2025年10月7日〜10月9日に島根県雲南市(うんなんし)で、「ローカルリーダーズミーティング 2025」(主催:ローカルベンチャー協議会/事務局:NPO法人ETIC.)が開催されました。
ローカルリーダーズミーティングは、地域で活躍するプレイヤーや行政関係者、民間企業の担当者、地域に根ざした活動に興味を持つ個人などが全国各地から集まり、情報共有や交流、現地視察などを通じて、地域づくりのヒントを持ち帰るためのイベントです。「ローカルリーダーズミーティング 2025」は全国各地から約230名が集い、これからの地域づくりを考えました。
本記事ではその中から、「えすこな働き方~全国の“特地”と語る、地域でつくるちょうどいい仕事と暮らし~」と題した分科会の様子を要約してお届けします。
「特地(とくち)」とは「特定地域づくり事業協同組合制度」の略称です。人口減少に伴い、地域での労働環境にも変化が求められているなか、地域ぐるみで働き方のリデザインに取り組んでいる3つの事例をご紹介します。

<スピーカー>
森本 真志(もりもと まさし)さん 西粟倉事業協同組合
小林 峻(こばやし しゅん)さん 合同会社気仙沼の人事部/気仙沼ジョイントワークス協同組合
斉藤 雄大(さいとう ゆうだい)さん 株式会社御祓川
※記事中敬称略。登壇者のプロフィール詳細は記事最下部に記載。
地方にマルチワークという新しい働き方を。全国の特地とつながりながら、人材確保を図る──西粟倉事業協同組合 森本真志さん
小林:都会の方がキャリア形成には優位な側面もあり、地方での人材確保はますます難しくなっているように感じます。企業それぞれががんばるにも限界がきているなかで、地域全体でどんな仕組みを設計できるといいのか。各地での試行錯誤を、この時間では深掘りしていきます。
今回は幹事自治体あるいはパートナー自治体としてローカルベンチャー協議会に参画している3つの地域から、それぞれ報告させていただきます。
人口約1,300人の岡山県西粟倉村、5万6,000人台の宮城県気仙沼市、そして自治体を越えてエリア全体で取り組んでいる、人口10万人規模の石川県能登地方を順に紹介することで、エリア特性や人口規模によるパターンの違いや、共通するエッセンスをつかんでもらえれば幸いです。それでは、まずは西粟倉村の森本さんからお願いします。
森本:西粟倉事業協同組合の森本と申します。西粟倉村は人口約1,300人中270人と、20%超が移住者という点が特徴的です。世田谷区程度の広さのほとんどが森林で、人口密度は低い地域です。2004年に平成の大合併を拒み、単独行政を維持してきた西粟倉村は、長年ローカルベンチャーの育成に力を入れてきました。村内のローカルベンチャーの売上は年間25億円にも上ります。
西粟倉事業協同組合は、採用が難しいという村内企業の課題感を背景に、こうしたローカルベンチャー4社が発起人となって、2025年4月に設立されました。
総務省の「特定地域づくり事業協同組合(以下、特地)制度」を利用したもので、人材確保に特に支援が必要な地区として都道府県知事から認定を受けると、組合員となった事業者のニーズに応じて人材を派遣することができます。運営費の2分の1の助成を受けられるとあって、特地は急増中です。制度が発足した5年前はわずか5つだった組合数も、今年度は全国で130以上となっています。

