
和歌山県田辺市主催の関係人口創出プログラム「TANABEES」。既に都市部からの参加者が集まり、田辺市内での活動を重ねています。
本インタビューでは、田辺市で一般社団法人Gifted Creative 代表理事として、生きづらさを抱える方を支援する峯上良平さんの活動と「TANABEES」を、ご自身がどのように結びつけて考えているのかが紐解かれています。峯上さんが期待している田辺市の未来にぜひ注目してください。

峯上 良平(みねうえ りょうへい)さん
一般社団法人Gifted Creative 代表理事
友人を過労自殺で亡くした事がきっかけで人生を再生させるプラットフォームを作ることを目指す。ひきこもりや鬱克服の経験を活かし、生きづらさを抱えた人々の仲間、居場所、仕事作り活動を行う。当事者を対象としたシェアハウスを5軒運営、135名のうち社会復帰率9割。
和歌山県より農業によるメンタルヘルス回復支援事業採択。2024年5月より訪問看護による不登校、ひきこもり支援開始。その他、障がい者雇用コンサル、講演、メンタルヘルスに課題のある社員の復職支援などを行っている。
一般社団法人Gifted Creative 公式サイト
挫折から再起した田辺市で活動を始めた経緯

──峯上さんが田辺市に戻って事業をしようと思ったきっかけを教えてください。
田辺市に戻ってきたのは、帰らざるを得なかった状況になったからです。元々、都会でバリバリ働きたいという憧れがあり、大阪でシステムエンジニアとして就職しました。しかし、うつ病を発症して休職し、体調の悪化も相まって精神病院に入院するほどの状態になってしまいました。薬の副作用などもあり、体力が老人並みの状態でした。引っ越しの準備すら姉や両親にすべて頼んで、ボロボロの状態で地元の田辺に戻りました。
帰郷後、約1年間は引きこもりの状態が続きましたが、24歳頃からしぶしぶ実家の農家を手伝い始めました。農作業のおかげで、感情もなく食欲もない状態だった体や脳、精神の回復につながったと思います。ご飯が美味しいと感じたり夜寝れるようになったりと、自分の状態や生活が良い方に変化したので、農業に助けられたと感じましたね。
一方で、農業だけでは金銭的な不安が解消されませんから、地元で一度就職しようとしたんです。でも、「雇われるのはすごくしんどい」と感じました。「自分でやるしかない」と考え、趣味だった時計を商売にするべく勉強を始め、24〜25歳頃に時計の修理屋として起業しました。その後、友人が自殺したことをきっかけに、28〜29歳頃に現在の法人「Gifted Creative」を立ち上げることとなったのが経緯です。
今思うと、自分と向き合う時間がめちゃくちゃ長かったですね。その時間でいろいろなことを学びつつ分析をした結果、事業を立ち上げるに至りました。
──峯上さんはたなべ未来創造塾の9期生ですが、そこで印象に残っている気づきや学びにはどんなものがありますか?それらは今の活動にどう活かされていますか?
未来塾に入って最もよかったなと思っているのは、同期に巡り合えたことです。彼らが、どんなことを考えていて、どういうことをしたいのかに触れられて、「この地域のためにいろいろなことをやりたい人が、こんなにいるんだな」と改めて感じたことが、非常に嬉しく思いました。同時に、個々の活動が素晴らしいものばかりだから、掛け合わせるともっとすごくなる可能性を感じたんですよね。
ソーシャルビジネスは、理解されなかったり、儲からないと言われたりもします。だからこそ、社会との接点を広げながら、やり方を工夫していけたらいいと思います。たとえば、福祉だけで支援の選択肢を囲い込むのではなく、一般の事業者の方々も混ざることも、「掛け合わせ」です。掛け合わさることで、違うアイデアが出たり、今まで滞っていたことのブレイクスルーができていくと期待しています。
個性を活かしてデコボコを戦力に変える活動

