
「人口減少」「少子高齢化」「AIの発達」「グローバル化」「VUCA」──これからの未来を担う若者はこれまでとは違った時代を生きていくこととなります。このような時代では自ら未来を切り拓く「アントレプレナーシップ(※)」の重要性が高まり、公教育・行政・民間とさまざまな機関によるアントレプレナーシップ教育が広がっています。
このセッションでは、それぞれの現場での事例や設計思想を共有しながら、「これからの時代のアントレプレナーシップ教育のあり方」を考えました。
※アントレプレナーシップとは、一般的に起業家精神を指し、新しいビジネスやアイデアを創出して、それを実行するための考え方や行動力を意味します。
アントレプレナーシップという価値観をどう共有していくのか?
杉山 : それぞれの取り組みにおいてどうアントレプレナーシップという価値観を学生や関係者に共有しているのでしょうか?
秋元 : 武蔵野大学EMC(アントレプレナーシップ学部)では次の3つの価値観を大切にしています。
①先生がみな起業家
②人の夢を笑わないというカルチャーが全員に共有されている
③1年生だけ寮生活で同じ釜の飯を食う
そして、年に2回ほど教員がミッションやビジョンを共有する合宿を、大学設立前から行っています。教員が3つの価値観を共有していることと学生寮の存在は大きいです。学生寮には学部長も一緒に住むことで、繰り返し価値観を伝えるだけではなく、一緒に過ごす時間での対話を通じて、それが自然にインストールされていくという積み重ねをしていますね。
浜中 : 大学生のインターンシップや創業サポートプログラム「mocteco(モクテコ)」では、「いいじゃん、やってみたまえ!」みたいな文化を大事にしていて。できない理由や穴を指摘し始めると、もう無限にできちゃうんですよね。「ここ面白いよね」とか「ここを伸ばしていったら何か形になりそうだね」と、いいところをつまんでそれをディスカッションするっていうことをやっています。
鈴木 : 神山まるごと高専ではビジョンに「β(ベータ) メンタリティ」を掲げ、起業家講師の方が2週間に1回ぐらい来てくださって、学生たちに話をするアントレプレナー講座を行っています。βメンタリティとは、「全ては成長の途上にある」というスタンスです。全てはβ版・仮説・未完成である。だからこそアップデートを続け、完成形はなく成長し続ける、という意図です。

アントレプレナーシップは誰の中にも必ずある
杉山 : やりたいことが見えず言語化ができないなど、そういったケースの学生はどうやってテーマを見つけて、一歩目のアクションを生み出せるようにしているのでしょうか?
浜中 : エンブリッジでは0から0.1にするぐらいのところからやるので、「何かやりたいんす」という子たちも結構来ます。 そのときはもう、一緒に人生をさかのぼりながら、何を感じて生きてきたかをディスカッションして、自分の中で熱くなった瞬間を振り返り起業する種を探して、それを形にするサポートをしています。
アイデアはこちらからはあんまり出さないんですよね。 彼らが持ってるものの中で、「これは形になりそうだ」という要素をどうやって抽出するかを考えます。
秋元 : 武蔵野EMCも学部の名前だけ見ると、なんかすごいやつが来てそうじゃないですか。でも全然そうじゃなくて、入った段階から「起業したい」と考えてる学生は1/4もいません。逆にこの4年間で僕がEMCから教えてもらったことは、アントレプレナーシップは必ず誰の中にもあって、環境や状況を通じて育まれるものだということです。
明確に夢ややりたいことがある人はほとんどいませんが、好きなことや興味があることはみんな持ってるじゃないですか。それを調べたり、考えてみたり、やってみたりとか、それでいいんだと思うんですよね。
他にも、既に事業を始めた人や、やってみて結果を出した・出せなかったに関わらず、ゲストに来てもらったり対話を通じたりして、「自分もやってみたい」「面白そうだ」と感じてもらう機会を作るようにしています。
鈴木 : 高専にいるのは15歳から17歳の子です。入学時は何かやりたい!と思っても、思春期ですし、少し斜に構えたり、迷いながら、「やりたいことがない」と言うこともあります。
でも皆さんに注目してもらっている学校なので、毎日誰かが視察にきたり、取材も入ったりして、「何をやりたいですか?」と高専生たちは聞かれたりします。そういった環境で学生達は焦ってしまうかもしれないけど、彼らが自分から言いたくなるのを開花されるタイミングを待つことも大事な要素だと考えています。
かっこいい大人はたくさんいるので、チャレコミにはそこの繋ぎ役を期待したい
杉山 : チャレコミとして、今後、日本のアントレプレナーシップ教育にどのような価値を提供し、どのような役割を担っていくべきでしょうか?
