
地域でのチャレンジを生み出す上で欠かせない、「コーディネーター」という存在。多様なスキルが求められることから、さまざまなキャリアを歩める可能性があります。
本セッションでは、コーディネーターを経て、バラエティに富んだキャリアを築いているゲストをお呼びし、キャリアの中で得られること、その先に描けることを考えます。コーディネーターに興味がある方や若手コーディネーターの方、これからどうキャリアを築いていくか迷っている方は一緒に考えていきましょう。
コーディネーターのスキルは他の領域でも活かせるのか?
岩本 : コーディネーターは「何でも屋さん」と呼ばれることもあり、幅広いスキルが求められます。今回は、コーディネーターとしての成長だけでなく、他の領域でスキルを活かす可能性や、ロールモデルの存在、キャリアステップ、培ったスキルがキャリア形成にどう役に立つのか、その価値についても考えていきたいと思います。これらが見えてくることで、コーディネーターを目指す人が増えるきっかけになるかもしれません。

左 : 西尾陽平さん。右 : 島田勝彰さん
西尾 : 最初の転職のときは、「コーディネーターとしてのスキルが活かせるシーンって少ないな」と悩んでいましたが、年齢を重ねるうちにコーディネーターのスキルを活かせる部分があると感じるようになりました。少ないかもしれませんが、お伝えできることがあればと思います。
島田 : 今、こういったポジションで働けているのは、コーディネートのスキルがあってこそだと感じています。長い人生において、誰にでもキャリアチェンジするタイミングは必ず来ますし、そのときにコーディネーターとしての学びは絶対に活きると、この年齢になって分かりつつあります。それをお伝えしていきたいですね。
コーディネーターの存在意義が高まっている。部活のマネージャーからチームのリーダーへ
島田 : 昔「コーディネーターってなんですか?」とエティックに聞いたことがあります。でも教えてくれないんですよ(笑)。僕は言語化したくてモヤモヤしていましたが、今は教えてくれなかった理由がすごくわかる。定義がないんです。これだけ世の中ではいろんな物事を調べられるようになったのに、分からないものに対してこれだけの人を集められることこそがコーディネーターではないかと、最近はそう思ってます。
岩本 : 正解がないからこそ自分で見つけていかなければなりませんが、腑に落ちるまでにどのような経験ができたらいいでしょうか?
島田 : そこで僕が取った手段は、「コーディネート」というスキルと「コーディネーター」という職業を分けることです。
「コーディネーターになりたくてなったのか?」と聞かれると、「違う」と答えます。でも、「コーディネートのスキルを使って仕事をしてますか?」と聞かれたら、「はい」と答えます。「コーディネーターですか?」と聞かれると、「僕の生き方がたまたま皆さんにはコーディネーターに見えるだけで、その意識はあまりありません」みたいな感覚になります。

