ローカルベンチャー

島根県雲南市の20年の取り組みから考える、地方創生のこれまでとこれから【ローカルリーダーズミーティング2025レポート(1)】

2025年10月7日〜10月9日に島根県雲南市(うんなんし)で、「ローカルリーダーズミーティング 2025」が開催されました。

ローカルリーダーズミーティングは、地域で活躍するプレイヤーや行政関係者、民間企業の担当者、地域に根ざした活動に興味を持つ個人などが全国各地から集まり、情報共有や交流、現地視察などを通じて、地域づくりのヒントを持ち帰るためのイベントです。

「ローカルリーダーズミーティング 2025」(以下LLM2025)では全国各地から約230名が集い、これからの地域づくりを考えました。

本記事ではその中から、オープニングセッション「雲南から考える、地方創生のこれまでとこれから」の様子を要約してお届けします。雲南市の3つの総合計画で掲げられてきたキーワードの変遷を切り口として、これまでの取り組みを振り返り、LLMの3日間を過ごす視点を得る時間となりました。

※主催:ローカルベンチャー協議会/事務局:NPO法人ETIC.

<スピーカー>
佐藤 満(さとう みつる)さん 幸福な自治研究所 所長/元雲南市政策企画部長
高橋 博之(たかはし ひろゆき)さん 株式会社雨風太陽 代表取締役社長
鳥谷 健二(とや けんじ)さん 雲南市政策企画部政策推進課長
矢田 明子(やた あきこ)さん 株式会社CNC 代表取締役/一般社団法人 Community Nurse Laboratory 代表理事

<モデレーター>
山元 圭太(やまもと けいた)さん 雲南市地方創生アドバイザー

※記事中敬称略。登壇者のプロフィール詳細は記事最下部に記載。

6町村が合併して雲南市が誕生。地域自主組織の立ち上げから始まった「協働」のまちづくり

山元:まずは雲南市政策企画部の鳥谷さんに、2004年から始まった雲南市のまちづくりについて経緯をお聞きします。

鳥谷:2004年、6町村の合併により雲南市が誕生します。合併を受けて住民の声が届きにくくなるのではという懸念から生まれたのが、住民主体で地域の課題を解決する地域自主組織でした。

ステージ1と位置付けられている第1次総合計画(2004~2014年)のキーワードは「協働」です。各町村のいいところを残して磨き合うためにも、官民の垣根なく対等な立場で対話しながらまちづくりの方向性を決めていこうと、「協働」が中心に据えられました。

鳥谷:地域自主組織による課題解決型の住民自治を大人チャレンジ、地域やNPO等と協働したキャリア教育やふるさと学習を子どもチャレンジとして実践してみると、大人と子どもの間の世代が抜けているという課題が見えてきました。

そこで雲南でも若い人の動きを作っていこうと、近隣の町で始まったビジネスプランコンテストを参考に立ち上げたのが、「幸雲南塾」という起業塾です。雲南には外から人を呼び込むより、種をまいて育てるスタイルが合っているだろうと、塾形式で若い人のやりたいことを応援する場としてスタートしました。

幸雲南塾を運営する中間支援組織として、塾の1期生だった矢田明子さんに代表をお願いして立ち上げたのが「NPO法人おっちラボ」です。最終報告会を前に塾生のプランがガラッと変わるなど、運営は正直むちゃくちゃ大変でした(笑)。 

第1次総合計画を経て、地域の人たちが自分事としてさまざまな課題に取り組み、その背中を見て子どもたちが育っていき、二拠点で暮らす若者が出てくるなど、思った以上の成果がありました。脇目も振らずに前進し、地域で小さな活動が積み上げられてきた結果として、チャレンジを支える土壌が育ってきたように思います。

協働からチャレンジへ。「ソーシャルチャレンジバレー」構想を振り返る

山元:2015年からのステージ2では「チャレンジ」がテーマとして据えられました。子ども、若者、大人の全世代によるチャレンジだけではなく、2019年には「雲南市チャレンジ推進条例」が制定され、企業チャレンジも加わっています。条例制定の背景などを教えていただけますか。

