
浜中 : いろんな事業モデルがある中で、不動産を使ってるのは感慨深いなと思って見ていました。
畠山 : なんとなく宿泊業というか、何か世界観を作るというところにおいて、人が介在する部分に仕事の魅力を感じてるんじゃないかなと、無意識化で刷り込まれてるものがあるかもしれないですね。
瀬沼 : ベトナムでの時間は、仕事や人生に根本を作っている出来事だったのかなと思います。
畠山 : すごい転機ですよね。物件の見方も知らないですし、事業計画の作り方を全く知らない中で飛ばされて、2000万の提案をできる権利を持った状態で1人で海外でなんていうのは、今でもなかなか無いですし。
浜中 : 今の畠山くんがやってる事業とか、取り組み方も、なんかすごく畠山くんらしいなと思って。見ていて、これまでの文脈があるなと思って嬉しいです。

畠山さんの運営する里山里海の宿「hotel notonowa」の 1Fにある、ゆっくりとした時間と交流を楽しめる文化喫茶「惚惚 horebore」
受入企業とコーディネーターの視点から見る合同会社惚惚の事業
瀬沼 : 山崎社長から見て、今の畠山くんの取り組みはどう映ってらっしゃるんですか?
山崎 : うちの会社では、卒業してチャレンジしていく人がどんどん増えていくことを目指してるんですよね。そういう意味で、インターンを経て起業しているってことはすごく嬉しいです。畠山くんと今後何か一緒に仕事できるかもしれないとなると、僕にとっても必ずプラスになっていくので、インターンが仕事と繋がってていいなと思います。
瀬沼 : 畠山くんは外から見ていて、すごく自然体で「惚惚」という事業をやっているなと思っています。自分の「文脈」と合ってるっていうのが、それだけでもいろんな人に与える影響が大きいんじゃないかなと。
浜中 : たぶん当時の大変さと今の大変さって、また全然違う質のものがあって、当時は結構ロジカルな大変さ、今は何かロジカルに解決できないところに取り組んでるなと思うんです。
畠山 : 地域に寄り添いながらも、必ずしも全て足並みを揃える必要はないと思いますし、プレイヤーが少ないので、何をやってもチャンスかなって感じています。こんな状況を楽しむっていう精神は、まさにベトナム行かせてもらったことがすごく活きてると思うし、可能性はまだ全然あるかなっていうのは思ってます。

珠洲市のお祭りにも参加(左が畠山さん)
インターン生から受入企業になって分かったこと
質問者 : 2024年の夏に惚惚で実践型インターンシップを受け入れたそうですが、インターン生から受け入れる側に立場が変わって、感じたことはありますか?
畠山 : 今回初めてだったので、学生たちの裁量に任せてみようって思ったんですが、合う人と合わない人がいて、お互いにとって最も快適で、しかも成果が出る形をどうやって作れるかはすごく考えさせられました。もう1つ、これは反省点でもありますが、「学生にとって経営者は接しにくい」という大前提を履き違えていたので、距離の詰め方は考え直したいなと思っています。
一方で学生たちに対しては、僕ぐらいの人なんて全然ざらにいるので、経営者だからといってあんまり怖気づかず、距離を詰めてもらいたいなと。僕も最初は、自分の成長とか経験に重きを置いていましたが、お世話になる方々が増えれば増えるほど、ちゃんとこの事業を成功させたい! と取り組み方が変わっていったので。
浜中 : 僕はもうめっちゃ感慨深いと思って見ています。畠山くんがインターン生を受け入れてるのを、畠山くんが思う3倍ぐらいは見てます。
畠山 : 今すぐ何か得るものがなくても、こうやって10年後に山崎さんと話ができるような感じで、僕も過去のインターン生とまた接することができたらいいなって思います。

大学教育とインターンシップの関係性──学生の選択肢を増やすために
質問者 : 大学での学びとインターンでの学びの相乗効果が起きる事例はあるのでしょうか? 大学で学ぶよりもインターンシップに取り組んだ方がいいのか、浜中さんはどんな風に感じられてますか。
浜中 : 小樽商科大学(おたるしょうかだいがく)とコミュニケーションを取るとき、「畠山くんは大学の枠組みから、こぼれる人」という話を出します。それは畠山くんが悪いとかではなく、「大学のカリキュラムとして、あのような指向性がある人を受け止めきれないときに、エンブリッジのようなコーディネート団体が地域にあると、もしかしたら辞めずに済んだかもしれないから連携しましょう」という意味です。
大学のカリキュラムに収まらない学生が大学を辞めなくてもいい社会は作れると思って取り組んでいます。大学教育とインターンシップの関連はあります。
ただ、ベトナムに行って1人で事業を立ち上げてくるというようなインターンシップは、大学の先生には理解が難しいと思うので、お互いをより知り合うことができるといい。インターンシップだけやればいいというわけではないんですよね。畠山くんももしかしたら再入学するかもしれないですし。
畠山 : 大学にはもう一回行きたいですね。勉強のスタイルと内容が、“あのタイミング”では合わなかったので辞めてしまいましたが、勉強は自分でずっと続けてきましたし、今でも、もし没頭する時間と余力があるなら、もう一回大学に入り直したいと思うぐらいです。
将来のインターン生へのメッセージ
浜中 : 災害の多い日本では、畠山くんみたいなチャレンジがきっと見直される時期が来るんじゃないかなと思います。これから形になってくるのもあれば、痛みを伴うものも出てくるはずですが、そのプロセスも今後語られていくでしょう。もし僕らでやれることがあれば、巻き込んでもらえるといいかなって思ってます。
山崎 : 海外でプロジェクトを立ち上げる経験をして、人間が変わったように自信に満ち溢れて帰ってくる学生を、畠山くんを含めて何人も見ています。あの経験があれば、今後何があっても大丈夫だという自信を持てると、それぞれの新しいチャレンジで一歩を踏み出す障壁が下がるんじゃないでしょうか。何かやりたいという方は、海外インターンに限らず、どんどんチャレンジしてほしいと思います。
畠山 : インターンシップで成長するには、何も知らない中で何かさせてもらうので、ある程度は企業側の余力がないといけないと思うんですよね。自分自身もやりたいことがあって、それが会社の方向性と合致して、インターンという形で会社の中でやらせてもらえるのはなかなか無い機会ですし、辛い経験は早いうちにできた方が良いので、ぜひ実践型インターンシップに挑戦してほしいです。
山崎さん(受入企業の代表)とか浜中さん(コーディネーター)のように、サポートしてくださる大人はたくさんいらっしゃいます。僕も二人がいてくれたおかげで活動ができました。今でも思い出すとそれを励みに頑張れるので、感謝し合える仲間って言うとおこがましいんですが、今後もお二人を頼りにさせてもらえたらと思います。
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