──地域の挑戦で感じているいちばん大きなハードルは何ですか?そのハードルをどう乗り越えようとしていますか?
生きづらさを抱えている人と出会って支援しようにも、合う働き先がなかなかない現実があります。自社でも雇用しますが、全員を雇えるわけではありません。中小企業でそういった方々の雇用を進めているところは少ないですね。乗り越えるのが難しい課題だと痛感しています。
主な支援は、働く準備ができている人とできていない人の差を埋めることです。就労準備と自己理解を深めた状態で就職活動に臨めるサポートをします。ただし、就職できたら終わりではなく、その後に小さな勘違いやコミュニケーションエラーが起きたときに、僕が間に入り通訳したり調整したりもします。
現実をもっと知ってもらったり、実際にもっと関わってもらったりすると、「こういうやり方なら、この人はめちゃくちゃ戦力になるやん」と気づくパターンも当然あります。互いの意図を伝え合い、雇用を定着させることはとても必要な過程です。
「障がい者全体」のような広い括りで見るのではなく、「目の前の1人をどうすれば戦力として働いてもらえるのか」という点に絞って、企業側に理解してもらうことも重要だと考えています。現在の日本では、なるべくみんなと同じことができる人に向けて、教育や社会、生活が設計されていますよね。そうすると見えるのが、個性やデコボコのある人が社会に適応しにくい構造です。たとえば障がいや不登校、引きこもりのようなラベルがついている人は、社会からどうしてもはみ出しやすい。やはり、ひとりひとりと社会をしっかり繋げていく必要があるんです。
このような形で、支援する側、働く側、雇用する側の三者が、バランス良く利益を得られる「三方良し」の関係性を築くことを目標に活動しています。
「TANABEES」で共創するソーシャルビジネスの未来

──今回の「TANABEES」について、最初に話を聞いたときの印象や心境を教えてください。
すごく面白いなという印象でした。全く違う視野を持つ都会から来た人が、地域住民が当たり前すぎて気づかなかった地域の良さや喜ばれるポイントなどを、教えてくれそうだなと思いましたね。
このプロジェクトを株式会社TODAYの山田かな子さんがやっているのも、興味をひかれた理由の一つです。山田さんが行っているインターンシップの活動や、「地域の人事部」としての役割はとても重要だと感じているんですよね。山田さんは大学生、僕は生きづらさを抱えている人という違いはありますが、人と人をつなげ、本当に自分がやりたいこと、ライフワークとは何かを自分に問うきっかけを作る点は、互いの共通項だと思います。
──なぜ「TANABEES」に参画しようと思いましたか?
ソーシャルビジネスを本気でやりたい人がもっと増えてほしいからです。また、地域の子どもたちの教育機会に格差がある現実を目の当たりにして、解決したいと考えたことも理由のひとつですね。
僕自身もいろいろなプロジェクトを動かしているものの、それだけでは活動がそこで完結してしまいかねません。そこで、「TANABEES」の参加者に本気でソーシャルビジネスをやりたい人がいて、全力で応援してひとつでも実現できれば、僕にも参加者にも、地域にも、良いことだと考えました。
僕のプロジェクトには3名の参加者がいますが、やりたいことが全員違います。生きづらさを抱える当事者でありながら同じ境遇の人たちを支援したい人や、空き家を使ったアプローチで心身の健康に寄与したい人、そして、自分の人生と向き合うきっかけに端を発し、これから教育関係の事業を作りたい人。すべてを同じ方向に動かそうとすると多分破綻します。ただ、大きな枠としては皆さん、ライフワークを探したいんだと思います。
僕の人生の裏テーマは「一人一人の能力を最大限発揮させる」です。ここに参加者への応援が結びつくとどうなるのか、ワクワク感を抱いたことも参画の動機です。
地域プレイヤーとしての役割は仲間であること

