「DRIVEメディア」を運営する「NPO法人ETIC.(以下、エティック)」は、2001年より25年間、社会起業家支援を続けてきました。社会起業家とのネットワークは国を越え、欧米やアジア諸国のリーダーとの数々の印象深い出会いも生まれています。
そうした流れのなか、2025年10月末、「米日財団」助成のもと「エティック」と「NPO法人クロスフィールズ」が共同主催者となり、「NPO法人新公益連盟」の協力を得て、日米のソーシャルセクターリーダーの交流・知識交換を通じて課題解決の突破口となりうる対話の創出を目指した2日間のプログラム「Japan-U.S. Social Innovation Network(日米ソーシャル・イノベーション・ネットワーク)」(以下「JUSSIN」)が開催されました。
レポート後編となる本記事では、米国から招聘されたリーダーたちによるインスパイアセッションの続きからお届けします。
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たった1人でも安心できる大人との関係性があれば、若者の人生は変わる──「シルバー・ライニング・メンタリング」コルビー・スウェットバーグさん
3人目は、社会的養護にある若者の支援とメンタリング変革における全米的なリーダー、「シルバー・ライニング・メンタリング(以下、SLM)」CEOのコルビー・スウェットバーグさんです。

「SLM」のミッションは、里親制度下の若者が健全な人間関係と生活基盤スキルを育てられるよう支援すること。ボランティアの大人メンター1人と里親制度下の若者1人をペアにし、少なくとも1年間、月8時間以上の関わりを約束しています。
米国の里親制度が抱える問題は、国内でも理解が未だ進んでいない分野。その実態は、「里親」という言葉が想起させるような新しい安全な家庭へ子どもを送り届ける仕組みとは異なり、家族から引き離され、複数の施設や一時的な養育環境を転々とする不安定な状況に置かれることも少なくありません。こうした制度の運用は、黒人や先住民、ラティーノの若者、LGBTQの若者、そして低所得層の家族に対して不均衡な影響を与えていると指摘されています。
時には真夜中にソーシャルワーカーと警察官がドアを叩き、子どもに黒いゴミ袋を手渡し、こう言います。「持ち物をすべてここに入れて、車に乗りなさい」。別れを告げる時間も十分に与えられないまま、きょうだいや家族といつ再会できるかもわからない状態で、見知らぬ人々のもとへと移されていきます。
新しい地域、新しい学校、新しい生活——こうした環境の変化は一度きりではなく、年に何度も繰り返されることもあるといいます。度重なる移動は、人間関係の断絶をもたらし、若者たちの生活に大きな不安定さをもたらします。
「数カ月以上彼らを知り続ける人はいなくなり、人間関係は断絶します。そして18歳になると経済的な支えも、住まいの安定も、感情面での支援もないまま、仕事探しや住居確保、医療や交通の手配、場合によっては学業や子育てまで、すべてを自力で担わなければいけません。大人になるとはどういうことか、誰もが手探りで学んでいくものですが、里親制度下の若者たちは、その準備やロールモデルを持たないまま社会に出ていくのです」
ハーバード大学発達センターによれば、若者の健全な発達──感情の回復力や、自己肯定感──において決定的な差を生む唯一の要因は、安定した大人との一貫した関係性の存在です。だからこそ里親制度下の若者にとって、一貫した前向きな人間関係は命綱となるのです。

コルビーさんは、CEOとなった2009年からこれまでに、支援する若者の数を8倍以上、運営予算を4倍以上に伸ばし、戦略的な組織拡張を実現されました。TEDxスピーカーでもあり、教育者、非営利団体の理事としても活動されています。
「最初の記憶は4歳のとき。パーティーには母親のような格好では絶対に参加したくないと思ったんです」。若いノンバイナリーのクィアとして、家族の理解と支えはあったものの、コミュニティにロールモデルを持たず未来を想像できずに育ったと自らの困難な原体験を語ったコルビーさん。自身が非営利リーダーとなるまでの歩みを、「社会運動のなかで支援者の共感と理解を育むために不可欠な手法」であるストーリーテリングの実演として語りました。

