社会・公共

「話を聞く場」から「一緒に考える場」へ。ブレストの熱狂が生んだ変化【WISE GOVERNMENT サミット 2025イベントレポート(後編)】

行政や民間といった立場の違いを越え、新しい地域ガバナンスの形を生み出していく。

そんな思いのもと、山梨県が中心となって提案しているのが「WISE GOVERNMENT」構想です。

その実践の場として、2025年11月28日に「WISE GOVERNMENT サミット 2025」が開催されました。本イベントのコンセプトは、「評論家不在、実践者が集う『作戦会議』」。現場で課題に向き合う当事者たちが集い、次の一手を考えるための対話の場です。

イベント前半では、セクターや地域を越えて課題解決に挑む実践者が、それぞれの取り組みを語りました。

そして後半は、課題別グループセッションです。事前に募集した「課題オーナー」によるプレゼンテーションを聞いた後、グループに分かれてセッションを実施。課題オーナーと参加者全員で、「次の一歩」を考えていきます。

本記事では、イベント後半の内容をダイジェストでお届けします。

>> 前編はこちらからご覧いただけます

その場の熱狂を生み出すのは、「参加者自身」

課題別グループセッションに先がけ、NPO法人ETIC.(以下、エティック)の北川が登場。アイデアを出し合う際のグランドルールを共有しました。

「大切なのは、正解よりも一人ひとりの『問い』です。その問いに対して、皆さんでアイデアを出し合い、応援しあう。その体験こそが、この時間の目的です」

そう語ったうえで提示したポイントは、次の3つです。

1つ目は、「ぶっ飛びアイデアOK」。実現性はいったん脇に置き、思い切った発想を歓迎することで、場の熱量が高まり、次のアイデアが生まれやすくなります。

2つ目は、「乗っかりOK」。おもしろいアイデアが出たら、「じゃあこういうのはどうだろう」と自由に重ねていくこと。連想を広げることが、議論を前に進めます。

そして3つ目が、「笑顔」。肯定の気持ちを表情やジェスチャーで示し、「いいね」を伝えること。どんなアイデアにも「全力応援」の姿勢で向き合い、この場を一緒につくっていこう。そんなメッセージが送られました。

山梨県の事業者が持ち寄った課題とは

グループセッションには、山梨県内で事業や地域活動に取り組む5名が「課題オーナー」として登壇。それぞれが、いま抱えるリアルな課題を発表しました。

それぞれの課題が共有されると、会場の雰囲気が変わりはじめました。問いが投げ込まれたことで、「誰かの話を一方的に聞く場」から「一緒に考える場」へと切り替わったのです。

当日「課題オーナー」として発表を行った5名の皆さん。左上から時計回りに、中田めぐみさん、大澤治さん、古屋豪さん、佐藤真衣さん、荒井舞さん。

障がいの有無にかかわらず、安心して働ける職場をどうつくるか──テルモパートナーズ株式会社 中田 めぐみさん

中田:私は企業で障がいのある方を支援するジョブコーチとして働いています。私自身の弟も障がいを持っていることもあり、障がいのある方がもっと活躍できる場を増やしたいという思いで、この仕事に向き合ってきました。

一方で、企業側からは「本当に任せて大丈夫なのか」「何かあったらどうするのか」といった不安の声が多く聞かれます。周囲が障がいについて理解し、ほんの少し支え合える環境があれば、職場はもっと良くなるはずです。そのためのアイデアをぜひ教えてほしいと思い、参加しました。

学びを諦めさせない仕組みを、地域でどう届けるか──株式会社サンキョー(甲斐ゼミナール運営)常務取締役 大澤 治さん

大澤:私は山梨県内で学習塾を運営しています。県内には外国にルーツを持つ子どもが766人、不登校の児童生徒が2,255人います。私の塾にも、そうした子どもたちが多く通っているのです。

しかし、経済的な理由や周囲の目によって、学び続けることが難しくなるケースも少なくありません。不登校の子が「学び直したい」と思ったときに支えられる環境をどうつくるか。外国にルーツを持つ子どもたちへの日本語学習を、地域としてどう支援できるか。

学習塾をハブに、これらの子どもたちにサービスを届ける方法について、皆さんの知恵を借りたいと思っています。

「気合い」ではなく「仕組み」で、子育てと仕事を両立させるには──医療法人甲療会 理事 荒井 舞さん

荒井:私は医療法人で事務長を務める一方、一般社団法人で子育て中の母親を支援する活動にも携わっています。私が考えているのは、育児と仕事の両立を「気合い」ではなく、「仕組み」で支える中小企業向けの新しいモデルです。

制度があることと、安心して復帰できることは別問題です。特に中小企業では、1〜2年の欠員が現場に大きな影響を与えます。

「ママのために制度を整えてください」という伝え方ではなく、「会社の利益を守るために仕組みが必要」という視点で、どう伝えれば経営者に届くのか。その伝え方を一緒に考えたいと思っています。

寺院という「眠れる資源」を、地域の価値に変えるには──株式会社シェアウィング 代表取締役社長 佐藤 真衣さん

佐藤:私は、お寺や神社といった時間を超えて大切にされてきた場で縁を紡ぐ「お寺ステイ」という事業を展開しています。山梨県は人口一人当たりのお寺の数が全国4位と、実は寺院が非常に多い地域です。

外国人観光客だけでなく、日本人にも知られていない宿坊や寺院が数多くあります。ただ、宿坊という活用だけでは広がりに限界も感じています。山梨に眠る寺院資源を、どうすればもっと多様な形で活かせるのか。そのヒントを探りたいと考えています。