──「地域プレイヤー」という役割を、自分なりにどう捉えていますか?
主に参加者の伴走役だと考えています。なるべく地域と参加者を繋げられるようにしていきたいです。プロジェクトを成功させるためには、いきなり大きな目標に進むのはよくありません。経験上、スモールステップで着実に進んでいく必要があります。段階をしっかり踏んでもらうためのサポートをしていく役目ですね。
ただ、最終的な判断や決定は参加者自身が行うべきだと思います。伴走役の僕が指示的になると、それはまたちょっと違う話。あくまでも、参加者を主軸にしっかりとやってもらいながら、めちゃくちゃ力強い仲間でありたいですね。
──今後も2月まで参加者と関わることに、どのような変化や可能性を感じていますか?
田辺地域にたくさんある空き家を活かしていく人が、どんどん増えていく可能性にかなり期待しています。都会でモヤモヤしているけれども、良い経験を持っている方々が田辺に入ってくることで、空き家に新しいアイデアが吹き込まれ、良い掛け算ができると、もっと面白い地域に変わっていくのではないでしょうか。
空き家が活用され、人が集まってくるいい循環が生まれるきっかけになり、「この地域面白いよね」という良い評判が生まれて、田辺市の人口が爆発的に増えるところまでいけば最高です。
——峯上さんのプロジェクトは、地域プレイヤーが中心というよりも参加者をメインに据えて、伴走する形ですね。最終的にどうなるのかが全然分からないから、ワクワクします。
今回の参加者が、100%田辺に帰って来るとは限らないと思いながらも、今後もつながってくれたら嬉しいですね。この地域で本当にやりたいことが見つかったら、つながり続けてくれるとも思います。少しでも「ここに来てよかった」「参加してよかった」と思ってもらえたら、十分ありがたいことです。
──「TANABEES」には、ともに進めていくコーディネーターがいます。どんなことを期待していますか?
僕のプロジェクトのコーディネーターでもある山田かな子さんにお願いしたいことは2つあります。
1つめは、ブレーキ役を担っていただきたいこと。猪突猛進な人間なので、突拍子もないアイデアを出したり、やらかしそうになったりしているときには、しっかりと手綱を握ってほしいです。
2つめは、参加者に対して山田さんの知り合いも紹介していただけたら嬉しいです。僕が紹介できる人はやはり僕の事業の特徴に偏ってしまうと思います。だから、そのほかの繋がりや、シンプルにこの地域で面白い人と、参加者が出会えるようにお手伝いしてもらいたいですね。
山田さんの、僕とは全然違う視点や意見をプレイヤーに還元してもらうことで、参加者がよりフラットに様々な経験ができます。参加者の選択肢を増やすタッグになれたらいちばん良いですね。
混ぜ込んで生まれる「人との相互作用」

──2月までの「TANABEES」の活動が上手くいったら、峯上さんや地域はどんな姿になっていると思いますか?
僕自身も手広く活動しているので、助けてもらえることや関係性が増えていると思います。たとえば、参加者が法人化するなどして、連携企業のような形で一緒に事業をやっていくのは、理想的な未来ですね。
参加者それぞれの専門性と、僕の組織にいるメンバーの労働力を分配するような協力体制が成立するんじゃないでしょうか。都会の優秀な人材に指導を受けたり、都会の優秀な人を引っ張ってきてもらったりすれば、組織のメンバーも育つでしょうし、相互作用はかなり大きいですね。
地域外からのメンバーがやりたい新しいことの中に、僕が関わっている140人のメンバーを、どううまくマッチングさせるかを考えるのが今からとても楽しみです。地域全体で、この「混ぜ込み型モデル」に変わっていく未来を期待しています。
──このプログラムに関心を持っている方々に、どんな言葉を伝えたいですか?
社会のレールから外れたり、モヤモヤしたりしている人はいます。そんな方々には、自分自身がダメだとか、能力がないみたいな風に思う必要はないと伝えたいです。
都会では埋もれてしまう経験でも、この地域ではめちゃくちゃ活かせるパターンがあります。今の環境に合わなかったのはダメなことではなく、やり方の問題なんです。自分の至らなさのせいにするのではなく、どうやったらできるかを考え続けてほしいです。
モヤモヤする感覚は、今の人生からアップデートできる良いサイン。だから、そのモヤモヤを大事にしてみませんか。「TANABEES」のようなプログラムに参加することで視野が広がり、「自分のしたいことはこういうことだったんだ」と思えるものが見つかるかもしれませんよ。
田辺地域は人が慢性的に不足しています。草刈りをするとか、話し相手になるとか、ちょっとした貢献で、感謝されたり、めちゃくちゃ喜ばれたりすることがかなり多いです。人のために行動することで得られるお金に変えられない喜びや、やっていてワクワクする感情を大切にしてほしいですね。
ご自身が活動するにあたって、同志を増やすように「TANABEES」でも挑戦する人を後押しする峯上さん。2月まで行われるプロジェクトが、どのように未来への投資に姿を変えていくのか、目が離せません。
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