
社会課題解決のため、「社会性×事業性」の両立に向けた試行錯誤を重ねていく。そんな社会起業家(NPO・ソーシャルスタートアップ)から学ぶ場が、2026年3月17日、都内で開かれました。「2025年度 社会起業塾イニシアティブ DEMO DAY」(主催:NPO法人ETIC.)です。
今回、8つのテーマをもとに行われた分科会から、「孤独・孤立」をテーマに、4人の社会起業家が展開する事業の現在地と、参加者を交えた対話をお伝えします。
<テーマ>
「孤独・孤立」
なぜ人は孤立するのか?〜つながりを“取り戻す”ために、社会は何を変えられるのか〜
<登壇団体>
・Relight株式会社
・一般社団法人マイノリティ研究所
・株式会社祭
・NPO法人OIKOS
<モデレーター>
大竹礼奈 ETIC. ソーシャルイノベーション事業部 コーディネーター
※文中は敬称略
「見えづらい」ホームレス状態の人たちに仕事と住宅のおせっかいを──市川加奈さん(Relight株式会社)

市川 加奈(いちかわ かな)さん
Relight株式会社 代表/NPO法人Relight 理事長
<事業内容>
「見えない」ホームレス問題などの社会課題に対して、何度でもやり直せる社会のための事業・プロジェクトを、株式会社とNPO法人の両輪で展開。転職・就職支援、家を借りられない方向けの物件提供(サブリース事業)などを行う。
市川:私たちは、見えづらいホームレス状態の方向けの仕事と住宅の支援事業を行っています。仕事については、20代から30代を中心に約50名の方に長期的な支援を行い、住宅関連では70代や80代の利用者も多く、支援内容は多岐にわたっています。
現在、社会では、柔軟に働ける仕事が増え、住まいもネットカフェやホテルなど宿泊しやすい場所が広がったと感じます。しかし、その分、安定しない生活の中で、人とつながりにくく、周囲から認識されにくい人が多くなっていることが課題になっています。
支援対象の皆さんには、「悩みなく生きてほしい」という思いでいます。また、社会とのつながりを取り戻すために、おせっかいの気持ちがもしかしたら良い結果につながるのではないかと思いながら、社会の仕組みに取り入れられるように活動しています。
障がいのある方が悩みを話しやすい職場環境をつくりたい──西岡春菜さん(一般社団法人マイノリティ研究所)

西岡 春菜(にしおか はるな)さん
一般社団法人マイノリティ研究所 代表理事
<事業内容>
障がい者雇用支援プログラムを開発・運営。障がい当事者向けの支援と健常者社員・経営者の双方にピア・サポート支援を提供している。
西岡:私は、5年前、大学1年生のときに、障がいのある青年を対象にした自助グループを立ち上げました。障がいのある方同士、同じ悩みを話しやすいのではないかと考えたのです。以来、同じ立場の仲間同士が支え合うピア・サポートがどんな好影響を与えるか、実証を続けてきました。その経験が、障がい者雇用支援プログラムの開発につながっています。
現在、企業の障がい者雇用に関して、なかなか定着率の向上がみられないことが課題としてあります。要因には、雇用実績や知見が少ないことが挙げられ、自社のみでの支援の限界を訴える声も聞かれます。
そこで、私たちは、ピア・サポートを活用した、「障がい者の方が悩みを話しやすい」環境づくりの取り組みを2024年より推進。現時点で、企業側からは、「精神障がいの方がピア・サポーターの方に自分の困りごとを話してくれた」といった声をいただいています。これからも、当事者、企業、双方にとって、働きづらさや生きづらさを解消する仕組みをつくっていきたいです。
人の温度を感じるSNSでお互いの役に立つ──清水舞子さん(株式会社祭)

清水 舞子(しみず まいこ)さん
株式会社祭 代表取締役(写真右)
<事業内容>
うつ病や孤独・孤立への予防的介入を目的にした、無料のSNSアプリケーション「いつでもおかえり」を開発・運営。招待制のオフラインコミュニティとあわせて、優しさと共感が循環する環境づくりに取り組む。
清水:私たちは、人の温度を感じながら励まされるオンラインの場所をSNSでつくりました。「いつでもおかえり」です。サービス開始から2年、利用者数は10万人。コミュニケーションの中心はスタンプで、例えば、私が「今日は仕事でうまくいかなかった」とつぶやくと、周りの人たちが「お疲れさま」「頑張ってるよ」と励ましのスタンプを送ってくれます。
特長的といえるのが、励ましてもらった側が、状況に合わせて励ます側となり、相手の役に立てることです。また、炎上や批判が起きない仕組みもつくることで空間の安全性を守り、ゆるやかなつながりの継続性を高めています。目指すのは、地域社会の橋渡し役、また、心のインフラとして機能すること。現在、子育ての困りごとのつながり先として機能を提供する、自治体との連携も推進しています。2030年までに、台湾や香港など海外でも挑戦したいです。
大学生×子どもの可能性をこども食堂から──古川陽登さん(NPO法人OIKOS)

