
NPOなどによる「居場所づくり」と、町内会などによる「地域づくり」。この2つは似ているようでいて、一般的には長い間あまり交わってこなかった活動だと考えられています。少子高齢化により町内会などの担い手不足もみられる今、「居場所づくり」の担い手と「地域づくり」の担い手が距離を縮めていくことが、持続可能な地域づくりのヒントになるかもしれません。
「困っている人たちのための福祉活動」として受け止められることの多い居場所づくりと、「地域の課題解決や地域の活力を高めることを目指す」地域づくりの関係性について、実践者が目線を合わせて考えていこうと、オンラインでの連続セミナー(全7回)が開催されました。
「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」(実行委員会 : 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ、NPO法人エティック)と題された本セミナーの第4回では、これまでの登壇者が一堂に介し、居場所づくりと地域づくりの可能性や課題について議論しました。本記事では、その内容を抜粋してご紹介します。

※イベントは、2023年4月に開催されました。本記事は当時の内容をもとに編集しています。
湯浅 : モデレーターの湯浅です。これまでのセミナーでもお話ししてきましたが、私はもともと1990年代頃からホームレスの人たちの居場所づくりに取り組んでいました。2001年に居場所を開設したとき、「せっかくこの地域からホームレスを追い出したのに、こんなことをやってもらっちゃ困る」と自治会長さんが飛んできてお叱りを受けたことが印象深く、かつては居場所づくりと地域づくりは緊張関係にあると受け止めていました。
ですがここ10年程で、地域の力が急速に弱まってきているのを感じます。無縁社会や孤立というものが地域の中でも目に見えて感じられるようになり、かつての緊張・対立関係は薄れているのではないでしょうか。家庭、学校、町内会、自治会、ボランティアやNPO……さまざまなセクターが立場を超えて、同じ地域の一員として共に居場所をつくっていく時代に変わってきているんです。
そんな中で、今日は全国各地、さまざまな分野で居場所づくりに取り組んでいるみなさんに集まっていただきました。それぞれが見えているものについて意見交換できたらと考えています。
「居場所づくり」と「地域づくり」は対立するのか? 共存関係か?
湯浅 : 今日は第1回から第3回までのパネリストが一堂に会しているということで、我々の方で4つ程トピックを用意しました。1つ目のトピックは、「居場所づくりと地域づくりの関係性について、世代・テーマによるギャップはあるのか?」という問いです。
先述の通り、地域づくりと居場所づくりは共存できないという感覚が出発点にあるのですが、これまでのセミナーを通して、意外とそうでもないと思える面も見えてきました。世代や取り組んでいる領域によって、両者のとらえ方は違うのではないかという仮説ですが、みなさまいかがでしょうか?

認定NPO法人こまちぷらすの公式サイト
森 : 認定NPO法人こまちぷらす理事長の森です。私たちは「子育てをまちでプラスに」を合言葉に、子育てが「まちの力」で豊かになる社会を目指して活動しています。私にとってはこの問い自体がすごく新鮮で、これまではあまり共存できないものと考えたことがないですね。
目的は違えど共存していく方法を探るのが地域づくりだとすると、居場所づくりはそのための土台になる。他者の考え方を受け止められるようになるための大事な装置の一つだと思うんです。なので、居場所づくりと地域づくりは切っても切り離せないなと思ってきました。
傷ついている状態や弱っている状態だと自分のことでいっぱいいっぱいなんだけど、人とつながって安心できる場があれば、回復して他者を受け止める余裕が出てきますよね。そういう人たちが増えていくと、結果的にいろいろな人が共存しやすい地域になっていくので、居場所づくりは地域づくりの手段でもあるという考えでした。
そもそも「こまちぷらす」自体を、いろいろな居場所が増えていくことがいい地域づくりにつながるという発想で立ち上げています。
湯浅 : 「それぞれが見えているのは360度のうち5度くらいだけど、いろいろな人と関わることで10度、15度と視野が広がっていくのが居場所だ」、というお話を以前もされてましたね。他の方はいかがですか?

