
2025年3月10日、エティックは、「社会起業塾イニシアティブ」2024年度の最終報告会を都内で開催しました。卒業生の計8名が、半年の間、組織や事業作りに伴走した計4名のメンターを前に、これから世に出す新たな事業について発表しました。
今回、山家ヤスエさんの事業と成果報告、また、各メンターからのコメントをご紹介します。
外国ルーツの子どもを誰も取り残さない教育支援事業

- 分野
教育・子育て
- 事業内容
ブラジルにルーツを持つ子どもたちの学ぶ権利や学びへのアクセスを保障するために、さまざまな活動を展開。約30年前に設立し、愛知県豊田市でブラジル学校「エスコーラ・ネクター」を開校・運営、主に既存の教育システムでは支援が届かない子どもたちを対象に学ぶ機会を提供している。進学支援プログラムやアフタースクールなど、子どもたちの多様なニーズに応えるための取り組みも行っている。
- 活動地域
愛知県豊田市
自分とまわりの子どもたちの境遇の違いを認識し、取り組みへ
私たちは、「誰も取り残されない多文化共生社会」の実現を目指して、愛知県豊田市でブラジル学校を運営しています。私自身、リオデジャネイロ出身のブラジル人で、3歳でブラジルから来日したブラジルルーツの子どもでした。来日後は、愛知県最大のブラジリアンタウンで育ちました。愛知県には今6万人ほどのブラジル人が住んでいますが、豊田市には6千人いる中で、私が育った団地には3千人以上のブラジル人が暮らしています。
90年代頃から日本には多くの日系ブラジル人が労働力として来日しましたが、地域の現場は学校体制も含めて、受け入れ態勢が整っていないのが現状です。私が育った団地では多くの子どもが学校に通えなかったり、学校に通えていても学びが満足ではなかったりという状況でした。私は、団地の中では、ブラジル人として初めて大学に進学できたのですが、その後、それは「運が良かっただけ」だと気づくことになります。
3歳で来日後、保育園、小学校に通いながら、放課後は毎日ポルトガル語を勉強し、高校、大学、大学院に進学しました。その過程では、中学校まではブラジル人が1クラス10人くらいいたのが、高校では1、2人に減り、大学に進学すると見かけることはなくなりました。その状況に疑問を持ち、外国人ルーツの子どもの現状に目を向けたとき、自分の境遇との違いを認識し、理解しました。

実際のところ、日本では15万人ほどの外国人の子どもたちが暮らしていますが、1万人以上が未就学児で、学校にも通っていない、学校に籍を置いていないという状況に置かれています。登校できていても、公立校に在籍している子どもたちのうち約5万人が「日本語で勉強するのが難しい」など、本格的な学びにアクセスできていない諸事情を抱えています。
私が特に心を痛めているのは、そういった子どもの中で最も多いのがブラジルルーツの子どもたちという現状です。自分は当事者として取り組む必要性を感じて、NPO法人希望の光の活動を行ってきました。

現在、ブラジル学校を軸に、「言葉でつなぐ」、「孤立を防ぐ」ことから「社会参画」まで4つの事業を行っています。孤立状況にある子どもを対象にした「希望フリースクール」は、ポルトガル語で安心して学べる環境づくりをするほか、母語で教科を学びながら日本語も学べるブラジル学校の運営もしています。
また、日本の学校に在籍している子たちには、不登校の予防策として放課後の支援教室をし、高校を卒業したブラジルルーツの若者向けには進学支援プログラムを運営しています。こんなふうに、子どもたちが社会から置いていかれることなく、社会に参加できるような事業づくりに注力しています。若者の進学や社会参画の機会を増やすことで、彼らが次世代のリーダーとして社会変革に挑戦してもらえればと思っています。
社会起業塾での思い出は、「弾けたこと」です(笑)。私たちは、ブラジル人によるブラジル人の支援を長年行ってきましたが、振り返ると、自分たちのバブルの中に閉じこもっていたようにも思います。でも現在は、日本社会と連携しながら、支援を必要とするコミュニティと支援を創るコミュニティがつながるその加速感をすごく感じています。
最初の一人だった自分を仕組み化
<メンター : 大西氏のコメント>
山家さんは、めちゃくちゃパワフルで、ブラジリアンタウンの団地に住む人たちのファーストペンギンのモデルだと思います。組織基盤づくりなど様々なプロセスを経て、事業のイメージ、モデル、方向性などを整理しながら先を目指せたこと自体が本当にすばらしいです。最初の一人だった自身を仕組みにした事業作りは、これからの時代すごく求められていると思います。
また、母国語というアイデンティティをすごく大事にしていくなかで、2つの言語や文化の懸け橋になる人たちが増えていくと、これからの時代の一つの道しるべになるのかなと思います。
言葉の壁で学びや活躍の機会を制限された子どもの可能性を開く
<メンター : 竹内氏のコメント>
山家さんのプログラムは、聞けば聞くほど理論的かつ実践的で、幼少期から言葉の壁があることで学びや活躍の機会を制限されている子どもたちの可能性を確実に拓くものだと思います。今後は、しっかりと構築されたノウハウをより発展的に開発を加えながら明文化すること、しっかりと仲間を集めて広げていくことができるのではないでしょうか。

社会起業塾での半年間はそのための組織体制をどうするか、組織の課題に目を向けた半年だったと思います。これからは外の力をもっと借りていくときだと思うので、自信を持って積極的に発信していってほしい。みんなが協力する価値があるすばらしいプロジェクトです。これからも応援しています。
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