大学卒業後、高校の英語教師として働き始めたコルビーさんは、さまざまな困難を抱える生徒たちと出会ったといいます。帰る家を持たない若者や、家族の薬物依存に苦しむ子どもたち、クィアとして居場所を見つけられず孤独を抱える生徒たち——そうした若者にとって、コルビーさんは安心して頼れる存在となっていきました。
そして自らも、社会のなかで自分の姿を見出せず孤立する若者たちの課題に向き合いたいという思いが次第に強まり、新たなキャリアを志してハーバード大学大学院へ進学。インポスター症候群に苦しみながらも、「ハーバードという名前は扉を開く力を持つ。その機会を社会のために使いなさい」という教授の言葉に背中を押されたといいます。
「それは体験したことのなかった新しい世界でした。私はこれまでも白人の特権者として、自分に開かれた扉をほとんど意識せずに、ただ通り抜けてきました。特権とはそのようなものです。けれどクィアとしては、この世界で自分が排除され閉ざされる扉が数多くあることを痛感しています。だからこそ、白人でありハーバード大学を出た自分の特権で他者の扉を開けられる場面がないか常に注意を払い、自らの特権に責任を持っていたいのです」
卒業後は、里親制度下で生きるLGBTQの若者のための国内初となるグループホームで働くことになったコルビーさん。そのときの同僚から「あなたは根っからのソーシャルワーカーだ」という言葉をもらったことで、再び大学院に戻る決意をし、社会福祉学の修士号を取得。そしてソーシャルワーカーとして働き始めたなかで出会った上司に勧められたのが、現職である「SLM」のCEOの仕事でした。
最初は「今の仕事に満足している」と断ったコルビーさんでしたが、「数年に一度は、今の自分より少し上に見える仕事に応募しなさい。少し怖いくらいでちょうどいい。それは正しい選択のサインかもしれない」という上司からの言葉に背中を押され、挑戦を決めたのだといいます。
「私のリーダーシップの物語に一貫して流れているのは、私の本質を見抜き可能性を示してくれた人たちとの関係性です。そうした関係が、私に自分の強みを見出させ、社会の中での帰属意識を与えてくれました。
『SLM』に参画を決めたのも、本来享受すべき健全な人間関係を築く機会を奪われている里親制度下の若者たちに、この帰属意識をもたらすためでした。この意識が人々にもたらす感覚こそが、人間の成長のために最も重要なものだと信じているからです」
その後コルビーさんは、より多くの若者に継続的なメンタリング関係を届けるための組織拡大について、具体的な戦略を共有してくださいました。助言者や資金提供者との信頼関係の構築、専門性の高いスタッフチームの育成、研究機能の立ち上げ、パートナーシップの強化——すべては、里親制度下にある若者たちが安定した関係性を持ち続けられるようにするための取り組みです。
「すべての若者が支えとなる大人を持てるわけではないかもしれない。けれど、すべての若者にその存在は必要で、若者はそれを受け取るにふさわしい存在なのです」。そう語り、コルビーさんはセッションを締めくくりました。

制度改革がもたらした成果は「数字」だったと感じた。目の前の命を救うため、直接支援を拡充し続ける──「ユース・エンパワーメント・プロジェクト」メリッサ・ソーヤーさん
次のゲストは、米国南部に位置するルイジアナ州で初めて、少年刑務所から家庭や地域社会へ戻る若者を支援することに特化したプログラムを始めた「ユース・エンパワーメント・プロジェクト(以下、YEP)」共同創設者兼CEOメリッサ・ソーヤーさんです。
メリッサさんは、ティーチ・フォー・アメリカを通じてニューオーリンズの高校に教師として派遣されたことをきっかけに、ルイジアナ州の少年司法制度改革に3年間従事。2004年には「YEP」を共同設立されました。
彼女のリーダーシップの下で、「YEP」は地域最大級かつ最も包括的な若者支援組織へと成長し、ルイジアナ州南東部にある5つの拠点で、年間約1,000人の若者に教育、就労、体験活動、メンタリングの機会をすべて無償で提供しています。

カナダで生まれマギル大学を卒業し、ニューオーリンズの高校で2年間教師として働いたメリッサさんは、高校で出会った若者たちと心からの親交を深めました。しかしその大切な若者たちの多くを、銃撃事件、または人権侵害が横行することで悪名高い「タローラ」という少年刑務所への投獄で亡くしています。また、25年以上投獄され続けている若者たちもいるのだと語ります。
「振り返ると、この今日に至るまで米国が直面している現実が私の人生のテーマになっています。暴力と悲しみが溢れるアメリカの都市、特にニューオーリンズでの経験です。少年司法制度改革へ立ち向かう原動力となり、『YEP』創設のきっかけとなりました」