認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸の公式サイト
飛田 : 認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸の飛田です。民設民営の中間支援団体として、神戸市内で居場所づくりの推進などに携わっています。私はこの問いを聞いた時に、「地縁型の団体(地域内のつながりを基盤に活動)」と「テーマ型の団体(子育てや環境など特定の分野で活動)」の関係性が一番に思い浮かびました。
神戸ではもともと地元の団体が強いところに、阪神淡路大震災以降、居場所づくりも含めた多様な組織が立ち上がってきたんですけど、やはりうまくいかないこともいろいろあって……
それがここ最近は、湯浅さんもおっしゃった通り、地縁型の団体で高齢化が進んで自治会が解散するなど、地域の基盤が弱くなってきているんです。そこでようやくテーマ型の団体との融合が始まりつつあります。とはいえ居場所づくりと地域づくりはイコールというわけではないし、そう簡単ではないなというのが私の実感です。
湯浅 : テーマ型の活動はNPOが中心で、地域づくり系の活動は自治会や町内会のような地縁のある方が担っていて、共通言語が違うというか、緊張関係があるというのは私も同意です。森さんは逆にこういった感覚はないということなんですね。
森 : テーマ型と地縁型という組織タイプの違いはあれど、それぞれの考えの下にさまざまな居場所がつくられていることがいい状態だと思っています。両者が融合したり協働したりしなくても、住民それぞれが自分に合った居場所を選んで参加できる状態であれば、それがいい地域なんじゃないかなという感覚です。
軋轢を防ぐには、やっぱり挨拶が大事? お互いの組織風土の違いを乗り越えていくために
飛田 : 確かにそれができれば理想ですよね。一方で、新しく居場所づくりをしようとする人が、地域のキーパーソンに挨拶をしそびれたとかで事業が遠回りしてしまったという話も耳にしますし、もっとお互いがお互いの目線を理解できるようになれたらと感じます。地域性もあると思いますが、組織の性格的な違いをどう乗り越えていくかはやはり課題です。

株式会社CNCのサイト
中澤 : 島根県雲南市(うんなんし)を拠点に活動しています、Community Nurse Company株式会社(現:株式会社CNC)の中澤です。「総じて」地域づくりなんでしょうね。それぞれ強みやできることも違いますし、行政はMust(やるべきこと)を重視する、NPOはWill(意思)を重視するというように、重視する面も違うので、両方欠けないことが地域にとっては大切だと思います。
私たちの団体ではWillやCan(できること)を重視していて、小さな声を拾って民主的に、オープンマインドに活動できることが強みです。一方でまちづくりとしては、連携や地域のみんなで一緒にやるということを求められます。ただそこに寄せすぎてしまうと、地域という枠に入っていけない人たちもいるので、そこをうまくつなげていけるよう意識しています。

NPO法人ユアフィールドつくばの公式サイト
伊藤 : NPO法人つくばアグリチャレンジ(現:NPO法人ユアフィールドつくば)の伊藤です。僕は茨城県つくば市で、障害のある方との農業や、グループホームの運営に取り組んでいます。地主さんに農地をお借りしているので、地域との関わりは必須なのですが、比較的若い方が多いエリアとそうでないエリアでは、自治会の運営のされ方や消防団のあり方など、雰囲気もかなり違います。地域差もありますが、世代による違いは大きいと感じます。
2009年頃に最初の拠点を立ち上げたんですが、その地区の自治会のメンバーや運営のされ方は当時とあまり変わっていません。僕自身の経験から言えば、やはり立ち上げ期の地域の方への挨拶は大切だと思います。そこの入り方を間違えてしまうと、起きなくてもいい問題が起きてしまうというのは想像がつきますね(笑)。大学生時代からこの活動をやっていて、それが当たり前という感覚なので、こういった作法を面倒だと感じたことはないです。
仲間か競合か? 同じ領域で活動する他団体との関係性を考える
平岩 : NPO法人放課後NPOアフタースクールの平岩です。子ども関係の団体は、やはりそれぞれ主義主張があるところが多いですし、各団体の設備によってできることも変わってきます。「こうすべきだ」という意見が出やすい領域ですし、組織外の人から「こういうところがよくない」という風に言われて嫌な思いをした経験がある方もいらっしゃると思います。ただ先ほど森さんがおっしゃっていたように、子どもにとって選択肢がある状態だと考えれば、それはそれでいいことなのではないでしょうか。

NPO法人放課後NPOアフタースクールの公式サイト
湯浅 : 平岩さんのご意見は、「同じ地域における居場所同士の軋轢が、地域づくりに与える影響は良い? 悪い?」という2つ目の問いにも関係しているように思います。全ての団体が仲がいいわけではない中で、みなさんが地域のステークホルダーの関係性をどのように描いているのか、次のセッションで詳しく聞いていきたいと思います。
『「居場所づくりは地域づくり」〜地域と居場所の新しい関係性を目指して〜』に関する他の記事は、こちらのリンクからお読みいただけます。

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