鳥谷:中高生や大学生のチャレンジや、若者の起業などを資金面でも応援していくことを議会に提案したところ、チャレンジの推進は条例に基づいていないのではないかという指摘があり、条例化を進めていきました。条例の制定は、「雲南市スペシャルチャレンジ事業補助金」の創設にもつながっています。

また2020年には民間主導で「公益財団法人うんなんコミュニティ財団」も設立され、新しいお金の流れが生まれました。

まちづくりに携わったこの10年を振り返ると、まず6町村の合併時に住民の方を向いていたのがすごいことだと思います。その後のチャレンジを推進していく局面では、矢田さんのような思いをもって活動している方と接するなかで、我々、行政職員も感化されていきました。特に矢田さんがTシャツにジーンズといったラフな恰好で、「市長!」と元気よく市長室に入っていく姿は印象的でした(笑)。

住民の声を聞いたまちづくりを実践してきたことと、民間のチャレンジャーを守り、政策まで結び付けていく覚悟をもって取り組んできたことは大きいと思います。

住民主体で地域づくりに取り組んでいる点が雲南市の強み──株式会社雨風太陽 高橋博之さん

山元:それでは雲南市のこれまでの取り組みについて、スピーカーの皆さんからもコメントをいただきながら振り返りたいと思います。

高橋:雲南市の第3次総合計画がいよいよ始まるということで、2025年3月に「えすこな雲南市×雲南ソーシャルチャレンジ大発表会」というイベントに呼んでいただいたのですが、その熱気には驚かされました。

合併時の地域自主組織立ち上げも、ボトムアップで自分たちのことを決める組織をつくろうというでき上がり方をしている点がほかとは違うと感じます。木次乳業の創業者である佐藤忠吉さんの自主・自立の思いが受け継がれていますよね。

住民自治の芽が芽生えている地域は全国に数カ所ありますが、やはり根付くのに20年はかかると思います。市長が変わっても進展し続けているところが雲南市のすごいところです。合併から20年余りが経とうとしている雲南市は、まさに全国が追いかけるパイオニア的な存在ではないでしょうか。

「市民との」協働は実現できているか?市民に寄り添うスタンスの重要性──幸福な自治研究所/元雲南市政策企画部長 佐藤満さん

佐藤:まず、先輩達がずっとつないできた延長に今があることを踏まえないと、みなさんの活動が「空回り」になります。「私たちは10年頑張ってきた」というようなものではありません。

市町村合併の議論が出てきた時に、市民も行政も「変わる」「変える」きっかけにしようとしました。「行政からの押しつけではないか」という声もありながら、もう少しがんばろうと立ち上がったのが地域自主組織です。批判を受けながらも、課題に対して正面から対応していただいています。

みなさんがそれぞれの地域に戻ると、住民との温度差やずれていると感じることもあると思いますが、自分たちが空回りしているなと思ったときは、市民の暮らしや息づかいをしっかり見るという原点に立ち返ってもらいたいですね。

協働とか総働は行政側の言葉です。「市民と行政の」という枕詞がつきます。現状は、残念ながら雲南市も含めて、市民ではなく中間支援組織との協働・総働になっていると感じます。中間支援組織は、行政ではなく市民に寄り添うことが必要です。時代は変わっても、市民がまちづくりの主役であることは変わりません。それを原則としていれば行政職員もゆるがずに政策を進めていけると思います。

雲南のまちづくりを支えた、「分岐」を担う存在──株式会社CNC /一般社団法人 Community Nurse Laboratory 矢田明子さん

矢田:地域には地域の言葉があります。「あたしはお隣の出雲市出身でどげだいこげだい」と方言で話した方が伝わるというか、おっちラボ代表の矢田明子よりも、出雲で育った矢田明子として対峙した方がうまくいく場面も多々ありました。伝え方や態度といった地域のお作法は、住民さんとのトラブルを経てだいぶ勉強させてもらいました。