古川 陽登(ふるかわ はると)さん
NPO法人OIKOS 創業者
<事業内容>
大学の食堂や空き教室を活用してこども食堂を設ける、大学×こども食堂プロジェクトを運営。大学生が中心となって、地域と連携し、子どもにとって安心できる居場所を提供する。
古川:大学生がつくる、ユーススポット(主な対象:10代から30代の若者)を全国に広げる活動をしています。約1年半前、大学生だけで東京・荒川区にこども食堂をつくり、運営も分担しました。当時、子どもが好きでなんとなく社会貢献がしたくて活動を始め、子どもたちにご飯を食べてもらいながら、勉強を教えたり、一緒に遊んだりしました。
ただ、小学生の対応だけで限界を感じてしまって、それからこども食堂の課題に目が向くようになり、若者中心の子どものための居場所づくり、つまり大学生が作るユーススポットを始めました。
土日は、大学の教室や食堂が空いていることが多く、大学生もたくさんいます。遊びたいのに親が忙しい家庭などの、居場所を求める子どもたちが一緒に過ごし、学んだり、農業体験などをすることがおもしろいなと思っています。現在、都内の5大学から300人の学生ボランティアが参加し、延べ500人の子どもたちが遊びにきてくれています。
大学生だからこそ話せると思えるような、子どもたちが地域に新しい選択肢を持てることを大事にしています。ユーススポットをきっかけに、子どもたちが明日を楽しみにしてくれる社会をつくりたいと思いながら活動しています。
「少数であること」をどうすれば活かせるか
大竹:この分科会のテーマは「孤独・孤立」ですが、登壇団体はそれぞれ事業内容をはじめ、対象も向き合う課題も異なります。普段、心がけていることや見えている希望を教えてください。
清水:オンラインだと、オフラインのような肌触りのあることが難しいと思っています。でも、夜中にとてもつらい気持ちになった人がいたとしても、すぐ誰かに連絡ができることは、どれほどその人の救いになるか、そう思えることがオンラインなら可能です。
「オンラインでできることはまだある」と、利用者さんたちから思えることに希望を感じています。
「いつでもおかえり」のコミュニケーションは、ただタップするだけなんです。それだけでも、自分はみてもらえる存在で、価値があるんだと思える。希望を感じるし、その思いが阻害されないような仕組みの設計づくりを頑張っています。
市川:孤独・孤立とは、人となかなかつながれない状態なのかなと思っています。その結果、Relightの対象者である生活困窮の状態になる人も多いと思うのですが、例えば、私たちが声を聞いた方たちは、「助けてほしい」というワードではなく、「今日働ける仕事がほしい」「住む場所がほしい」というニーズを教えてくれました。
困っている状態の人たちにこちらからどうつながり、その人に合ったサービスを提供し、孤独・孤立を解決していくか、日々考えながら活動しています。結果的に、「生きていたら自然と解決策とつながっていた」と思える状態を目指しています。
西岡:「社会のレールに乗る」という言葉がありますが、生まれた頃からそのレールに乗れない人は一定数いるのかなと思っています。どうしても日本社会では、みんなと同じであること、均一化であることが求められるなと思っていて、普通じゃないとか、社会のレールから外れてしまったというときに、「みんなと一緒じゃない」孤立感、孤独感を覚えてしまう。
これは障がいに限らず、マイノリティといわれる背景も関係すると思いますが、少数派になるとどうしても孤独だなと感じるのです。マイノリティがどうすれば幸せを感じられるか、障がいや生きづらさをどうすればいい方向に活かせるかを探究したいと思っています。
古川:いつも「隙間を埋めること」を意識しています。誰かがしんどい思いをしているとき、やかましい存在も必要だし、自分から声をかけたらいつでも受け応えてくれる存在、親のように変わり得ない存在など、いろいろな存在が必要だなと思っています。
地域の課題、今の社会に足りていないものは何だろうと考えたとき、僕は、子どもたちに限定せず、少し年上の、しかも専門職ではない、対等に関われる、役職がないけれど何か役割がある人くらいの存在なのかなと思って活動しています。
現在は、大学生のみでこども食堂を運営していますが、5年後10年後くらいにすごく大きな価値が発揮できるんじゃないかとも思っています。今は大学生の彼らが社会的に活躍できる立場になったとき、寄付する、法人を設立するなど、僕たちの活動がそうなり得る機会になることも大事にしています。
「自分たちの在り方を体現しやすい」株式会社とNPOの両立