秋元 : 最初は学内で何十社かを用意して、インターンシップのマッチングフェアをやってたんですが、学生たちが自分で探してきて、1年生からどんどんインターンに行くようになったので、去年でやめました。ただそうしたときに見つけにくいのが、地域でのインターンとグローバルのインターンです。
学部としても、もう少しグローバルやローカルに意図的にインターンを送り込むために、例えば、そういうインターンを選ぶ学生に対しては、奨学金のような制度を整えてどんどん推奨したいけれど、そもそもローカルやグローバルのインターンを見つけるためにはコーディネーターが存在しないと難しい。地域にかっこいい大人はたくさんいるので、チャレコミには想いを持った学生と、かっこいい大人のつなぎ役を期待したい。
質問者 : アントレ教育が、高校の探究学習や大学の総合設計型選抜の流れで高校生にも広がっている中で、そのプログラムを作るだけではなく、その後の工程として地域での実践型インターンシップをコーディネートができるのは、私たちチャレコミだけなのではないかと思っています。地域でのアントレ教育の価値は何だと思いますか?
浜中 : プレイヤーが1人いるだけで、その地域はすごく変わります。例えば、1000人ほどの規模の村で「起業します!」という子が出てきたとして、その子が1人いるだけで、その町の名前がいろんなところに売れていくので、地域でこそ、起業支援をやるのは可能性があると感じています。 その際に地域の中だけでやらないことは大事。学生を積極的に外に送り出して、視座を高めていく必要もあると思います。

自分たちも挑戦する姿を見せ、共に環境をつくっていく
杉山 : 最後に、今後やりたいことや会場へのメッセージはありますか?
秋元 : 私にとっては、やっぱりチャレコミは原点であり、今回の20周年イベントに来て、次の仕事は何しようかなと考えたときに、やはり「好きな街で仕事を作り、好きな街をより良くしていく」ことを今一度、次のチャレンジとして目指したいなと改めて感じました。
もう一つは、G-net時代からやりたいと思いながら実現できていなかった取り組みで、「挑戦に対する賞」を作りたいと思っています。成功失敗に関わらず、「挑戦そのものが素晴らしい」ということが表彰されて、尊ばれる社会になると素晴らしいと考えています。
鈴木 : チャレコミには立ち上がりのときからずっと関わってきましたが、すごく大事だと思うのは、人間はやっぱり環境の動物であるので、どの環境にいるかによって自分の当たり前が変わるということです。
ここは「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」だから、チャレンジしていくことが当たり前で尊いですし、応援したいというコミュニティです。会場の皆さんも、ぜひ現場でそういう環境を作っていくことを一緒にできたらと思います。
浜中 : 起業支援してて感じるのは、支援する側がとても楽しいということですね。いろんな学生たちのチャレンジの場に立ち会えるのは、ある意味すごくエンターテイメントだと思うので、それを楽しんでやれる人が世の中にもっと増えてほしいと感じています。今日お集まりいただいた皆さんの中にも、地域でそういった取り組みをやりたいという方がいれば、一緒にチャレンジが生まれる仕組みを作っていきましょう。
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