西尾 : コーディネートの仕事はしていたけれど、どちらかといえば起業家だと思っていました。今は規模の大きな会社にいるのですが、さまざまな部署があります。言語が違う部署とコミュニケーションをとりながら一つのプロジェクトを推進していくことは、結局「コーディネート」なんですよね。なので、やっていることは一緒かなと思います。
島田 : 最近はコーディネーターの存在意義がグレードアップしたと感じています。当時は本当に補助的な役割が大きくて、どちらかというと、リーダーにはなれないけどサポーターになりたい人がコーディネーターを選ぶような位置付け。昔でいう部活のマネージャー的な存在だったのに、今ではリーダーシップの中にコーディネーターの要素がすごく求められるようになりました。コーディネーターという立ち位置が、リーダーのポジションに格上げされたように感じます。
西尾 : 自分がIT企業の仕事をしていても思うんですけど、コーディネートスキルが必要なんですよ。すごく時代が変わったなと思います。
どんな経験を踏まえてコーディネーターになるべき?
西尾 : コーディネーターとして受け入れ企業さんと目線を合わせるときに、「起業した経験」はすごく有効だったなと感じていました。自分自身がチャレンジャーであって、同じ目線を持っていないと信頼を勝ち取れないんですよね。スキルよりも経験をしていることの方が、ある意味すごく良かったです。
当時、奈良県で、とある小売店が移動スーパーを運営していました。そのスーパーの店長を学生インターン生に任せるというのが、当時立ち上げられたプロジェクトです。その企業の社長は、先代の社長が急逝されたのを機に地元に戻り、家業のスーパーを継いだ方でした。
あるとき社長に「ちょっとドライブしましょう」と誘われて話していたところ、当時その会社で起きていたトラブルや、社長が抱えていたしんどいことを相談してくださったんです。そのシーンはよく覚えていて、すごく嬉しかったんですよね。
島田 : 僕は先ほどもお伝えした通り、自分の生き方がコーディネーター的な要素を持っているだけなんです。だから「人のため」とかかっこよく言われるけど、僕は単純に仮面ライダーが好きでヒーローになりたいだけだと思ってます。
「変身」とかやってた5歳の頃から、何も変わっていません。ヒーローに憧れていて、ヒーローのような生き方が自分にとって満足できる生き方かなと。たぶん皆さんの言うコーディネーターという働き方が、僕にとってはヒーローに近いんですよね。
岩本 : どうなりたいかよりも、どうありたいかというbeingの方なんですね。そのbeingは変わっていくものでもあると思いますが、その点はどうお考えですか?
島田 : 僕としては「見つけるもの」ですね。コーチングを学ぶ機会をいただいたときに、そう気付きました。20代ぐらいまでの人は、その原体験を大体持っていると思います。
根底にありたいものが存在していて、その上にプログラミングコードが乗り、いろんなプログラムで書き換えられています。それを自分の中でリセットして、最初のコードを見つけられたときに、新しいコードを書き加えられるようになるんですよね。

西尾 : キャリアを内省して掘り下げられる人はそれでいいと思います。「自分は何がやりたいんだっけ?」という人には二つ道筋があって、一つはご縁に流されて正解にたどり着くこと。もう一つはキャリアをマーケティングと捉えることです。
自分を商材だと考え、競合がいないこのポジションで尖ればキャリアが開ける、といったマーケティング的な発想を持ち、どのマーケットで自分という商材が、どうフォーカスされるかを考えることが大事かなと思います。
今は本業があってコーディネーターに転職するのが難しい人でも、副業という形でコーディネーターを始めてキャリアの幅を広げていくことは、マーケティング的な観点から見てもすごくいい発想です。自分という人材が、どのような市場価値なのかを考えると、キャリアを見つけやすいのではないでしょうか。
島田 : マーケットイン型キャリアとプロダクトアウト型キャリアの違いですね。
※マーケットイン型キャリア…市場のニーズに合わせて自分のスキルやキャリアを構築する方法。プロダクトアウト型キャリア…自分の得意分野や興味を中心にキャリアを築く方法
西尾 : 自分が得意な方で見つけていければいいと思います。
コーディネーターに向き不向きはあるのか?
西尾 : 一つだけお伝えしたいのは、相手のことを理解しようとする姿勢やリスペクトを持っていないと、コーディネーターの役割はたぶん務まらないということです。
島田 : まず、この場にいる人は全員向いていると思っています。本当に嫌いだったら、人は「無関心」という選択をします。興味があってここにいる。あとはスキルとして磨くか磨かないかだけの話ではないでしょうか。
岩本 : 勝手ながら勇気をもらいました。苦手だと感じていても、向いてるかどうかではなく、磨きたいかどうかで取り組めたらいいですよね。悩むことは悪くないということでしょうか?
島田 : 悩むことは悪くないですが、悩みが悩みのままで終わるのは良くありません。また、コーディネーターという職業の視点から考えても、悩んでいる人に解決案を提案する立場のコーディネーターが「悩んでいていいよ」と言っちゃうのは本当に正しいのでしょうか。それでお金がもらえるならいいけど、実際はそんなに甘くはないです。
苦悩しながらでも、相手がその悩みを解決できるように手を動かしているかどうかが、僕は重要だと思いますし、コーディネーターは相手が解決できるまで信じて向き合うことが必要だと感じます。

