
エティックは、若手の社会起業家たち計8名が卒業した2024年度の「社会起業塾イニシアティブ」最終報告会を、2025年3月10日、都内で開催しました。
約半年の間、組織や事業の基盤作りに取り組みながら、事業をブラッシュアップさせていくこのプログラム。今記事では、2024年度に参加した計8組の卒業生のうち、武田勇さんの事業報告と各メンターからの意見をご紹介します。
自分も家族も大切にできる老後を。「オヤシルインタビュー」

- 分野
ライフスタイル・安心安全
- 事業内容
家族の老後の備えを支援するサービス「オヤシルインタビュー」を家族向けに提供。高齢化で家族介護者(ケアラー)が増加する中、親子での備えができている割合は全体の1割といわれている。備えなく、いざ命の危機が迫ったとき、自らの意思で決めたり他者に伝えたりできる人の割合は3割。つまり、備えがなければ、本人・家族に負担や後悔の残る老後となるリスクが高まることに。オヤシルでは、家族で老後の備えの話しづらさを解消すべく、子の代わりに親世代のこれまでの大切な出来事とともに、介護や終末期の意向を深く聞き、記録し、家族に共有するアプローチを追求している。
- 活動地域
国内全域
当事者の自分だからこそ親世代と向き合うパートナーに
社会起業塾での実践が始まってから、自分自身が当事者だと気づきました。だからこそ親と向き合うことの辛さを感じ、誰かが「自分だけで向き合わなくてもいい」と思えるコミュニケーションパートナーになりたいと伝えられるようになりました。
僕は母子家庭で育ち、母親と弟が一番大事な人間です。4歳のとき、「死んだら嫌だ」と泣きじゃくり、母親を困らせたことがあります。そんな経験をもとに作った組織のミッションは、「後悔しない親子関係が続く社会」です。「好き」「ありがとう」という気持ちを込めて、親世代のやりたいことや介護などもしっかりと受けとめられる事業づくりに取り組んでいます。

社会起業塾の期間中に行った調査結果では、子どもから親、親から子どもへ伝えたいことの大半は、「感謝」と「愛」だと分かりました。それぞれ相手に聞きたいことは、万が一の場合の意向です。
調査では、子どもが親に伝えることの難しさを感じている割合が多いことも分かりました。ヒアリングを通して分かったのは、「帰省など親とじっくり話す機会がない」「気恥ずかしい」「抵抗がある」「親からはぐらかされる」「今じゃなくてもいいのではないか」といった声でした。

オヤシルでは、親世代と子ども世代のコミュニケーションパートナーとして、「オヤシルインタビュー」を行っています。これは、第三者として親御さんの人生を聞き、インタビューを映像・記事化して子どもに届けるものです。そのほか、法人を対象にしたセミナーでは、今だからこそできる家族の備えとして必要なケアのリテラシー向上につながる内容を提供。さらに、高齢の親御さんを対象にした「終活カウンセラー」として、人生を振り返りながらうれしかったことなどを語り合う場づくりも行っています。
例えば、ある方は、自営業の父親が先のことをどう考えているのか、話を聞きたくても父親のプライドが高くて話が進まないという悩みを持っていました。サービス提供後は、親御さんがどんな思いで仕事を頑張っているかを知ることができ、家族で保険の見直しをするきっかけにもなったそうです。親御さん自身も、大事にしたい価値観に触れることができたとのこと。その後は、介護の可能性にも触れてもらうなど、僕たちは第三者だからこその価値を、工夫しながら発揮できるように関わっています。
「オヤシルインタビュー」の大きな価値は、大事にしたい気持ちを形に残せることだと実感しています。僕自身が当事者だからこそ、第三者との関わりによってうれしいと思える形は何かを追求すること、また、自分自身がサービスを提供することに意味があると思っています。
社会起業塾では、4歳の頃の自分の気持ちとも向き合うことになり、恥ずかしさが湧いてくるなど高いハードルもいくつかありましたが、幼い頃の素直な気持ちと向き合ったからこそ、同じ当事者の方に納得感のあるサービス提供を形にできると気づくこともできました。これからも、当事者として後悔のない人生が続く社会をつくっていきたいし、ご家族にとって大切なパートナーになれたらと思っています。オヤシルのことを、知る人ぞ知るではなく、多くの人に知ってほしいです。
有償の事業ならではの厳しい挑戦から価値が創られた
<メンター : 渡邊氏のコメント>
武田さんは、今回、思いや事業を自分の言葉で語ることができた、すごく大事な半年間になったのではないでしょうか。お母様もすごく幸せだと思います。
事業の柱である「オヤシルインタビュー」はすごくいいプロダクトで、いろいろな可能性を秘めていると感じています。有償の事業として提供するという、厳しい状況で挑戦されていますが、それでも事業の価値や自身の大きな成長が感じられたのではないでしょうか。ご自身が親御さんを亡くされた経験を伝えていくことも含めて、対象者の方にとって大事な事業だと思ってもらえることを願っています。
オヤシルの壁の乗り越え方は様々な人のモデルに
<メンター : 大西氏のコメント>
武田さんは、社会起業塾では、自分自身の在り方や家族と向き合い、苦しいこと、辛いことがたくさんあったと思います。ご家族、親しい関係性の方とのコミュニケーションをどうすればいいか、葛藤もあったと思いますが、オヤシルの乗り越え方はいろんな人たちのモデルになるかもしれません。そういったモデルが生まれると最も届けたい人に届けられるサービスになるのではないでしょうか。
また、家族との死別が孤独感に対してとても大きな影響を与えることは内閣府の調査でも分かっていて、その背景には、亡くなった家族と生前に納得のできるコミュニケーションが取れていなかったなど後悔、喪失感、寂しさがあることも分かってきています。そういったところにどうアプローチしていくか、社会課題としてこれからの大きなテーマになるのではないかと思いました。
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