より専門性を持ってこの課題に立ち向かうためにハーバード大学へ進んだメリッサさんは、少年司法プロジェクトに携わることに。そして2001年、高校で出会った若者たちとの約束を守りニューオリーンズへ戻ったメリッサさんは、若年層の収容率が全米で最も高く、懲罰的なアプローチが取られていることで知られていたルイジアナ州全体の少年司法改革に取り組み始めます。
当時のルイジアナ州では、出所後の支援体制などは一切無く、若者たちは違反防止用の足首用監視装置を装着させられるなどして外出時間・行動を監視されるのみだったといいます。
そんななか、少年刑務所の収容人数を1,500人以上から800人未満に削減する支援を行い、若年層への投資や収容代替措置へ移行する法案成立にも貢献されました。そしてこの法律から初めて交付された助成金で、州で初めての少年更生プログラムを運営する「YEP」を共同設立しました。
「私たちは、多くの愛する若者を刑事司法制度に奪われました。だからこそ制度改革に挑みましたが、新しい政策がもたらしたものは、ただの数字に過ぎなかったとも感じました。大切なのは人間の命なのです。だからこそ、元受刑者を直接支援する活動を始めました」
予算はわずか23万5千ドル、創設者3名にスタッフは5人だけ。最初に支援できたのはわずか2名でした。翌年の2005年、ハリケーン・カトリーナによって甚大な被害を受けたニューオーリンズで「YEP」の事務所は幸運にも浸水被害を免れ、地域住民たちの大切な拠り所としての再スタートを踏み出します。
ルイジアナ州では、ハリケーン後の復興プロセスが公平ではなかったことに起因して、白人家庭と黒人家庭の格差がより拡大していました。特にアフリカ系アメリカ人の若者は、既存の制度が必ずしも彼らの現実──若年出産、里親制度下、少年院出所後など──を支援する仕組みになっていなかったため高校を卒業できないケースが非常に多く、「YEP」で高校卒業資格認定試験と代替高校卒業資格プログラムをスタートしました。
さらに、スイスの財団から100万ドル以上の資金を得て、ワーキング・ラーニング・センターを建設。自転車店やリサイクルショップ運営で収入を得ながら学ぶことができる、16歳から24歳を対象とした職業訓練プログラムを始めました。現在このプログラムで運営する事業からは年間約20万ドルの収益を得ているのだそうです。
また、「YEP」が活動する多くの地域ではジェントリフィケーションにより地価が上昇し続け、貧困状態にある住民たちが家から追い出される事態が続いています。そこで拠点となる物件を購入し、若者とその家族に開放。これがコミュニティに安定感と安心感をもたらし、とてもうまく機能しているとメリッサさんは語ります。

「あらためて皆さんに伝えたいことは、『データに立ち返れ、成功に立ち返れ、強さに立ち返れ』ということです。リーダーのあなたが周囲に賭けるに値する人間だと見なされれば、事業を成長させる可能性は高まります。また同時に、謙虚でいてほしいと思っています。私は今日、素晴らしい旅の機会に恵まれていますが、だからといって米国に残っている若者たちやスタッフよりも賢いわけではありません。
かつて若者が私にこう言ったことがあります。『頂点に立ったとき、メリッサさんはエレベーターで最下層まで戻って、残った人々を一緒に引き上げるつもりでしょう?』。地に足をつけ、謙虚であり続け、他者に機会を創出すること——それが私たちの生きるべき姿だと思います」
過酷な現実に挑み続けるソーシャルセクターリーダーたちが、国を越えて知恵と勇気を分かち合える関係性を育む
インスパイアセッションを浴びるように受け取った1日目を終えて、研修2日目は、米国からのゲストそれぞれの専門をより深く学び合い、語り合う、テーマ別のグループディスカッションからスタートしました。各テーマと担当ゲストは下記になります。
- 「Nothing About Us Without Us: 共創・協働・ユースパワーによるシステムチェンジ」(ジョシュアさん)
- 「アライアンスを評価するためのフレームワーク」(アリエルさん)
- 「JUSSIN 2.0: 共に育む、その先へ」(コスモさん)
- 「レジリエントで持続可能なNPOをつくる:今と未来に向けて」(メリッサさん)
- 「リーダーシップにおける真摯さの力」(コルビーさん)

そして、午後は研修の目玉でもある、ゲストと参加者との1on1メンタリングを実施。研修前にマッチングしたメンタリングでは、ゲストたちが各団体の情報を読み込んで必要なサポートを準備して挑んでくれたこともあり、最も印象的な時間になったという声も届きました。


例えば、「このような体系立ったフィードバックを受けとることができたのは初めて。まずは組織の問題に対して葛藤を抱える私個人の感情を心理学の側面から紐解いて肯定してくれて、人間としても受け止めてくれた。そのうえで組織の現状を専門的な知見から整理して、具体的なネクストステップを一緒に考えてくれた。涙が出るほど安心して、前に進む勇気をもらった」といった言葉も(※個人の特定を避けるため一部改変)。
この2日間を通し、マネジメントへの課題など両国のソーシャルセクターの共通点も見出されましたが、日本よりも早くその歴史をスタートした米国ソーシャルセクターのリーダーからのメンタリングの時間は、日本のリーダーたちにとって自分自身と活動を前進させる確かなエポックとなったようです。
また、「JUSSIN」という場が生まれ、米国のリーダーたちとの出会いと共に日本のリーダー同士が出会い、親交が深まったことも、日本のリーダーたちにとっては大きな価値のある時間だったという声も届きました。

盛りだくさんの学びの時間を駆け抜けて、2日間の「JUSSIN」研修は無事に終了。本レポートもこれにて終了……かと思いきや、5名のゲストには翌日に開催された「新公益連盟」合宿でもセッションを持っていただきました(研修から合宿にはしごするメンバーも!)。レポートも次回3本目に続きます。どうぞお楽しみに!

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