西尾 : コーディネーターとしてお金をもらっている以上はプロなので、品質はちゃんと保っておかないといけません。少しモチベーションの話からはズレますが、自分のスキルだけで稼ぐ経験は重要で、自分の価値をプロ化して、一定の品質を保つ姿勢を身に付けることは大切かなと思っています。
岩本 : プライベートとの線引きはどうされていますか?
西尾 : 起業したときは、プライベートがなくて全部ごちゃごちゃだったので、正直しんどかったかもしれません。でも、精神的には自由だったんですよね。いつどこで何をしようが、結局は自分の責任なので。しんどいけど自由でした。
島田 : 今は補完し合える関係性に感謝しています。プライベートの充実が仕事の充実にもなるので、「こっちは楽しいけど、こっちはつまらない」と下手に切り分けるよりも、互いに補完し合う関係が大事だと思います。
例えば、お客さんから食事に誘われることがよくありますが、僕は行くようにしています。それは、お客さんを「ただのお客さん」としてではなく、人生において有益な存在として捉えているからです。僕はむしろ、仕事とプライベートを切り分けず、それぞれが補完するように結び付けてきた方かもしれないですね。
人は決断した回数だけ成長する、それはコーディネーターも同じ
西尾 : エティックの伊藤淳司さんに言われたことで特に覚えているのが、「人は決断した回数だけ成長する」という言葉です。コーディネートの中でも、任されたことだけでなく、自分の意思決定を積み重ねることでどんどん成長していくんだ、といった話を聞きました。
僕の場合は手段が「起業」だったので、どういうミッションにするか、どういう法人格であるか、誰を採用してどういう事業を作るか、どう資金調達するかなど、全て自分で決める必要がありました。それを若い頃に経験できて良かったです。
島田 : 経験を積むと、自分がうまくやれそうなところがわかってきます。その結果、未知なところに飛び込まなくなるんですよ。でも、コーディネーターの仕事ではそこに飛び込まなきゃいけないこともある。富山に全く来たことのない学生が、インターンシップという形で急に1ヶ月前にやって来るわけですから、何が起こるかわからないと考えると、自分もちゃんと飛び込めるようにしておきたいなと常日頃思っています。

これからコーディネーターになる方へのメッセージ
島田 : コーディネーターになってください(笑)。自分の生き方を「コーディネート」という言葉で表現できるのは、僕はやっぱり好きです。定義はないので、自分がコーディネーターだと思えばそれでいいと思います。市役所の職員でも、NPOの職員でも、自営業でも構いません。自分で「コーディネーターになれた」と思えたら、それは自分の生き方が少し見つかった瞬間かなと。そういうコーディネーターになってもらえたら嬉しいです。
西尾 : 「決断した回数だけ成長する」というのは、人生において重要なフレーズだと思っています。個人的には、どんな状況であっても生きていく力を身につけることは、個人としてのキャリアを歩んでいくときに結構大切だと感じています。
今は本業がある方も、会社が無くなったり、急に転職することになっても生きていけるスキルを身につけることが大事かなと思います。どこであっても生きていける能力が詰まってるのは、たぶんコーディネートのスキルではないでしょうか。
岩本 : 今日、お二人の話を聞いて、コーディネーターのキャリアには「こう歩まなければいけない」といった道があるわけではなくて、結局は自分がどうしたいのか、何を磨きたいのか、どうありたいかという、自分の心にちゃんと向き合うことが大切なんだなと学びました。私も頑張って向き合っていきたいと思います。
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