地域に入ると、全然違う時間軸と言葉で生きている人がいます。それをリスペクトしたときに初めて見えてくるものもあるなと感じました。

振り返ると、重要な分岐がいくつかあったと思っています。おっちラボができたばかりでまだこれといった結果もなく、どこの地域も遠巻きに見ているなかで、一緒にやろうという地域が出てきたとき。コミュニティナース事業について、「意味がある」と肯定的な態度を取ってくれる病院がでてきたとき。議会の人が「雲南市チャレンジ推進条例」を制定しようと言い出してくれたとき。

佐藤さんとも話したことがありますが、意思をもって「分岐」を担当してくれる存在が都度都度ありました。「あのときあの人が流れを変えてくれた」という瞬間がこの10年で何個もあるので、私自身も「分岐」を担当するという意識をもちたいですね。

これから目指す「えすこ」な雲南市像とは?

山元:ここからは雲南市の「これから」について話していきます。今年4月から始まった雲南市の第3次総合計画について教えてください。

鳥谷:第3次総合計画では出雲地方の方言で「ちょうど良い」を意味する「えすこ」というキーワードが出され、策定委員会を通じて市民権を得ています。

これまで雲南市ではチャレンジを掲げ、一点突破での課題解決を目指し、トップ層をモデルにやってきました。一方策定委員会では、チャレンジ疲れというか、チャレンジしていない人は認められていないような感覚があるという意見も散見されました。

これまでの10年はトップランナーが地域を牽引する姿が目立っていましたが、実は住民の皆さんも多様な地域活動をしています。それぞれがすでにやっていることを認めて、全体としてちょうどいいところを目指そうという発言に共感が集まりました。

自治にしても、多数決でAかBかを決めるのではなく、折衷案的なCをつくっていく時代なのではと感じています。そのためには対話や問いが必要です。「えすこ」にはウェルビーイング的な意味合いも含まれていると思います。ぼんやりしたビジョンかもしれませんが、一人ひとり違う「えすこ」なあり方をみんなで考え、認め合っていくことが大切なのではないでしょうか。

これまでの協働やチャレンジがあったからこそ出てきた市民の声だと思います。個人的には「これしかないかなぁ」としっくりくる感覚がありました。

山元:地域自主組織でずっと活動されてきたシニアの方が、「えすこ」とは「自分も周りもみんながちょうど良い。誰かがめちゃくちゃ損したりしないことだ」と説明してくださったことが印象に残っています。

鳥谷:「えすこな雲南市」の実現に向け、暮らし、人づくり、価値創造の3つを柱として、それぞれシンボルプロジェクトとなるような事業案も生まれています。協働よりもう一段階上げて、これまで培ってきたつながりや支援を総動員しながら、具体的にどう動かしていくか知恵を絞っているところです。

今後の雲南市の可能性と、乗り越えるべき課題とは

山元:「総働」が「えすこな雲南市」を実現する鍵となるということですね。最後にスピーカーのお三方にも、今後の雲南市の可能性と、乗り越えるべき部分についてお聞かせください。

佐藤:そこに暮らす市民と向き合いつつ、守るために意図的にハレーションを起こすことも必要だと思います。社会が変わるとき、そのしわ寄せは弱いところに現れますから、そこで反発しないといけません。ハレーションが起きることは、変わりつつあるという証拠でもあります。

雲南市では外からの力をうまく借りることもノウハウとして蓄積してきているので、それを活かしていくことや、市民自らの資金獲得と投資が進むといいなと考えています。

矢田:地域ではそれぞれが主人公です。一人ひとりへのフォーカスを忘れず、自主的な取り組みを認めていくスタンスが大事になってくると思います。一方で、チャレンジしている人へのリスペクトも必要です。エネルギッシュなチャレンジを止めないことは、行政の政策だけではカバーできない市民の動きを促すことにもつながります。

それから雲南には、難易度の高い挑戦をしているのに肩に力が入っていない、自然体で地域と関わっている方がたくさんいます。フィールドワークなどでは、話の内容よりもぜひそんな「スタンス」に注目すると良いかもしれません。

