ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)の代表、そしてNPO法人NPOカタリバの代表代行の二足のわらじを履く岡本拓也さん(36)。
前々回は、ユーラシア大陸放浪のさなかでマイクロファイナンスと運命的に出会った経緯を、そして前回は事業再生プロフェッショナルからソーシャル・ベンチャーのマネジメントへと転身した経緯について語っていただきました。

第3回となる今回は、前回の続きとして、転職時の裏話を紹介します。
SVP東京ファウンダーの井上英之さん(中央)と、岡本拓也さん(左)
迷って考えぬいた果てに、「好きなことをやろう」と突き抜ける
石川:(前回の続き)時間の80%以上は本業に費やしていて、給料もそこからもらっているのに、脳内の興味関心シェアの80%はカタリバやSVP東京に占有されている。それが、なんだか申し訳ない気分だったということですよね。
岡本:そうして迷って考えぬいた挙句に、ふと「好きなことをやろう」とおもったんです。昔からそうなんですけど、考えぬいて「あぁ、もういいや」となった瞬間に、はっきりと道が見えてくる。
石川:原点に戻ってきましたね。
岡本:おそらくあと10年は、コンサルティングファームにいても良かっただろうと思います。プロモーションもあるし、海外駐在もさせてもらって、10年近くなればマネージング・ディレクターの昇進レースのまっただ中にいるかもしれない。でも、きっと「あれ、俺ってなんのためにやってきたんだっけ?会社でえらくなるために働いていたの?」と思ったでしょうね。
石川:だから、このタイミングが重要だったのですね。
岡本:そうですね。「この瞬間に”飛び込まない”のは、僕の人生にとって大事なことの先送りでしかない」と思ったんです。10年後に後悔するくらいなら、いまここで、やりたいことに挑戦してみようと。それ以来ずっと僕は、自分のやることを決めた瞬間のわくわく感みたいなもの、それを大事にしてきました。
石川:それで、退職される決意をされたんですね。
岡本:ちょうどその時、長く担当していた大きなプロジェクトが完了したので、上司に「辞めます」と伝えました。そしたら、ひと通り怒られました。笑 翌日にはすごいニンジンをぶらさげられましたね。「岡本くん、海外行たいって言ってたよね?」とか、「もうすぐプロモーション(昇進)で給料これくらいになるよ!」とか。笑
石川:会社からしたら、手放したくないでしょうからね。笑
岡本:僕も「まじすか」、と思って一瞬ふらっとしましたが、それでもはっきりと退職する旨を伝えました。その後は、すぐにNPOの仕事だけで食っていけるか分からなかったので、誘ってもらったカタリバの仕事を週二日程度でしながら、独立して事業再生の案件を手がけつつソーシャルセクターへの関わりを深めていこうと思っていたんです。そんなことを考えながら退職したのが、2011年の2月末でした。
石川:2011年の2月ですか。すごいタイミングですね。
岡本:そう、そして独立して2週間も経たないうちに、東日本大震災が発生しました。その後、カタリバ代表の今村久美さんは被災地に向かって出て行ったきり、東京に帰ってこない。その後、SVP東京代表の井上さんも、研究のため渡米することになって。
石川:大変なことになりましたね。かなり予想外のことだったかと思います。
岡本:その時は事業再生の案件がスタートしていなかったこともあって、震災直後の混乱の中、週5日くらいカタリバのオフィスに詰めていました。一方のSVP東京も、井上さんの後継が事前に決まっていなかったので、急遽パートナーで集まって、泊りがけで話し合いました。結果として、僕がSVP東京の代表に選ばれたのが4月の中頃。
同じく4月の末頃には、久美さんと被災地の宮城県の石巻市を訪れ、最終日に仙台で訪問の振り返をしながらご飯をたべていたところ、突然「カタリバの事務局長をやりませんか」とオファーをいただいたんです。
石川:そっちもきたか、という感じですね。
岡本:正直いって、迷いました。どちらも責任の重い仕事です。二足のわらじで成果を出せるのか、みんなの期待に応えることができるのかと。でも、そもそも僕はソーシャルセクターに100%コミットしたいと思って前職を辞めたわけです。僕は、肚をくくろうとおもいました。久美さんに「SVP東京の代表理事との兼職になりますが、いいですか」と伝えた上で、カタリバの事務局長を引き受けました。自分で決めた決断なんですけど、何かの流れの中にいるようにものごとが進んでいきましたね。
石川:まるで、あらかじめ計画されていたかのようですね。岡本さんが意を決して飛び込んでいなかったら、色んなことが今とは違っていたんだろうなと思います。
■ 「NPOマネジメントの現場から得たもの」岡本拓也さんインタビュー(4/4)へ続きます。
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