森本:特地の役割については、繫忙期に合わせ、春は農業、夏場はゲストハウス、冬は酒造業で働くというように、複数の事業所でさまざまな業務に従事するマルチワーカーを、組合員である事業者に派遣する仕組みというとイメージしやすいのではないでしょうか。
人材採用への課題感から発足した西粟倉村の特地ですが、昨年度は村内企業17社が合同で東京にて開催した採用イベントを引き継ぎ、今年度は大阪で同様のイベントを行いました。その結果、11月に村でインターン生を受け入れることになるなど、採用ニーズがある事業者と特地で先導して取り組めたという手応えがあります。
また特地を始めたことで、ローカルベンチャー協議会とも関わりの深い宮城県気仙沼市や宮崎県日南市など、全国の特地とつながることができました。月に1回程度情報交換をしており、特に民間主導の他地域の取り組みが参考になっています。
西粟倉村は、全国でも1~2位を争うくらい地域おこし協力隊制度を活用しています。農業分野の担い手の確保も求められていますし、協力隊終了後の人材の受け皿となれるよう、実績を積んでいきたいです。
「地域の人事部」を中心とした面的な取り組みで、働きたいと思える地域に──合同会社気仙沼の人事部 小林峻さん
小林:続いて私から気仙沼市の事例を紹介します。気仙沼市は宮城県の最北東に位置し、岩手県に隣接しています。港町として開かれた土地で、漁業をはじめとして造船、整備、エネルギー、船舶などの関連事業も盛んです。ただ大型漁船が入りづらい土地であるため、大規模城下町にはならず、10人以下の小規模事業者が中心となっています。
また昔から移住者が多く、会社経営者も市外からの人が多いため、寛容な空気感をもった町です。2011年の東日本大震災では大きな被害を受けましたが、ハード面の復旧は完了しており、前に進もうとしています。
私自身もマルチワーカーとして働いていますが、今日は合同会社気仙沼の人事部の代表社員、そして西粟倉村と同じく特地である気仙沼ジョイントワークス協同組合の事務局長という2つの立場からお話しさせてください。
まず「地域の人事部」ですが、これは経済産業省が推進している取り組みで、地域の企業が一体となって人材の確保や育成など、人事に関する機能をまとめて担うものです。気仙沼の人事部では、主に3つのサービスを提供しています。
1つ目は、コンサルタントとして採用や社員の育成、組織構築などをサポートする人事支援事業。2つ目は、1カ月程度の大学生のインターンシップや、副業希望者と組織改革などに取り組みたい企業とのマッチング、大企業の管理職を中心とした越境型研修などを行う人材コーディネート事業です。
そして3つ目は、企業の枠を超えて取り組む地域プロジェクトです。共に学び、相談しあえるコミュニティづくりを目指し、毎年数社が合同で採用や新入社員の合同研修などに取り組んでいます。

小林:もう1つの気仙沼ジョイントワークス協働組合では、現在組合員として8社の事業者を抱え、2名の社員に繁閑に応じて働いてもらっています。働き方は2つあり、1つは氷の集荷とかまぼこの製造を組み合わせるというようなマルチワークです。もう1つが専門スキルを活かして働くスタイルで、こちらは経験はないけどやってみたいというレベルでも大丈夫です。
広報やSNS発信など、特定の困りごとを抱える会社から仕事を請け負い、働く側の経験値やスキルアップにもつながればと取り組んでいます。
今後は複数の事業者と協働して人材に関するプラットフォームをつくり、1社だけでは難しい人事面での課題解決に取り組んでいきたいです。その際のポイントは3つあると考えています。
1つ目は、人材を「資本」として捉え、最大限に活用することで持続的な企業価値の向上につなげる、人的資本経営を重視することです。仕事を通じて、企業内の人材にノウハウや知識が蓄積していくような経営のやり方が必要だと感じます。
2つ目は、ルーティンワークのような定型業務と、創造性や問題解決能力が求められる非定型業務を切り分けることです。特に非定型業務をずっと経営者が担当するということがないように、右腕となるような副業人材をマッチングするといったことができるといいのではないかと思います。そして3つ目は、情報発信や経理、人事といったアウトソーシング可能な業務の共有化・プラットフォーム化です。

また気仙沼は教育面でも先進的な取り組みが多いですし、観光地域づくり法人もあるので、教育や観光との接続に関してもうまく仕組み化していけるといいですよね。たとえば気仙沼では、働きながらレジャーや観光を楽しむ機会として、総務省のふるさとワーキングホリデー制度を使って多くの若手社会人や学生を受け入れていますが、その多くは2週間程度で長くても1カ月です。
この機会を活用し、人事部としてもっとがっちりインターンや副業のプログラムを組むという方向性もありますが、移住や特地の社員として働くといった段階の手前に、ていねいに階段をつくっていくということが大事だと思います。
具体的には、最後のワンステップとなるような、半年程度のおためし就労体験が選択肢としてあるといいのではないでしょうか。スポットワークと就労の中間にある働き方というイメージです。気仙沼市内の民間事業者や行政とも連携し、面的な取り組みにしていきたいです。
企業それぞれの魅力を高めることが、エリア全体の採用力向上につながる──株式会社御祓川 斉藤雄大さん
小林:最後に、石川県七尾市にある民間のまちづくり会社・株式会社御祓川の斉藤さんから、大学生向けの「能登留学」や、「能登の人事部」の取り組みについてご報告いただきます。
斉藤:能登地方は海に囲まれた半島で、東京都全体が収まるくらいの広さです。もともと全体で人口10万人程度でしたが、2024年の能登半島地震で6,500人程減少しました。震災を機に多くの支援や注目が集まったものの、以前からあった地域や人材をめぐる課題も顕著となっています。
西粟倉と気仙沼の報告にもありましたが、能登でも働き手として若者が集まらないという課題があります。そこで株式会社御祓川では、地域や企業の課題解決の現場と大学生インターンをマッチングする「能登留学」に長年取り組み、これまで250人程のインターン生を受け入れてきました。
震災後は長期休みを利用した1カ月以下の短期滞在が中心ですが、休学して参加する学生も増えています。震災を機にインターンで能登に入った学生が起業するというケースもありました。
また企業向けには、「能登の人事部」という採用支援と人材育成のワンストップサービスを提供しています。社員研修や業務マニュアルの作成といった育成支援や、ITを活用した業務効率化の支援などに取り組んでいますが、この場では震災からの復興とも関わりの深い「能登の経営力向上委員会」について詳しくお話しします。