高橋:親や生まれてくる地域は選べませんが、地域にはたまたま生まれ落ちたという偶然を必然にする人たちがいます。静かなオーナーシップをもっている人たちです。

雲南でももともと暮らしている方と移住者の方との溝はあるかもしれませんが、「この地域をなんとかしたい」という思いは共通だと思います。ときどきケンカをしながら、時には距離を保ちながら「えすこな雲南市」の実現に向けて動いていけたら良いのではないでしょうか。

地方創生は暗中模索です。人生でも、迷ったら前や横じゃなく後ろを見ろと言われます。答えは未来でもなく、ほかと比べるのでもなく、後ろを振り返ると見えてくるんです。そこには自分たちが歩いてきた軌跡・足跡があるので、その延長線上に踏み出すことができます。これまでの10年を振り返ってこれからの10年を考える機会はあまりないと思いますので、この3日間をぜひ有意義に過ごしてください。

オープニングセッションの模様は、こちらからもご覧いただけます↓

<登壇者プロフィール詳細>
佐藤 満(さとう みつる)さん
幸福な自治研究所 所長/元雲南市政策企画部長

雲南市合併前の協議会事務局から政策企画部政策推進課長などを経て、2014年4月から2020年3月まで雲南市政策企画部長を務める。地域自主組織(小規模多機能自治)の仕組みづくり、発足、運営に携わった他、人材育成を中心とする「子ども×若者×大人×企業チャレンジ」によるソーシャルチャレンジバレー構想を推進。退職後、2021年5月に「幸福な自治研究所」を立ち上げ。いくつかの団体支援を通じ、「自然関係資本」「人間関係資本」などの地域における再評価と次世代への継承活動を支援中。

高橋 博之(たかはし ひろゆき)さん
株式会社雨風太陽 代表取締役社長

1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。 代議士秘書等を経て、2006年岩手県議会議員に初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。震災後、復興の最前線に立つため岩手県知事選に出馬するも次点で落選、政界引退。2013年NPO法人東北開墾を立ち上げ、地方の生産者と都市の消費者をつなぐ、世界初の食べもの付き情報誌「東北食べる通信」を創刊し、編集長に就任。2015年株式会社雨風太陽を設立、代表取締役に就任。2023年12月、日本で初めてNPOとして創業した企業が上場を実現するインパクトIPOとして、東京証券取引所グロース市場へ株式を上場。2024年11月には、内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部が開催する「新しい地方経済・生活環境創生会議」の有識者構成員に就任。

鳥谷 健二(とや けんじ)さん
雲南市政策企画部政策推進課長

雲南市合併後、地域づくりや定住対策などの業務に携わった後、2013年4月に政策推進課へ異動。佐藤部長(現マネージャー)の下で、地方創生担当として総合戦略の推進のほか、若者や企業等によるソーシャルチャレンジを推進。2020年4月より現職。

矢田 明子(やた あきこ)さん
株式会社CNC 代表取締役/一般社団法人 Community Nurse Laboratory 代表理事

島根県出雲市出身。 父の死をきっかけにコミュニティナース着想。2014年島根大学医学部看護学科卒業後、自身も活動しながらコミュニティナーシングの担い手の育成を開始。2017年Community Nurse Company株式会社を設立し、コミュニティナーシングの社会実装を本格化。2020年一般社団法人Community Nurse Laboratoryを創業し学生への普及啓蒙を開始。その他官公庁の有識者委員なども歴任。

山元 圭太(やまもと けいた)さん
雲南市地方創生アドバイザー

1982年滋賀生まれ。同志社大学卒業後、企業やNPOでファンドレイジングや経営支援に携わり、2014年に独立。2018年に合同会社喜代七を設立。「地域を育む生態系づくり」を掲げ、地域自治や持続可能なまちづくりに取り組む。特に島根県雲南市では2015年から地方創生アドバイザーとして、地方創生総合戦略の推進プロセスを伴走。2022年からは株式会社CNCに参画し、現在は執行役員として全国のプロジェクトに取り組むほか、NPO法人日本ファンドレイジング協会副代表理事など複数の役職を兼任。


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この記事を書いた人
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宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。
その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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