――Relightさんは、株式会社とNPO法人、両方を経営していますが、それぞれ強みを感じることはありますか?
市川:株式会社は2019年、NPOは2025年に設立しました。NPO設立のきっかけは、経済合理性がとても難しい課題を、限られた資金の中でどう解決していくか、アプローチできる層とできない層があるなど、株式会社での限界を感じたことがあります。とはいえ相談に来てくれた人を「できない」と断るのは苦しいし、「たらいまわしにされた」失敗体験をつくりたくない。
今後、事業成長を視野に入れた際、対象者の層が増えていくことが予想され、「NPOをもつと可能性が広がるかもしれない」との考えに至りました。
一方の株式会社では、融資や賃貸審査時などでの社会的な信頼、企業連携のしやすさなどが強みで、株式会社とNPOの両方があったほうが自分たちの在り方を体現できるかなと思っています。
――OIKOSさんはNPOという選択をされています。NPOならではの良さは感じますか?
古川:良い社会を実現したい、課題を解決したいという共通の思いをもった人全員が同じ方向を向けることはすごく幸せだし、うれしいし、楽しいことだなと思っています。「手伝うよ」みたいに声をかけてもらえるときも、いい社会だなと思えます。
参加者からの質問「社会課題解決と事業性の両立は?」
参加者:社会課題解決と事業性の両立については、どんなビジョンを持たれていますか?企業との連携についても何か考えはありますか?
古川:2024年に本格展開を始めたばかりですが、NPOを選んだ以上、受益者への価値提供をしっかりしたいです。僕たちの事業では、まずは子どもたちの居場所を質の高いものにする、そこが大事なのかなと考えています。
企業との連携については、現在、検討中です。例えば、地域の飲食店などを対象に、飲食を提供してくれる、食育の授業をしてくれるといった参画での連携を考えています。我々の強みは、大学生が何百人も関わってくれることです。これから最大限に活かしたい。
共通点は、「隣の人を思えるかどうか」を起点にした支援
――登壇団体の皆さんから、企業の方に対して質問はありますか?または何か感じることがあればお話ください。
西岡:マイノリティ研究所では、障がい者雇用に特化して、「障がい者の方の孤独」と言っていますが、健常者の社員の方の孤独というのはあるのかなとも思っています。もし健常者の方でも、自分と同じような悩みを共有できる機会や支援があれば関心を持ってもらえるのでしょうか。
参加者:人間は、おぎゃあと生まれたときから孤独な状態と近くにあると思いますが、障がいなどの要因で孤立の状況に陥ってしまうこともあると思います。または外発的な要因で孤独・孤立に陥ってしまうかもしれない。ただ、市川さんが言っていた、「おせっかいで孤独・孤立が防げるんじゃないか」という話が気になります。
参加者:孤独・孤立って、自分の隣の人や近くの人を思えるかどうか、逆に、隣の人が自分と関わってくれる人だと思えるかどうかが、根源にあるように思っています。「会社に勤めている人も孤独を感じることがあるのだろうか」というお話についても、例えば、自分自身が誰かの相談にのっているときも、隣にいる人を思えるかどうか、は大きく関係するのかなと思います。
各団体のみなさんは、いろいろな事業、事業の方法があるけれど、人と関わる姿勢を起点にして、さまざまな人との関係をみながら、適切に活動されているのかなと思いました。
参加者:孤独は、みんなうっすらと持っているもののような気がします。全く孤独・孤立がない人は逆に少ないのではないかと思うし、本人の捉え方によっても異なりそうな気がします。
参加者:おせっかいがあれば、何かはできるんじゃないかなと思います。誰しも何かしら失敗を経て、自分がもうだめかもしれないと思ったときに気にかけてくれる人がいたら、「頑張ろう」と立ち上がれるかどうかではないでしょうか。心の中にそういう存在がいればいいのかな。もしいない人には、支援づくりを通して、どうすればつくれるかなと考え、形にしていけたらいいのかなと思います。
――孤独・孤立は、なくすためというよりは、誰もが抱えているけれども、それをふまえて一人ひとりがどう満足に生きていけることなのかなと思いました。いろいろなアプローチがあって、セクターとの関わり方もさまざまですが、この機会をきっかけに、一緒に考えたり、次につながったりする関係性のスタートになればうれしいです。ありがとうございました。

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