地域×企業人材で、新しい「越境共創体験」をどうつくるか──一般社団法人やまなしソーシャルイノベーションセンター 事務局長 古屋 豪さん

古屋:私は、地域課題をテーマにした「越境共創体験プログラム」を、山梨県で実践したいと考えています。異なる環境に身を置くことは、個人の成長にとって大きなきっかけになりますし、そのフィールドとして地域は非常に適しています。

地域課題と企業人材を掛け合わせることで、双方にとって価値のある取り組みが生まれるはずです。今日は、思わず参加したくなるような新しい越境共創プログラムのアイデアを、皆さんと一緒に考えたいと思います。

「属性」から「個」へ。笑顔と熱量があふれたブレスト

山梨県に多数存在するお寺の可能性について発表したシェアウィング代表の佐藤さん

課題オーナーの発表を終え、サミットの参加者たちは、それぞれが気になった課題オーナーのもとへ分かれ、グループごとにアイデア出しを始めました。手元に配られたフセンに思いついたアイデアを書き出し、次々とテーブルに貼り出していきます。

30分という短時間で、各グループから20〜50個ものアイデアが生まれました。時折、テーブルからどっと笑いが起きる場面も見られます。当日、取材のためにイベントを聴講していたライター・奥山も、2回目のセッションに飛び入り参加することに。まさに自分の肩書きを取り払い、いち参加者として熱狂の輪の中に飛び込んだ瞬間でした。

お互いの意見に耳を傾け、「いいね」と承認し合う。会場のうねりをつくっていたのは、「一人の人間」としての熱量でした。

「自分は一人じゃない」。ブレストを通じて課題オーナーが感じた変化

WISE GOVERNMENT構想をこれからどう育てていくのか。第1部で大きな問いを共有したうえで迎えた第2部では、想像以上の熱量が会場に広がりました。

その渦中にいた課題オーナーたちは、この時間をどのように受け止めたのでしょうか。

障がいのある人が安心して力を発揮できる世の中を作るためのアイデアを募集した、テルモパートナーズ中田さん

大澤:今回参加させていただいて、「学びしかなかった」と心から感じています。第1部では、それまで知らなかった視点や実践方法に多く触れることができましたし、第2部では、自分が抱えている課題に対して多くの方が関心を寄せてくれ、一緒にアイデアを出してくれました。そのこと自体がとてもうれしかったです。今はその2つの感覚が強く残っています。

中田:いつも自分がいる環境だと、「私がこう言ったら、相手はきっとこう返してくるだろうな」と、ある程度先が見えてしまう部分があります。今後の取り組みの方向性に悩むなかで、今日は本当にいろいろなアイデアをいただいて、とても心強く感じました。皆さんに「それおもしろいね」と肯定してもらい、すごく良い機会だったと思います。

新しい関係性を「メインシステム」へ接続するために

セッションの最後に、モデレーターを努めたエティックの山内は、ここまでの議論を総括し、次なるステップへの視座を提示しました。

山内: 今日は、第1部で「WISE GOVERNEMNTがなぜ必要なのか」という共通言語をつくりました。続く第2部では、実際に私たちが垣根を越え、お互いの「関わりしろ」を見いだしていくことの楽しさを実感できたと思います。

今回さまざまな事例を通じて見えてきたのは、既存の組織やルールの外側に、あえて「出島」のような新しい関係性や場をつくることの有効性です。そして、最も重要なのは、「出島」だけで満足して終わらないことです。

そこで生まれた新しい価値観や熱量を、いかにして既存の「メインシステム(行政や社会の仕組み)」に接続し、還流させていくか。ここが、WISE GOVERNEMNT構想が挑む最大のテーマであり、最も苦労するポイントでもあります。

その壁を越えるカギは、私たち一人ひとりの中にある「一人称の多様性」かもしれません。行政職員としての私、親としての私、地域住民としての私……。「私」という個人の中に多様な視点を持つことで、異なるシステムをつなぐ接着剤になれるはずです。

「肩書き」を脱いだ先に見えた、これからの可能性

最後に、このサミットを主催した山梨県庁の二人からも、率直な声が語られました。この構想を掲げ、場をつくる側にいたからこそ見えた変化があります。

風間:イベントの冒頭では、どうしても「行政職員として話している自分」が前に出ていたと思います。でも本来、こうした場では、もっとフラットに、個として意見を出し合えたらいいのだと、今日あらためて気づかされました。

たとえば最初は行政の人間だと名乗らず、議論を重ねたあとで「実は県職員だったんですね」と言われるような関係性が生まれても良い。そんな距離感こそが、「WISEらしさ」なのではないかと感じています。

山本:私自身がブレストに慣れていないので、正直どのように発言してよいか分からず堅くなっていました。でも始まると、自分の意見を受け止めてもらえる雰囲気がとても心地よく、「こういうふうに想いを話していいんだ」と気持ちの変化を感じました。このような場づくりをする立場としても非常に勉強になりました。

自分の想いを受け止めてもらう場づくりの感覚をそれぞれが持ち帰っていただき、いろんな場所でいろいろな連携につながっていくことを願っています。本日はありがとうございました。


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神奈川県在住の取材ライター・編集者。山形県出身。出版社で雑誌編集者として、IT企業でBtoBのコンテンツディレクターとして勤務したのち、フリーランスへ。ふだんは企業から町の魚屋さんまでジャンルを問わず幅広く取材。神奈川県の三浦半島地域を舞台にした副業・兼業プログラム「MIURAHUNT!」にも参画しています。

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