経営者同士が学び合って成長し続けることで各企業の魅力が高まり、能登地方全体の採用力も上がっていくという仮説の下に立ち上げたコミュニティが、「能登の経営力向上委員会」です。月額会員制サービスという形で、月に1回程度の定例会や勉強会、会員同士で自社の困りごとを相談し合える交流チャット、弊社のコーディネーターが経営課題の解決に向けて伴走する個別セッションなどを提供しています。
特徴的なのは、秘密保持契約を結んで、安心して相談できる環境を整えていること。それぞれの経営者が悩みを持ち込み、お互いに自分事として考えるというクローズドで温かいコミュニティができています。
一方で、オープンなコミュニティを広げていこうとしている動きが「のと発酵的復興会議」です。発酵的復興とは、地域外の人たちとの共創によって、地域側の構造を再構築しながらアップデートしていくという考え方を指します。今つながりがある人たちとどんな能登の未来をつくっていきたいのか、委員会に参加している数社と一緒に、考えが重なるところを模索して対話を重ねた結果、こういったイベントの開催につながりました。
2025年の2月に能登空港で第1回を開催しましたが、2026年1月に第2回を企画中です。経営者それぞれの小さな思いや各社のビジョンの集合体が地域のビジョンを形作っていき、復興につながっていくと考えています。
現状の課題は、御祓川のように中間支援的な活動をしているエリア内の他団体との連携が十分に取れていないことです。今は地域内外をつなぐのが得意な方をエリアコーディネーターとして発掘し、協力体制をつくるべく、彼らと対話する場を設けるなど情報共有に努めています。
小林:本日は規模が異なる3つの地域の事例を共有させていただきましたが、同じ人材の課題に取り組む立場として、支援のあり方を探究していく時間になりました。総務省や経産省など、国の制度もいろいろありますし、各地の実態に合わせてトータルで設計できるといいですね。
<登壇者プロフィール詳細>
森本真志(もりもとまさし)さん
西粟倉事業協同組合
奈良県明日香村出身。大学卒業後、銀行にて7年間勤務。2016年より地域おこし協力隊として岡山県西粟倉村に移住。地元の建設事業者・有限会社小松組に参画し、空き家管理事業や個人向け建設サービスの立ち上げに携わる。その傍ら、村内事業者の経営支援や補助金活用など、西粟倉村の“バックオフィス”としての役割を担い、お墓掃除から経営コンサルまで、幅広く地域の事業者をサポートしてきた。2025年4月には、西粟倉事業協同組合の設立を主導し、事務局長に就任。消防団や猟友会などにも参加し、村内に多くのネットワークをもつ。
西粟倉事業協同組合 Facebook
小林峻(こばやししゅん)さん
合同会社気仙沼の人事部/気仙沼ジョイントワークス協同組合
1988年生まれ。東京都八王子市出身。多摩大学グローバルスタディーズ学部卒業。大学時代の4年間、NPO・法人ETIC.にてインターン。創業支援プログラムや、大学生のキャリア支援などに従事。2011年11月、ETIC.右腕派遣プログラムを通して宮城県気仙沼市と関わるようになり、2013年1月より、同市内でのコミュニティカフェの立ち上げと現場責任を担う。2015年から一般社団法人まるオフィス理事として、主に人材育成や創業支援などのプロジェクトを担当。引き続きまるオフィスの理事を続けながら、2020年2月に合同会社colereを創業、また事務局長として気仙沼ジョイントワークス協同組合に参画。ついで2023年に合同会社気仙沼の人事部を創業。
合同会社気仙沼の人事部 公式サイト
気仙沼ジョイントワークス協同組合 公式サイト
斉藤雄大(さいとうゆうだい)さん
株式会社御祓川
静岡県出身。信用金庫職員を経て、静岡県に拠点を置くNPO法人ESUNE(エスネ)の副代表理事として、地域の企業・団体・学校と連携したまちづくり事業に取り組む。2024年の能登半島地震を機に、民設民営のボランティア拠点立上げ支援のため、能登と関わるようになり、2024年8月に、石川県七尾市の株式会社御祓川(みそぎがわ)に入社。能登での人材コーディネート事業などに携わる。
能登の人事部 公式サイト
能登留学 公式サイト
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